約半数の35校が破綻。法科大学院の大量閉校は誰が責任を取るのか

2011年からの7年間で35校の法科大学院がつぶれてしまった。もっとも多かった時期で74校。その半分近くが倒産するという、粗製濫造が招いた異常事態である。

獣医学部1校認可されるどうかより、国にとってはよほど深刻な問題である。募集停止した法科大学院を年度順に眺めてみよう。

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2011年度 姫路獨協大

2012年度 大宮法科大学院大、駿河台大、明治学院大、神戸学院大

2014年度 東北学院大、大阪学院大

2015年度 白鴎大、獨協大、東海大、関東学院大、大東文科大、新潟大、信州大、龍谷大、島根大、広島修道大、香川大、鹿児島大、久留米大

2016年度 国学院大、東洋大、神奈川大、山梨学院大、静岡大、愛知学院大、中京大、京都産業大、熊本大

2017年度 成蹊大、名城大

2018年度 北海学園大、青山学院大、立教大、桐蔭横浜大

このなかには、地方を代表する国立大学、人気が高い私立大学が並んでいる。かなり衝撃的な倒産劇だが、法科大学院に関わり合いを持つ文部科学省、法務省、日本弁護士会に危機感は見られない。ダメな法科大学院は淘汰されればいい、と思っているぐらいだ。

しかし、事は法科大学院個々の問題では済まされない。この国の法曹全体に関わってくる話である。

2017年の法科大学院の志願者数は全体で8159人、入学者は1704人。この数字からは全体像はピンとこないだろう。法科大学院制度スタート2年目の2005年の志願者数は約4万1756人、入学者数5544人だった(1年目の2004年は、志願者には新制度以前の司法試験浪人生が多く含まれたため7万人を超えており比較の対象としなかった)。

有名大でも司法試験合格率が1ケタ

2005年と2017年を比べると志願者は5分の1、入学者は3分の1に減ってしまった。これはかなりやばい数値である。10年ちょっとで弁護士、検察官、裁判官になりたいという優秀な人材を3万3000人も失ったのだから。法科大学院の入学者数も右肩下がりが止まらない。そしてもっと深刻なのが、司法試験合格者数の少なさ、合格率の低さである。

2016年の司法試験合格者は法科大学院修了生1348人。前年よりも316人も減っている。そして合格率はたったの20.7%だ。司法試験合格率は2006年度の46.3%をピークに年々、低下している。これは残念ながら、法科大学院生全体の質が下がったからだと言える。法科大学院入学者数=母数が3分の1になったことで、優秀な学生まで減ってしまったから、と多くの法科大学院関係者は見ている。

優秀な学生が集まらなかった法科大学院の合格率は悲惨だ。1ケタはざらで、年によっては合格者0人というところもある。そんな合格実績が低いところに入学しようとは思わない。定員割れが相次いだ。学生が来なければ授業料収入はない。法科大学院経営は行き詰まるのは当たり前であり、それが募集停止した35校なのである。

青山学院大2.5%、立教大7.87%、鹿児島大4.55%。これほど知名度が高い大学でも、募集停止に追い込まれるほどの司法試験合格率をはじき出してしまった。募集停止まではしていないが、苦戦しているのが近畿大2.63%、南山大3.70%、琉球大6.06%、日本大7.09%、筑波大7.14%、専修大9.8%など。いずれも法科大学院を運営するには危険水域であり、いつ募集停止になってもおかしくない。筑波大の低さはかなりショッキングである。

高校生が弁護士に憧れて、法科大学院に入る。私立ならば学費が2年で200万円、3年で300万円かかる(大学での法学の既修、未修で2年、3年のコースに分かれる)。しかし、合格できるのは5人に1人だ。医学部を卒業すれば国家試験に9割近くは合格するが、法科大学院はだれも法曹への道に進めるわけではない。そんな現実を見せつけられれば、法科大学院に進もうなんて思わない。

法科大学院に行かないルートでは6割合格

六法全書

卒業した母校がなくなってしまう。法科大学院の倒産で起きていることである。

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これが35校倒産の背景であり、法科大学院制度は構造的に破綻している。

なぜ、こんなことが起こったか。どこもかしこも法科大学院を作ろうとしたからである。これまで司法試験に何ら実績がないのに、たまたま法学部があるという理由で、「一流校」の証しとして、つまり、メンツのために作ってしまったところがある。そんな身の丈に合わない、そして、教育理念を持たない法科大学院はほとんど店じまいしてしまった。

母校を失うのは悲しい。元フジテレビアナウンサーの菊間千乃(ゆきの)さんは、2005年、大宮法科大学院大に入学。2010年に司法試験に合格した。しかし、彼女の最終学歴となる母校はすでに存在しない。

なお、司法試験には法科大学院に通わないで、「予備試験」を通過した者が受けられる制度がある。こちらの合格率は61.5%。正式名称は「司法試験予備試験」。時間的、経済的に法科大学院に通えない人向けの試験であり、これに合格すれば司法試験の受験資格を得られる。最近では、いわゆる「地頭」がいい天才、秀才たちが、「予備試験」ルートを使うようになった。それゆえ、年々、合格率が高くなっている。まるで法科大学院をばかにするような制度だ。これでは法科大学院を作った意味がない。

私学助成という名目で流れた税金

法科大学院の35校倒産について、誰かが責任をとったという話は聞いたことがない。会見を開いて謝罪もしていない。大学も、つぶした法科大学院を認可した文部科学省も、法曹養成で知恵を出した法務省や弁護士会も。法科大学院1校作るのに施設費、人件費などで億近い金がかかると言われる。ここには私学助成という名目で税金が導入されている。それが35校分、ムダになるわけだ。無責任すぎないか。

事の深刻さは税金の無駄遣いということだけではない。これだけ法曹志願者が減ってしまい、優秀な人材が他分野に流れることによって、20年、30年後、法曹界では人材不足が起こりはしないか。身近に優れた弁護士がいなくなったら。まともな裁判ができなくなったら。そんな危ない国になりはしないか。

これらが杞憂に終わるためにどうしたらいいか。法科大学院入学者が7割以上、法曹の道に進めるような制度に変えるしかない。医学部から医師になるという、専門家養成が保障されるルートの確立である。そのためには法科大学院の学生数を、だいたい毎年の司法試験合格者数に近づける「総量規制的」な荒療治が必要になる。獣医学部の新設が長い間抑制されていたのは供給過剰ぎみな獣医師を増やさないため、と同じような理屈だ。

文部科学省

文部科学省。法科大学院の倒産はいったい誰が責任を取るのか。

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全体的にはいまの法科大学院の定員数をさらに減らすしかない。特に東京大、慶應義塾大、早稲田大、中央大はまだ定員が多いので減らし、ここ数年で法科大学院がつぶれてしまい、法曹養成空白地域となった甲信越、山陰、四国にもう一度、作るべきであろう。

何か手を打たないと、これからも法科大学院の募集停止は続く。それでも国は市場の論理に委ねて淘汰されるのを眺めているだけなのか。施設のムダになるばかりではない。5人に1人しか司法試験に合格できないため、法科大学院修了生の試験不合格者で希望通りの職につけない者が少なからずおり(司法試験予備校関係者によれば、少なく見積もっても2500人以上)、彼らの人生設計も狂わせてしまっている。

法科大学院問題について、国は早急に解決できる手立てを講じてほしい。獣医学部以上に喫緊の課題である。

(法科大学院、司法試験合格者などのデータは全て法務省資料より)


小林哲夫:1960年生まれ。教育ジャーナリスト。おもに教育、社会運動問題を執筆。1994年から「大学ランキング」の編集者。おもな著書に『早慶MARCH』『高校紛争1969-1970 「闘争」の歴史と証言』『東大合格高校盛衰史』『ニッポンの大学』など。

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