「メール使わない、インスタは仕事ツール」24歳ミレニアル世代 投資家女子の実像

ポケット・サン

女性2人で創業したソギャルベンチャーズの共同創業者ポケット・サン。現在24歳。大学でアメリカに渡ったとき、クラスで唯一の外国人だった。「アウトサイダーの気持ちはよくわかる。でも違いを利用してインパクトを与えることができる」。

シリコンバレーでは現在、シードアクセラレーター大手「500 Startups」創業者のスキャンダルをきっかけとした「ベンチャーキャピタル(VC)の女性起業家に対するセクシャルハラスメント」が大きな問題となっている。

筆者が取材した米デル主催の女性起業家向け年次イベント「Dell Women’s Entrepreneur Network」(デル女性起業家ネットワーク、7月16日から3日間 開催)では、女性起業家にとっては日常だという声もあった。ある女性投資家は、VCのセクハラ問題について「多くの女性起業家が経験している。いま騒がれているのは氷山の一角に過ぎない」と語る。また、参加者の一人のオーストラリアの女性起業家もこうコメントする「誰も表立って言いたくないけど、よくある話」

その理由の一端は、VC業界が完全な男社会であることも無関係ではないだろう。そんな閉塞的な業界に挑む、ミレニアル世代かつ女性のベンチャーキャピタリストが現れた。

ベンチャーキャピタル業界は、男性社会である

audience

DELL

「VCの94%が男性。つまり、ベンチャー投資の意思決定は女性不在で行われている。雇用を生み既存産業を切り崩すのがベンチャーですが、世界がどこに向かうのかを左右しかねないような決断に、女性は関わっていない」

と、登壇したVCのポケット・サンは言う。彼女は現在24歳。ベンチャーキャピタル「ソギャルベンチャーズ」(SoGal Ventures)を立ち上げたばかりだ。サンが自らVCをはじめたもう1つのキーワードが、2000年以降に成人を迎えた世代などとされる"ミレニアル世代"だ。

「ミレニアル世代は国境を超えて類似性が強い。自分たちを世界の市民だと思っており、コミュニティ意識も強い。これからのブランドはコミュニティを作る必要がある」

と彼女は言う。2018年、ミレニアル世代は金額ベースで最大の購買層になるという予想もある。つまり、投資家と起業家のギャップは性別だけではなく、年齢でも指摘できるのだ。

サンは2014年11月にミレニアルの女性起業家向けのコミュニティ「ソギャル」(SoGal)を立ち上げた。そこでは、メンバーのほとんどが"出資が受けられない"と言う悩みを抱えていた。実際、2016年、ベンチャー投資が女性起業家に注がれたのわずか2.2%だった。

彼女が問題視するのは、この数字は2015年の2.76%からさらに下がっているということだ。アセットマネジメント業界をみても、プライベートエクイティやヘッジファンド含む総額71兆ドルの投資マネーのうち、女性が管理する比率はなんと1.1%にすぎない。

「この事実を知った時、"私がゲームを変えよう"と思った」

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ソギャルベンチャーズ創業のきっかけとなった女性起業家コミュニティ「ソギャル」

けれど、VCに入れたとしても、出世して意思決定を下すようになるには時間がかかる。そこで、同じくスタンフォード大学のベンチャー投資プログラムに参加していたエリザベス・ガルバット(Elizabeth Galbut)と、ソギャルベンチャーズを共同設立することにした。2015年のことだ。

当時23歳、「難しい戦いになることはわかっていました。でも、イノベーションは外からやってくる。この業界は前世紀のルールに基づいて機能しています。我々アウトサイダーは壁を破って、我々の時代を作らなければならないんです」と目を輝かせる。

メールは使わず、インスタグラムを活用する"ミレニアル投資家"スタイル

ポケット・サン(左)とエリザベス・ガルバット(右)

ポケット・サン(左)とエリザベス・ガルバット(右)。スタンフォード大のベンチャー投資プログラムで出会った。共に最年少だったという。

米ニューヨークを拠点とするガルバット氏がフィンテック、ヘルスケア、AIなどを見ているのに対し、シンガポールベースのサン氏はコンシューマー分野を得意とする。「やりながら学ぶ」と言う言葉通り、最初は自分たちの身銭から投資することから始めた。「1000ドル(約10万円)程度の少額だったこともある。笑っちゃうけどね」(サン)。

2017年初め、「ソギャルベンチャーズ ファンドI」として約10社に投資した。原稿執筆時点の運用総額は1500万ドル(16億7000万円)。パートナーのガルバットはMBAを取得したジョンズ・ホプキンズ大学のプログラムでベンチャー投資をしており、投資したベンチャーはすでに40社程度と言う。そのうち、2社がすでに買収されている。

投資先の選定条件は、起業家なら90%が女性、残りの10%は女性が共同創業者などに含まれていること。実際、女性に投資することはVCビジネスとしても魅力的だという。サンは言う。

「女性起業家の方が収益性が高く、投資対効果も高く、投資効率も高い。さらにはお得な価格で投資できる」

ポケット・サンのパネル登壇風景

パネルセッションに登壇するポケット・サン(写真左)

投資先には、フィットネスジムの月額制サービス(サブスクリプション)を提供するGuavaPass(シンガポール)、女性向けの性ビジネスプラットフォームUnbound(ニューヨーク)、アパレルのADAY(同)など。それぞれ健康、性、アパレルにおける問題に取り組む。「米国ではミレニアル世代の60%が保険に入っていないなど、健康は大きな問題。性ビジネスは男性が独占し、男性の目で作られている」

サンとガルバットは、同世代の起業家と同じ立場で話すことを心がけている。コミュニケーションの方法にも、ミレニアル世代の温度感を感じる。メールを使わない一方、インスタグラムは積極的に活用する。投資相手のインスタグラムは「見ていると、どんな製品やサービスを考えているのか、誰に会ったのかがわかる」とても重要な情報収集ツールだと語る。共に育たなければならないから、投資先をコントロールするような一方的なことはしない。「私たちはチアリーダー」とサン氏は笑う。

「日本女性は外の世界を見て」

日本市場は勉強中であり、今のところ日本の起業家に投資する計画はない。けれども、日本の女性起業家に対しては伝えたいことがあるとサンは語る。

「日本はアジアの中でも女性の社会進出が遅れており、企業のマネジメント層に占める女性の比率も低い。国内の考え方に縛られず、海外に出たり、外の文化からインスピレーションを受けてほしい」。ビジネス界で成功した女性が若い世代や学生を励ますことは、状況を変えることに繋がる、とも提案する。

現在2人は、2年後に展開するファンドIIに向けて準備を進めている。アジアと米国、2人のミレニアル女性投資家は、自分たちの世代の新しい世界を作ることができると信じている。

(本文敬称略)

(撮影:末岡洋子)

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