女子アナも愛用、アパレル冬の時代に"あの新興ブランド"が売れ続ける理由

ワンピースを広げる毛見純子さん

kayme創業者の毛見純子さん。マーケット感覚に裏打ちされたワンピースが国内外にファンを増やしている。

国内テレビ局の女子アナからロンドンの金融街シティで働くバンカーまで、「働く女性」の間で人気の日本のアパレルブランドがある。アパレル未経験だった毛見純子さんが6年前に創業したファッションベンチャー、kay me(ケイミー)だ。男性組織で働く中で、女性が昇進しても着られる「ちょうどいい仕事着がない」という実感とマーケット感覚に裏打ちされたブランド戦略が、国内外の女性の心にヒットしている。

昇進すると“服装難民”

「部長になったときに、どんな服を着ればいいのか本気で悩むようになりました」

かつて大手企業で部長職を務めた女性(46)は、そう振り返る。

それまではジーンズにチュニックというカジュアル路線だったが、立場が上がるとそうもいかない。セレクトショップに駆け込み、ジャケットとスカートの組み合わせをそろえた。だが、「どうしても教師風に見えて、部下や後輩の女子から怖がられているのでは」という想いが拭えなかった。一気に給料も上がったので、買おうと思えば海外の高級ブランドも買えた。だが、職場にはパートや契約、派遣などさまざまな立場の人がいる。悪目立ちするのでは、と心配になった。

“服装難民”になりかけていた頃、創業当時のケイミーに出合った。「働く女性を応援する」というコンセプトにひかれただけでなく、「とにかく着ていてラク。自宅で洗濯もできるし、当時からネットで買えたのも便利だった」。

今ではシーズンごとに新しいものを複数枚買うヘビーユーザーだ。

“作業服”へのあきらめ

キャリアを重ねていくうちに、女性は服装難民になる。これは、創業者の毛見さん自身が感じていることでもあった。

金融やコンサルなど、圧倒的に男性の多い業界の総合職女性は「浮かない」ことに気を使う。

男性中心の組織で働くキャリア女性には、ダークカラーのピンストライプスーツにメガネのような「男性の中に溶け込める格好」をあえてしている人が少なくない。本人たちに理由を聞くと、「これは作業服」「女を売りにしていると思われたくないから」と、あきらめモードだった。

毛見さんもダークカラーのスーツに身を包んでいた。

残業や休日出勤も当たり前の職場でかっちりしたジャケットは、決してラクではないし、人生の大半をダークカラーで過ごすことになる。

「本当は、明るい色の華やかな格好で営業に来られたら、やっぱり気を許しちゃうよね」「こんなこと言うとセクハラって言われるかな」と遠慮しつつも、取引先の経営者たちが時々、ちらりと漏らすホンネも気になっていた。

「女性がビジネスのためと思っている格好は、必ずしもビジネスに役立っているとは限らないと感じていました」

ロールモデルは祖母

毛見さんにとって働く女性のロールモデルは、京都で呉服店を営む、大正生まれの祖母だ。幼少期、祖父母の呉服店で、長い時間を過ごした。

「祖母と話しては、すっきりして帰るお客さんを見て、商売って面白いと心から思いました」

いつか事業を興すにしても「まずは組織を学びたい」。2000年代に入社したベネッセコーポレーションを経て、外資大手コンサル2社を経験した。

ベネッセでは、新人時代から予算も持たされ、法人営業に飛び込んだ。セールス&マーケティングの基礎を叩き込まれたコンサル時代は、いったんプロジェクトが始まれば、1日20時間勤務もザラにあり、土日返上も珍しくなかった。家に帰って1時間半だけ寝て、また会社に行く日も続いた。

コンサルに限らず大企業で総合職といえば激務で、女性が働き続ける選択は今よりさらにハードルが高かった。

何か働く女性を支える事業はできないか。

インタビューに答える毛見純子さん

働く女性のロールモデルは、大正生まれの祖母だという。

2008年に、マーケティングのコンサル事業で独立。順調に顧客もつく中で、転機は2011年3月に訪れた。 名古屋の会社に出張しているときに、東日本大震災が起きた。東京に戻ろうにも新幹線は止まっている。ローカル線でたどり着いた岐阜羽島で途中下車し、その晩は一泊した。

眠れぬまま天井を見上げているうちに、ずっと練り続けてきたことがその晩、全て頭の中でつながった。

「女性がステップアップしながらも、女性性を失わずにリラックスして働ける、手軽な仕事着が必要だ、と」

理想のワンピースがない

縮小するアパレル市場への進出は、マーケティング的には決して良くないことは認識していたが、「ニッチであればチャンスはあると思いました」。

長時間着用していても疲れにくく、ビジネスにも使えるが華もあり、朝のコーディネートに時間もかからないもの —— 。ならば、1着選べば済むワンピースだとひらめき、東京に戻った翌日には、スタッフ3人で市場調査をした。 銀座、有楽町界隈の3つの百貨店で、13ブランド426種類のワンピースを、1枚1枚手にとってタグや作りを確認し「自分の描く理想の1枚がすでに市場にあるのか」を調べた。 結果、1枚もなかった。

だったら自分が作ればいい。

ツテをたどって服の作り方から学び、デザイン、国内産にこだわった縫製工場探し、営業、販売、店舗設計も、すべて自ら手がけた。 そうして生まれたのが、ケイミーだ。

ケイミーブランドには、差別化と独自性を意識した、徹底したマーケティング戦略が集結している。

1. 負担をかけない

長時間着用しても疲れにくく、しわにならないを最重視し、ストレッチ素材を使用。毎回、クリーニングに出す手間を省くために、自宅の洗濯機で丸洗いができる。ワンピースなので上下のコーディネートにも時間がかからない。

2. ビジネスにOKの華やかさ

着物柄をモチーフにした鮮やかなデザインが特徴だ。ビジネスはオフィスで完結するわけではない。夜の会合やパーティーで、ダークカラーのスーツは固すぎるが、パーティードレスはやり過ぎだ。ジャケットさえ脱げば十分に華やかという、絶妙な位置づけを心がけた。

3. 手頃な価格設定

中心価格帯は2万〜3万円台に据えている。海外ブランドでフォーマルなワンピースを買おうとすれば、7〜8万円はする。気分を変えるために、複数枚購入できる範囲に設定した。

ケイミーのワンピースが陳列された店内

キャリア女性のニーズを押さえたワンピースは国内外で売れている。

kay me提供

販売チャネルも、多忙な女性の心をわしづかみにする。

「店舗まで行く時間がない」という人に対し、オンラインで選んだワンピースやジャケットなど5着までは、宅配により自宅で試着も可能だ。「書類在中」として会社で受け取りやすくする「会社便」や、着用目的、希望の色味などを答えれば、個人におすすめのワンピースを選んでくれる「コンシェルジュ便」も評判を呼んだ。

2012年に銀座本店とウェブ店舗を開設し、欧州市場調査も開始。「海外に出るならロンドン」と、ワンピースを詰めたカートを引いて、金融街シティで働く女性たちに売り込みに出かけた。 2015年には英国法人を設立し、その様子は「おとなしい日本人女性がなぜ」とBBCニュースに取り上げられた。

ブランド創設6年で銀座、新宿、羽田空港など国内8店舗のほか、期間限定店やオンライン販売も好調で、売り上げは毎年、右肩上がりを更新。今では日英はもとより、上海、サンフランシスコ、シンガポールなど各地にファンを増やしている。

服装から始めること

ケイミーのターゲットはマネジメントレベル(管理職以上)の女性だ。世界では拡大する層だが、日本市場でのパイは決して大きくない。むしろ日本では結婚や出産などライフイベントを経ながら働き続けること、ましてやキャリアアップをし、管理職になることに大きな不安を抱く女性は少なくない。

せめて自分にできることは「服装から始めること」だと思っている。

「前を向きたくなる服を着ることで、自分がチャンスをつかむこともある。華やかさやにこやかさが、周囲に影響することもある。視線を集めることでハードルは上がりますが、それをはねのけるくらいの力と自信をもってほしい」 と、全ての働く女性に願っている。

(撮影:今村拓馬)


毛見純子(けみ・じゅんこ):早稲田大学第一文学部卒業。ベネッセコーポレーション、プライスウォーターハウスクーパース、ボストンコンサルティンググループを経て、2008年にマーケティングのコンサルティング事業で独立。2011年5月にワンピースブランドkay meを立ち上げた。

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