グローバルリーダーが生き抜くための5つのルール —— メットライフ生命・シャーCEOが語る

インドで生まれ、アメリカで育ち、日本で暮らすサシン・N・シャー(Sachin N. Shah)氏。世界最大級の保険会社メットライフ(MetLife)の日本法人、メットライフ生命の最高経営責任者(CEO)である。「地味で、手続き書類が多い仕事」というイメージが残る保険会社に未来はないと訴え、メットライフを「保険×テクノロジー×ヘルスケア」企業に変身させようと、8月に50歳を迎えるリーダーは新たな挑戦に挑んでいる。

メットライフ生命、サシン・N・シャーCEO

イタリア系アメリカ人が多く住むコミュニティに入っていくことは、簡単ではなかったと語るシャー氏。異国で生きる術として、「スポーツはとても重要だ」と話す。

デジタル化やAI(人工知能)の進化、働き方の変化や人材の多様性、そして業界を越えたし烈な競争 —— いまだかつて経験したことのない速い変化を生き、従業員約8800人を率いるシャー氏が大切にしている人生のルールとは? 東京・紀尾井町にあるメットライフ生命のオフィスを尋ねた。


1. スポーツはイコライザー(平等化するもの)

シャー氏は小学生の頃、両親と共にインドからアメリカに移り住み、家族はイタリア人街に居を構える。イタリア系アメリカ人が多く住むコミュニティに入っていくことは、簡単ではなかったと語る。異国で生きる術として、「スポーツはとても重要だ」と話す。

「僕と僕の弟は、街の住人と違うんだと感じました。食べるものも違えば、体つきも違った。当時、僕たちはベジタリアンでした。痩せていて、体も小さかった。街のイタリア系アメリカ人のコミュニティに入ることは、とても大変でした。そこで僕たちは、アメリカで人気のあるスポーツを学びました。バスケットボール、野球、アメリカン・フットボール」

メットライフ生命CEO、サシン・N・シャー氏

シャー氏の妻も働く女性だった。週末を利用してMBAを取得し、製薬会社であるジョンソン&ジョンソンの幹部として働いていた。

「野球を高校と大学までやっていました。だから、今でも野球は大好きです。スポーツはイコライザー(平等化するもの)ですね、人と人をつなげる接着剤のように。移民の僕を受け入れ、その国の人とイコールになれたのは、スポーツのおかげでした。

だから、僕の子どもたちにもスポーツをさせました。娘は高校と大学で、長男も高校でサッカーをしていて、大学でも続けたいと考えています。スポーツは男性も女性も同じフィールドでコミュニケーションを取れる。だから、子ども達はたくさんスポーツをするのが良いと思っています。規律や自信を身につけるためにも、スポーツの役割は大きいと思うのです」

2. 女性の活躍場面を増やす

インドで法律を勉強していたシャー氏の母親は渡米後、昼間は企業で働き、夜は大学で勉強した。後に、一企業のIT部門を担当する幹部にまで昇進した。シャー氏の妻も働く女性だった。週末を利用してMBAを取得し、製薬会社であるジョンソン&ジョンソンの幹部として働いていた。今はアーティストとして活躍している。

「夫と妻が働きながら子どもを育てることは、チャレンジングです。しかし、女性が男性と同じように活躍できることは、社会にとってとても大切です。日本では、女性の経済的、政治的活躍はより重要です。低成長経済の今だからこそなおさら、女性の活躍が大切になってくる。日本は、女性がもっと活躍し、貢献できるような社会作りを、もっとスピーディーに進める必要があると思います」

3. 平日に2、3度の家族ディナーをする

妻と2人の息子と共に東京に住むシャー氏が、決めているルールの1つが、平日に2、3度、家族と夕食の時間を持つことである。

「自分の時間は大切です。たくさんの本を読むし、ジムでエクササイズもします。もっと重要なのが、家族と過ごす時間と仕事の時間をバランス良く保つこと。月曜日から金曜日まで、僕は最低2、3回は家族と夕食を共にする時間を作っています。夕方6時30分〜7時には、オフィスを出るようにしています」

4. 心を開いて、会社の外を見る

企業のマネジメントにおいて、シャー氏は「オープン・マインド(心を開くこと)」の重要性を強調する。

「多くの企業トップが陥りやすい問題が、会社の中ばかり見ることではないでしょうか。私たちの顧客は会社の外にいるのに。そして、会社の外の世界はとても速く動いています。そこで起こる変化もとても速い。

多くの場合、最良のアイデアは会社の外で見つかる。心をオープンにすることは、企業の経営幹部やリーダーにとってとても大切なことです。内向きになれば、たちまち会社と外の世界とが遮断されてしまい、顧客もどこかへ行ってしまいます。経営者がずっと社内にいれば、情報も入ってこなくなりますよね。経営者が情報を持たないということは、その企業の終わりを意味します

メットライフ生命CEO、サシン・N・シャー氏

「信用と約束は、人が運んでいくもの。ロボットは、ヒトの信用をリプレイスすることはできないと、思うのです」

「もう1つ大切にしていることは、謙虚であることです。リーダーシップというものは簡単なことではありません。リーダーは依存される存在だし、尊敬されるべき人ですね。

同時に、リーダーの成功は、周りの多くの人によるものが大きい。エゴを捨て、謙虚な心を持ち、社員をインスパイア(やる気にさせる)する人がリーダー、経営者だと思います。」

5. 保険会社の基盤を肝に銘じる

メットライフ生命は他の多くの企業と同じく、今後さらにAIの活用を拡大させる。同社は、デジタル・テクノロジーを使い、顧客とのエンゲージメントを増やし、ビジネス機会の増大を図っている。

「AIやロボットは多くのヒトの仕事を代替する」という考えは、各所で議論されている。だが、シャー氏は、AIが奪うことのできない、ヒトの大切な仕事があると話す。

「保険料をお客様からお預かりし、保険金をお支払いするとお約束をすることが私たちの仕事です。いわば、約束を売っているのです。私たちのビジネスは、信用と約束のビジネスです。信用と約束は、人が運んでいくもの。ロボットは、ヒトの信用をリプレイスすることはできないと思うのです。マシン・ラーニング(機械学習)は信用を作ることはできない。ロボティクスはヒトの単純作業の仕事を奪っていくでしょう。しかし、保険会社の基盤である信用と約束は、ヒトが支配していくものだと思います。」

(撮影:渡部幸和)

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