生活も仕事も共有し自室も隣人に解放する渋谷キャスト「Cift」——“拡張家族”という理想を求める29歳

西村創一朗さんと藤代健介さん

同じ世代のボーダレスワーカーとして、西村さん(右)が今最も注目しているという藤代さん。

西村創一朗(以下、西村):僕が最も注目しているスポット、「渋谷キャスト(SHIBUYA CAST.)」にやってきました。クリエーターが集まり、暮らし、働き、交わるための複合施設として、4月28日(渋谷の日)にオープンしたこの施設。第一線で活躍するクリエーターが集結して生まれた見所が話題になりましたが、僕が特に刺激を受けたのが「Cift」(シフト)です。40人の住人はのべ100カ所で多拠点生活をしながら100以上の肩書きで活躍しているとか。まさにボーダレスワーカーたちが集う場所。今日は、このCiftの発起人である藤代健介さんに話を聞きます。

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藤代健介(以下、藤代):ようこそ。1階から案内しながら、13階まで上がっていきましょう。入り口は街に融合するように道に面し、行き交う人が自由にくつろげる回遊空間になっています。

渋谷キャスト

渋谷キャストは地下2階地上16階建て。通りに面した広場やカフェなど、渋谷で暮らし、働く人が自由に行き交える雰囲気が満ちている。

西村:見上げると圧巻ですね〜。外観のデザインも未来的です。

藤代 :足元の貫通通路の環境演出は、メディアアートの第一人者、ライゾマティクスの仕事で、ビル表面のファサード(飾り)は noiz architectsによるものです。 いろんなクリエイターたちの集合知による「不揃いの調和」というのがコンセプトになっています。

西村:不揃いの調和。いい言葉ですね。

藤代 :1階の奥には200人収容できるイベント会場、近隣住民のための集会所、カフェやスーパーマーケットがあります。

西村:元は何が建っていたんですか?

藤代:都営住宅だったんです。東京都都市整備局の「都市再生ステップアッププロジェクト」の渋谷区第1弾として6年前から構想が始まったそうです。

僕は途中からコンサルタントとして参画して、いつのまにか自分も住人になってしまいました。2階にはコワーキングスペースとカフェ、3階から上はオフィス。13階から最上階の16階までが住居で、13階がCiftメンバーが入居するフロアです。ワンフロアに19世帯、約40人が入居しています。

西村:先着順で入居できるわけではないんですよね。

藤代:はい。全員、一人一人会って価値観を共有できたと思えた人たちに入居してもらっています。地の利や家賃といった条件だけで入居してきた人は一人もいません。特徴的なのは、住人の8割以上がここ以外にも生活拠点を持っている“多拠点生活者”であること。国内外のさまざまな場所で活動しながら、渋谷をもう一つの拠点に選んで働いている多種多様なワーカーが集まっています。下は0歳から上は50歳までが居住しています。

鍼灸セッションから法律相談まで。多様なコンセプトの部屋

西村:実際、どんな人たちが暮らしているんですか?

藤代:部屋を見てもらうのが早いと思うので、どうぞ。丹羽さん、入っていいですか?(「どうぞ!」という声)。ありがとう。ここは一番コンパクトな間取りで約8.5畳のワンルーム。京都と東京を拠点に、 組織活性化からアイデア創出まで幅広くファシリテーター活躍している丹羽妙(にわ・たえ)さんが 他に3人のメンバーとルームシェアをしています。

丹羽:ボディワークやメンタルヘルスなど、人をケアするメンバーが集まったから、「ケアルーム」 いうコンセプトの部屋にしているんです。 鍼灸のセッションや恋の相談(笑)なども行われています。ここに来ればいろんな人とつながれるのがいいですね。

藤代:この部屋の家賃は15万円くらいです。

西村:4人でシェアすれば悪くない値段ですよね。

藤代:ここはダイニングキッチンやトレーニングルームがあって、皆がゆっくり語らえるスペース。こちらの後藤さんは大阪を拠点に ソーシャルイノベーションを目的にした会社経営をしていて、ダボス会議のユースメンバーつながりなんです。少しだけ部屋を見せてもらってもいいですか?

後藤:今、渋谷の街を朝ランしてきたばかりなんだけど……。オーケーです。まだ家具がそろっていない状態ですが、どうぞ(後藤さんの部屋へ)。

渋谷キャスト

Ciftの住民が毎日のように食事を共にしているキッチンに面したベランダ。渋谷の街を一望できる。

西村:わぁ、広いですね。あ、キッチンに置かれている「HOOP」、僕が好きなブランドのコーヒーです。

後藤:僕、そのコーヒーの創業者メンバーです。

西村:ええ⁉ まさかここでお会いできるとは。渋谷以外では大阪拠点でビジネスを?

後藤:アトレという会社を経営していまして、Cift住人になってからは渋谷と大阪で半々、年に2カ月はキューバかな。 いくつかのビジネスを進めているのですが、HOOPでは世界中を旅しながら出合った“物語のあるコーヒー”を日本に紹介する仕事をしています。健介(藤代さんのこと)に出会ったのはたしかベトナム。で、ダボス会議関連のカンファレンスで再会したジュネーブで思い切り深まったんですよね。

藤代:後藤さんは僕の3歳くらい上で、この部屋には世界中から物語のあるコーヒーやワインを集めて、喫茶バーとして住人に解放する計画を立てているそうです。

西村:最高ですね。

藤代:さて、次は僕の部屋です。僕の他に3人と一緒に使っている部屋で、もうすぐ巨大な2段ベッドを置く予定。家具を造作できる住人が3、4人いるからそれも簡単なんです。

西村:いいなぁ。ケアルームだったり、バーだったり、その部屋の住人の個性が際立っているのが面白いですね。

藤代:他にも、法律相談所、音楽スタジオ、美容室、子ども部屋、雀荘…。いろんなコンセプトの部屋があります。こっちの部屋は住人の杉浦元さん(エリオスキャピタル代表)が、ひと部屋をミーティングルームとして開放しています。ほら、いつでも鍵が開いているんです。

人の思考や行動は環境設定次第で激変する

渋谷キャスト

会議室として解放されている部屋。個室を解放し、住民同士でシェアするのが、Ciftの日常風景。

西村:家賃を払っている部屋を隣人にも開放しているというのがとても新しいですね。これまでにもコレクティブハウスというのはあったけれど、ここまで住人同士が生活をシェアしているのは斬新ですね。食事も一緒に取ることが多いんですか?

藤代:Ciftにいるときはほぼ毎日誰かと一緒に食事をしています。では、キッチンで腰を落ち着けて話しましょうか。

渋谷キャスト

住民同士がいつでも語らうことができる空間がたっぷりと。

西村:今、少し見せていただいただけでもCiftの新規性が伝わってきましたが、多拠点ワーカーが生活レベルで深く結びつく新たな暮らしのモデルを作った藤代さん自身が何者なのかについて、まず教えてください。

藤代:はい。 きっかけは大学に入ってからですね。デザイン関係の仕事をしていた父親の影響からか、なんとなく理系を選択し、なんとなく建築学科を志望して、偏差値の関係でぎりぎり合格した東京理科大に進学しました。

千葉県野田市にあったキャンパスに当時集まっていたのが、 建築家の小嶋一浩さん、藤村龍至さん、ライゾマティクスの齋藤精一さんなど、非常に贅沢な陣営で。建築についての議論や発表に没頭して過ごしているうち、4年生の頃には「ビルディングとしての建築」 よりも「概念としての建築」に興味が移ってきました。

建築と社会のつながりの歴史を勉強していくと、1960年代の世界が激動する時代に活動していた建築集団が世界の様相に対して建築的なアプローチをする姿に関心を持つようになり、卒業論文ではその背景などを研究しました。卒業設計ではその21世紀版として、東日本大震災前後の世界の時代背景をとらえ、世界が多様だけれど一貫性のある一つの村になっていくという建築的未来神話を創造し、それをアルゴリズミックデザインという手法を使って地図情報を読み込み、村が世界中で自動生成される建築モデルを作りました。

西村:そんな面白いことをやっていたんですか! まだ学部生の頃ですよね。

藤代:大学4年間の学びとして一番大きかったのは、自分自身の変化でした。入学時点では普通の大学生だったのに、卒業する頃には建築や学問に対する意識がめちゃめちゃ変わっていて服も全身真っ黒に(笑)。人の思考や行動は環境設定次第で激変するんだと、身をもって強く実感しました。

つまり、自己成長のためには、“環境”という媒介が重要であると。だから進路をよく考えて、建築学科の大学院でなく、慶應大学大学院のメディアデザイン研究科(KMD)に進みました。 概念としての建築の価値をよりグローバルやテクノロジーやビジネスと結びつけたかったからです。

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西村:すぐに実社会に応用できる研究をしたかったんですね。

藤代:多重的な生き方を積極的に選ぶようになったのもその頃です。研究の傍ら、TEDxTokyoのボランティア活動をしたり、千葉の香取市で米作りをやったり、いくつもの拠点に身を置きながら自分の重心をどこに置くか測りながら生きるスタイルを選択するようになりました。

西村:なぜ多拠点スタイルを選ぶように?

藤代:結局、人は「誰と」と「なぜ」で価値観が培養されると思っているんです。誰とどのくらい過ごして、その環境になぜいるのか。そうやって過ごしていた大学院2年目で会社を起業したんです。はじめから就職は希望していませんでした。一つの所属先だけに縛られるのは、自分にとってはリスクだと思っていたので。

西村:就職がリスクだと?

週5フルタイムで所属するのはリスク

藤代:就職口はいくつかありました。でも、週5回、フルタイムで所属するのは、リスクがあるなと。僕はその瞬間その瞬間で、「誰と」と「なぜ」を自分に問いながら、何にコミットするかを決めていきたい。常に内なる自分の価値観を大事にしながら、外側の環境をしなやかに変化させていきたかった。そしたら面白い仲間とどんどん出合えて、今があります。

西村:Ciftには、どうつながっていくんですか?

藤代:立ち上げた会社は「理念を構造化し、それを内包する場を設計する」デザインコンサルティング業で、被災地コミュニティーの設計とか、 新しいコミュニティマンションのモデル設計とか、いろんなプロジェクトに関わらせてもらいました。面白かったのですが、コンサルタントの役割はどうしてもクライアントが求める正解を当てに行く作業として完結されるものだと思ってしまって、「あなたと私」の関係性の域を出ないものなのだと限界を感じてきたんです。

僕の人生のビジョンは「世界平和」なんですが、「あなたと私のWin-Win的関係性 」では平和には行き着くのは難しいと。 そうではなくて「私たちの共にあるCo-の関係性」を築いていきたいと思うようになりました。

西村:You&Iの関係性では、意識変容までできないということですね。

渋谷キャスト

共用スペースの一角。ここで日々、仕事と生活が混じり合うコミュニケーションが生まれている。

藤代:はい。そんな時、たまたま携わっていた仕事の一つだった渋谷キャストに目を向けて。これかもしれないと。打ち合わせの場で、「僕が最初の住人になって、リスクを取ります」と宣言して、その後、400人くらいの知り合いに説明しに行って、そのうち40人くらいが住人になってくれた。

西村:すごい成約率! しかも、その時点では建設中で内見もできないはずだし、家賃だって都心価格で決して安くはない。よほど藤代さんが描くゴールに深く共感したということですね。

共に暮らしながら拠点は複数持つ

藤代:僕が実現したいと説明していたのは、「共にある」という暮らし方です。生活と仕事を分けず、生活も仕事も共有しあって家族のように暮らす。もともとの血縁家族のような“無自覚の全体”から一度離れて、それぞれが個人として何らかのコトを成し遂げた後、再び“意識的に”集合する。するとその時、個人の役割は明確な“手段”になる。

さっき、僕は自分の経験から「環境次第で人は変わる」と言いましたが、「平和な社会のために、何かできる人になりたい」という近い価値観を持っている人たちが、それを大っぴらに口にして話し合える場所を与えられたら。しかも、それが日常化したらどうなるか。「俺はこういうことができる」「私はこういう人を連れて来られるよ」と、自分自身を手段化できるようになると思いませんか。

西村:すごく面白いです。今の社会では、自分の所属が目的化してしまっている人が多いですよね。本来的に仕事は幸せに生きるための手段でしかないはずなのに。手段を目的と履き違えなければ、過労死なんて起きるはずない。今、この生活を始めて2カ月過ぎたぐらいだと思いますが、どうですか?

藤代:毎日がすごく豊かだと思います。高い会食代を払ってハレの日を楽しむ生活とは真逆の、毎日誰かの手料理が食べられるケの日がすごく豊かな日々です。一緒に平和のための仕事のプロジェクトを進めているメンバーもたくさんいるし、このCift自体が共同実験のようなものだから、住人同士が「暮らしながら働く」を共有し、自己の範囲を広げていく“拡張家族”です。同じものを食べて腸内細菌まで交換し合っているからか、だんだん思考も似てきているような。

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西村:へぇ!

藤代:それは大きなリスクも内包している現象だと思っていて、コミュニティーが内側に向かい過ぎると排他的集団になってカルト化する可能性もはらんでいます。だからこその“多拠点生活のすすめ”なんです。所属先を複数持っているからこそ、安心して依存できる。

西村:なるほど。社会から断絶しない予防策としての多拠点主義でもあるんですね。

藤代:むしろ社会に対しては積極的に関わっていきたいと思っています。この新たな家族というかコミュニティーモデル……現象が先行しすぎて言葉が追いついておらず、「コーファミリー」と僕たちは呼び始めているのですが、このモデルが浸透していけば、市場開拓にもなるはずなんです。

例えば、ソニーのウォークマンという成功例は、「音楽を聴く」という消費行動を“家族”から“個人”という単位にリモデルしたイノベーションだと思ってます。核家族化、個人志向というライフスタイルが浸透して潜在化した社会現象に着目して生まれた画期的商品だったと思うのです。

同じように、人々が「共にある」ことの楽しさに気づけば、Ciftのような“村”向けの商品が求められる可能性がある。この分野は完全にブルーオーシャンです。今、この発想に共感してくれるパートナー企業も探しているところです。また、行政に対して共にある生き方を実現するための公的施策を提言できるような、「創造的市民」になるための環境にもなると思っています。

西村:本当の意味でのシチズンシップの育成ということですね。シェアオフィス、シェアハウスというモデルを遥かに超越している印象です。僕は多摩在住ですが、Ciftの多摩版を作ってみたいと本気で思っています。ものすごいスピード感で発展している様子なので、半年後のCiftがどこまで行っているか楽しみです。多拠点生活が個人にとっても集団にとってもリスクを軽減する、という話がとても面白かったです。

藤代:多拠点で働き、暮らすということは、依存先を増やすこと。依存先を増やせば、思い切り依存できて、結果的にオリジナリティが生まれる。そんな感覚があります。

西村:まさに僕もそう感じています。ありがとうございました。

藤代さんの働く3か条

(撮影:今村拓馬)


藤代健介(ふじしろ・けんすけ):1988年生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科在学中に空間設計のコンサルティング会社prsm(プリズム)設立。TEDxTokyoの空間デザイン設計や東日本大震災被災地でのコミュニティー設計などに多重的に携わる。世界経済フォーラムのGlobal Shapers Communityに選出され、2016年度Tokyo Hubのキュレーターを務める。SHIBUYA CAST.にはコンセプト設計から参画し、2017年5月より自ら創設した「Cift」の住民となる。

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