日本一コワーキングスペースが多い渋谷——新たな働く文化を作る街に変貌

渋谷の雑踏

渋谷で急増するコワーキングスペースとは。

撮影:今村拓馬

ファッションや若者カルチャーの発信地として発展してきた渋谷がここ数年で、働く街へと新たな進化を遂げている。

IT企業だけでなく、近年特徴的なのは、起業家やフリーランスのクリエーター、働く場所を固定しないリモートワーカーたちが自然発生的に集まってきていることだ。その象徴がオフィスを共有するコワーキング(協業)スペースで、渋谷はその数が日本一と言われるまでに増加した。

会社とは違う、新たな協働コミュニティーとして、数も機能も広げているのだ。雑多な空気をそのままに「遊びと“働く”の融合」(東京急行電鉄)が、新たな文化として醸成されつつある。

渋谷の「働く」はplay

東急総合研究所の調査によると、都心5区のコワーキングスペースおよびシェアオフィスの数を2013年と2017年で比較したところ、両年ともに1位は渋谷区だった。同区のコワーキングスペースの数は、2013年の37カ所が、2017年では72カ所と倍増。これに港区、千代田区、中央区、新宿区の順で続き、全体総数もこの4年で倍以上となっている。コワーキングスペース最激戦区の都心で、首位となった。

コワーキングスペースの分布図

2017年の都心5区のコワーキングスペース分布。

提供:東急総合研究所(地図:Copyright 国際航業-住友電工)

2013年のコワーキングスペースの分布図

2013年当時の都心5区のコワーキングスペース分布。

提供:東急総合研究所(地図:Copyright 国際航業-住友電工)

2020年代に向け渋谷の再開発を担う東急電鉄は、渋谷ヒカリエや渋谷キャストといった商業施設にもコワーキングスペースを埋め込むなど、意識的に「働く街」のデザインを仕掛けてきた。

7月にはパナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニーの3社が連携し、起業家支援のプログラムを行うワークスペース「100BANCH」を渋谷駅前にオープン。「渋谷=働く街」というカラーが色濃くなってきているが、とはいえ、高層オフィスの並ぶ丸の内や品川になるわけではない。

渋谷における働くは、work(ワーク)ではなくplay(プレイ)です

東急総合研究所の樺幸世副主任研究員はいう。

1990年代には、渋谷をシリコンバレーになぞらえてITベンチャーを呼び込もうと「渋谷ビットバレー構想」が盛り上がった。それに対し、今の渋谷の「働く」の特徴は、自由な働き方を希求する個人が、コミュニティーを求めて集まる空気だ。

交通のターミナル拠点でもある渋谷は、多様性と先進性、そして時代と共に変わる文化を受け入れてきた寛容性があります。そこにSNSの普及で個人がつながれる時代になった今、コミュニティーが発生しやすい街になっている」(樺さん)

co-ba shibuyaのコワーキングスペース

コワーキングスペースの目的は、コミュニティーにある。

撮影:今村拓馬

コワーキングは“学校”

東急総研が関東地域を対象に実施した調査によると、約75%もの人が「コワーキングスペース、シェアオフィスが何をする場所か知らない」と答えており、認知度はまだまだ低い。渋谷で急増するコワーキングスペースとはどんなものなのか。

渋谷駅前の喧騒を少し離れた、山手線沿いの雑居ビルにあるコワーキングスペース「co-ba shibuya(コーバシブヤ)」を訪ねた。ビル5階は会員制のシェアオフィス、6階は1日利用者にも解放されているワークスペースとライブラリー。6階は夜間や週末にはイベントスペースとしても使われる。

「1人で家で仕事はできない。ここではお互いが得意な技術を教えあったり、仕事を受けたり。情報も集まるし、ライバルというより学校のクラスメイトですね

そう話すのは、ウェブマーケティング制作者の岡田陽樹さん(30)だ。岡田さんは移住をテーマにしたプラットフォーム事業で今夏の開業を目指し、準備中。仕事場であるコーバを本社所在地としている。コーバには同じくスタートアップを目指す20代、30代が集まり「違う事業をしているけれど仲間」という、絶妙な関係が生まれている。

co-ba shibuya

毎日、イベントや勉強会が開かれ、交流が生まれている。

撮影:今村拓馬

多くのコワーキングスペース同様、コーバ会員にも単発の1日利用者と毎月定額を支払う月額会員利用者がいる。月額利用は「フリー席プラン」が1万5000円、「固定席プラン」で4万円。スマートロックにより24時間利用可能だ。スペースにはWi-fi、電源、コピー・プリンターなどの複合機、ロッカー、給湯室やミーティングルームも完備されている。

月額5000円の登記オプションで、本社登記はもちろん郵便の受け取りも頼める。予算の少ないスタートアップでも、オフィスを構えることができる。

月額利用者は、運営会社のツクルバが面接を行った上で選抜。現在、120人程度の月額利用者がいて、フリー席プランは常に空き席の順番待ち。平日限定の1日利用は、予約不要の2000円で出入り自由だ。

コーバ内では連日、勉強会やイベントが企画され、集まる人同士がつながれる仕掛けがされている。仕事の仲間も友人知人もそこから生まれる土壌がある。

ツクルバは、コワーキングスペースのフランチャイズ事業を展開し、東北から九州まで全国に17のコワーキングスペース拠点をもつ。

コーバ事業部マネージャーの奥澤菜採さんは、「渋谷の特徴はとにかくスタートアップを目指す人が多いこと。働く街といっても丸の内のように整然としているわけでもなく、街自体に多様性があって、渋谷区も掲げるように『違いが力になる』場所だと感じています」。

会社とは違うつながりを求めて

パナソニックの100BANCH

100のプロジェクトが生まれる起業支援100BANCHのコワキングスペース。

提供:パナソニック

パナソニックら3社が立ち上げた「100BANCH」は、JR渋谷駅新南口にある。「これからの100年を面白くする100のプロジェクト」を生み出す起業家やクリーエターの拠点として、コワーキングスペースを構えた。プロジェクトは公募制。渋谷に新たな風を呼び込みそうだ。

MOVの室内

コクヨが運営するMOVは、オープンスペースが広大だ。

提供:コクヨ

コクヨグループが渋谷ヒカリエで運営するコワーキングスペース「Creative Lounge MOV(クリエイティブラウンジ モヴ)」は、広大なオープンラウンジが特徴だ。駅直結だけに、地方企業からの出張者や海外から来た人の利用も少なくない。会員の7割はフリーランスワーカーという。

中には企業で働く人もいる。MOVの立ち上げに携わってきたファニチャー事業本部の松本俊夫さんはコワーキング利用者について、「会社とはまた違うつながりや仲間を求めている。会社組織だけでは生まれなかったオープンイノベーションの場になっているのでは」と話す。

渋谷発の次のメガトレンドとは

「ビットバレー」構想は、ITバブル崩壊と共に収束したものの、コワーキングスペースの急増とあいまって、渋谷にスタートアップが集まる機運も、再び高まっている。

不動産価格が高額にも関わらず、数人規模で始めるスタートアップが「まずは渋谷」となるのには理由がある。

音楽アプリの開発を手がける「CotoLab.」の西村謙大さん(27)は、「同じようなスタートアップ仲間がいることは大きいです。Facebookでコンタクトをとってランチに行ったり、毎晩、渋谷のどこかでイベントや勉強会があるので、仕事が終わったらそのまま出かけたり。そこから仕事につながることもよくあります」と、迷わず渋谷をスタートの地に選んだという。やはり本社所在地はコワーキングスペースだ。

ロボアドバイザーによる資産運用サービスを手がける創業2年のウェルスナビは、7月に渋谷に移転してきた。グリー出身のエンジニアで、ウェルスナビCTOの井上正樹さんは「これまでにない金融サービスをつくる意味でも、渋谷の雑多で多様な空気が必要」という。

どれだけテクノロジーが発達したIT企業だって結局、大事な話は会ってする。渋谷には仲間が多い。ナマの情報も得られるし、渋谷で働くエンジニアの層も厚く採用もしやすい」と、街の優位性を指摘する。

フリーランスや起業にとどまらず、複業や副業など、従来の会社の枠組みを超えた働き方はもっと広まるとみられている。コワーキングスペースの急増はその象徴だ。そこで生まれるコミュニティやIT人材の層が、渋谷に人や企業を呼び込む吸引力となっている。

流行の発信地として、時代を先取りしてきた渋谷が生み出す次の大きなトレンドは、ファションでもポップカルチャーでもなく、自由で多様なワークスタイルなのかもしれない。

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