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夏だ。旅に出るときだ。
お金がなくても心配は要らない。ただ開けるだけで、どこへでも行ける扉がある。懐かしいふるさとのような場所へ、あるいは発見と驚きに満ちた新世界へ。
それが本だ。仕事や勉強から離れて、歴史を旅し、将来を感じる絶好の機会。誰かの人生を追体験するのもいい。
Business Insider Japan編集部の編集部員がこれまで読んだ本の中から、「オススメしたい」と選んだ本を、2回に分けて紹介していく。
今回用意したのは10の扉。あなたは、どれを開きますか。
人生は宝探しの旅
パウロ・コエーリョ『アルケミスト 夢を旅した少年』山川紘矢・山川亜希子訳(東京:角川書店、1997年)
人のライフは宿命にコントロールされているのだろうか?
そんなふうに考えてしまうと、人のライフはつまらないものになってしまうのかもしれない。失敗に対する恐怖心は、大きな夢を抱く時に限って強くなるもの。少年は、幾度もつまづき、いくつもの知恵を学び、自分の宝物を探す旅を続ける。今を生きる少年の勇気と冒険のストーリーは、何歳になっても読みたくなる1冊。
(佐藤茂/副編集長・ファイナンス担当/週末は学童野球チームのコーチ)
勇敢なティーンエイジャーのラブストーリー
ジョン・グリーン『さよならを待つふたりのために』金原瑞人・竹内茜訳(東京:岩波書店、2013年)
希望と愛の力が悲しみより勝ると、そこにはすがすがしさが現れる。迫り来る終わりを前に、勇敢で、愛に満ちたティーンエイジャーの感情が揺れ動く。耐えがたい現実を前に、今を力強く生きる2人。グリーンは病気を抱える子どもたちの人生を現実的に描き、病気を患う人のライフを他人事として捉えず、幸せを追求する人はすべて同じであることを伝えている。ユーモアにあふれたこのストーリーは、この夏読んでいただきたい1冊。
(佐藤茂/副編集長・ファイナンス担当/週末は学童野球チームのコーチ)
紳士淑女よ、恋文を綴ろう
「我々はもっとどうでもいい、なんでもない手紙をたくさん書くべきである!(略)紳士淑女よ、意味もなく、手紙を書け! ……いいこと言ってますか?」(本文より)
今年4月に『夜は短し歩けよ乙女』が映画化され、今勢いのある作家、森見登美彦。本作品も京都の男子学生が恋に奮闘する森見ワールド全開だが、全編が主人公の出した手紙によって描かれる「書簡体小説」である点で異彩を放つ。
京都から金沢の実験所へ移り研究することになった主人公・守田一郎は、研究室の同期だった「伊吹さん」への思いを募らせる。伊吹さんへ恋文を書くために、友人・先輩・妹・家庭教師先の子ども……と手当たり次第に手紙を出して練習を重ねていく。そんな彼が最後に編み出した恋文の技術とは——。
「紳士淑女よ、意味もなく、手紙を書け!」と守田氏が書くように、『恋文の技術』を読めば、とりとめのない手紙を誰かに書きたくなること請け合いだ。夏休み中、久しぶりに紙とペンを取り出し、手紙を書いてみてはいかがだろうか。
(分部麻里/インターン/森見登美彦ファン、東京大学新聞記者歴1年)
不安をハックして幸せを手にするシンプルな方法
「どこに行っても、嫌なことは腐るほどある。大切なことは、その嫌なこととうまく付き合って、楽しみに変えること (No matter where you go, there’s a five-hundred-pound load of shit waiting for you... The point isn’t to get away from the shit. The point is to find the shit you enjoy dealing with.)」(本文より)
汚い言葉が多く出てきますが、著者が綴る幸せになるための生き方に納得するばかりでした。私たちは周りを気にしてストレスをためる傾向があるので、人生観を見つめ直す時に読むべき一冊だと思います。
(小杉シェイナ/インターン/アメリカの大学で経済を学んでいる)
80年読み継がれる自己啓発書の鉄板
デール・カーネギー『人を動かす』 山口博訳(東京:創元社、2016年)
「人を批評したり、非難したり、小言をいったりすることは、どんなばか者でもできる。そして、ばか者にかぎって、それをしたがるものだ。理解と、寛容は、すぐれた品性と克己心をそなえた人にしてはじめて持ちうる徳である。(Any fool can criticize, complain, and condemn—and most fools do. But it takes character and self-control to be understanding and forgiving.)」(本文より)
定番のビジネス書ですが、述べられている人として身につけるべき原則は何度読んでも刺激的です。人を動かそうとする意識があると、自然に自分磨きに繋がるのでは。簡単なのに実践するのは難しい原則を自分のモノにするのが重要だと改めて感じました。
(小杉シェイナ/インターン/アメリカの大学で経済を学んでいる)
女子の人生の試験に出る金言の集大成を読んでほしい
西原理恵子『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』(東京:角川書店、2017年)
「ダイヤモンドをくれる男より、一緒にリヤカーひいてくれる男がいい」
「いい嫁なんかになっちゃダメ。いい嫁っていい女中」
「ひたすら『我慢すればいい』っていうのは、次の一手を持つことを、はなっから諦めてしまうこと。考えることを投げ出してしまうこと」
「道は、ひとつだけじゃないってこと。けもの道だって、道だからね」(本文より)
はいここ、人生の試験に出ますよー! 蛍光ペン引いておいてくださいねー。
自分も人生道半ばで迷い多いことを棚に上げて、いや、ただ中にいるからこそ、ミレニアル女子たちに読んでほしいのが、この一冊です。美大の受験日に父親が首を吊った10代から、アルコール中毒の元夫との戦場の日々、超有名人である今の彼氏の話まで、波乱万丈ながらも実は堅実なサイバラ先生の人生から生まれた金言に満ちています。
就職に迷ったら、育児と仕事に悩んだら、転職したくなったらー。間違いなく、サイバラ先生の夏季特訓講座をこの本で受けましょう。極上のお仕事本でもあるので、実は男性にもオススメです。
(滝川麻衣子/働き方系記者/海と本とワインをこよなく愛します)
生きづらさを、対岸から見つめ返すと
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』(くぼたのぞみ訳、東京:河出書房新社、2017年)
「でも、私たちが男たちに対してやっている最悪のことは——彼らにハードでなければ、と感じさせることによって——『極めて』脆いエゴをもたせてしまうことです。(略)そうしておいて女の子には、もっと甚大な危害を加えています。男のその脆いエゴの欲求を満たしてやれと彼女たちを育てるのですから」(本文より)
女性の生きづらさについて深く考えていくと、同時に男性の問題をも探ることになり、ついには、全ての性にとって生きやすい社会づくりのヒントが得られるのでは?
男性としての私は、この本を読んで改めてそう思った。フェミニストは、「全ての性の平等を望む者」なのだ。
全米批評家協会賞を受賞したナイジェリア出身の作家によるTEDスピーチ。非常に分かりやすく、スウェーデンでは政府から16歳以下の子ども全員に配布されたほど。日本でも配布されればいいのに。
(原口昇平/翻訳編集/趣味は水泳。動物園ではカバを見ます)
見に行けない場所で、ずっと開催されている展覧会
Chim↑Pom+椹木野衣+Don't Follow The Wind実行委員会・編『Don't Follow The Wind 展覧会公式カタログ2015』(東京:河出書房出版社、2015年)
毎月、『美術手帖』付属の美術館・ギャラリーガイドに掲載されているイベントがある。
「Don't Follow the Wind」展だ。場所は、「東京電力福島第一原発事故に伴う帰還困難区域内某所」。会期は「2015.3.11-」とあり、終了日は記されていない。開館時間も、閉館時間も、休館日もない。ずっと続いている。今月も、終わっていない。
この本は、その展覧会の公式図録。アイ・ウェイウェイ、エヴァ&フランコ・マッテス、Chim↑Pom、椹木野衣など世界中の12人/組のアーティストが、見に行くことが難しいその場所に作品を設置した。そして作品の「ネガ」に当たるものを渋谷(2015年)、シドニー・リスボン・北京(2016年)、アテネ・ロンドン(2017年)などに展示した。こうして「帰還困難区域」は、住んでいた家に帰れなくなった人の問題だけではなく、作品の現物を見に行けない世界中の人の問題にもなったのだ。
これは、隔離された場所に「旗」を立てた人たちの記録。見えも聞こえもしないそのはためきを、こころの中にはためかせる本。「帰還困難区域」の指定が解除される日が来るまで、過去の風化にあらがい、未来を待望する人のガイドブック。
(原口昇平/翻訳編集/趣味は水泳。動物園ではカバを見ます)
2017年必読の哲学書!
東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』(東京:ゲンロン、2017年)
「ぼくたちは、国家と市民社会、政治と経済、思考と欲望、ナショナリズムとグローバリズムの二つの層からなる、二層構造の時代に生きている。」(本文より)
大人気予備校講師の授業みたいだ。それくらいクリアでキレキレ。扱っているテーマは難しいのに、ぐいぐいと読まされてしまう圧倒的な文体。
トランプ政権誕生にイギリスのEU離脱、Googleによって否応無しにつながっていく世界。何か、今までの常識では説明できなかったことが起こっている。そんなぼんやりとした不安の正体を哲学の見地から解き明かそうというのがこの本だ。
中身が面白いのはもとより、何よりも気持ちいいのが筆者の論理展開の巧みさだ。知らず知らずのうちに新しい問いがどんどん生まれ、「思考が拡張される」ような読書体験ができる。2017年の今だからこそ、「(人文学を)考えることをあきらめたくない」、そんなふうに思わせてくれる大著だ。
(西山里緒/記者/ヨーロッパ生活に慣れて日本になじめない91世代)
2017年の日本を取り巻く「AI」の状況がわかる
AI白書編集委員会・編『AI白書 2017 人工知能がもたらす技術の革新と社会の変貌』(東京:KADOKAWA、2017年)
夏休み向けのオススメ書で「IPAのおカタい書籍を推薦するのはどうなの」と一瞬思いましたが、良書だから推薦する。一言でいえば、これは大変な本だ。まず注文して手元に届いた瞬間から驚く。予想外にデカいのだ。書影写真だけ見るとB6かB5判かなと思いきや、なんとA4判型。しかも360p近いページ数。重量感で心が折れそうになる。
そして中身はまったく笑えない。これはヤバい。技術動向から、産業別の利用動向、国内の政策動向、知財関連の課題、海外の政策動向まで、よくこれだけ調べまとめ上げたな、という内容。名だたる国立研究機関と国立大学、企業、気鋭ベンチャーのエンジニアが委員に名を連ね、本当にAIをめぐる「いま」を捉えるための一式がまとまっている(だから「白書」と書いてるだろ、という話ですが)。もちろん技術動向はすぐに古びる。特に深層学習のように進化が早い業界では。けれど、政策や知財の動向は、1年でまるっきり変わったりはしない。そして、おシゴトでAIを考えなきゃいけない人にとっては、政策や知財動向は特に重要だ。そういう意味で、困ったときに調べられる事典的資料として、あるいは最新情報を検索で探すための「とっかかり」として、AIに興味があるなら手元に置いておく価値がある。
(伊藤有/副編集長・TECH担当/辛いもの好き、弱冷車が苦手)
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