長友佑都が作ったビジネスの最強チームはいかに生まれたか

現役サッカー日本代表選手として活躍する長友祐都がオーナーを務める株式会社Cuore。「Cuore(クオーレ)」とはイタリア語で心、ハートの意。2016年2月に、代表取締役兼COOを務める中村洋太と長友2人で決めた社名だ。

長友

「正確な情報を発信するために今がある」と語る加藤は、シーズン中はイタリア・ミラノと日本を行き来して長友をサポートする。

提供:Cuore

会社は自分の経験をより多くの人に伝えたいという長友の思いからスタートした。ちょうど高校の同級生だった中村も、日本代表として、海外でも活躍するトップアスリートとして長友が経験したことを少しでも社会に伝え、人々の健康に役立てるべきだ、と考えていたことから、事業を立ち上げた。

会社名には2つの思いを込めた。

1つは会社としてヘルスケア事業を展開していくこと。

もう1つは、少子高齢化の中で予防医療に取り組むには、心の充実が欠かせないと考えたからだ。心を強くしていくための原動力として運動、食事と精神の3つを循環させることを目指す。

シェフ、トレーナー……各自が強みを活かせる組織

このビジネスモデルを成立させるためには、食事や運動の知識や経験を持つ信頼できるプロが必要だった。運命の糸が手繰り寄せられるように、4人が集まった。

その1人が長友専属シェフを務める加藤超也。アスリートの専属シェフを志したきっかけは、もともと勤務していたレストランに1人のアスリートが客として食べに来てくれたことだった。

「日々美味しい料理を提供することに意識を向けていたが、そのアスリートの来店で、食のサポートの必要性とより良いコンディション作りの可能性を感じた」

シェフ・加藤超也氏

「美味しくて身体が喜ぶ料理」を伝えることに取り組む長友専属シェフの加藤。

提供:Cuore

自らの経験と考えを活かそうと行動に移したのが、大きな発信力を持つ長友に直接コンタクトを取ることだった。

長友は『ジョ コビッチの生まれ変わる食事』に出会った直後で、自らオーガニック農園に出向くなど、食の大切さを理解して実践し、その様子をソーシャルメディアにも掲載していた。加藤は連絡を取るためだけにTwitterアカウントを開設した。

中村との面談では、まだ公になっていない会社の名刺を渡された。「まだ誰にも明かさないでください」。ちょうど食事事業を任せられる専門家を探していたときだったという。

運動事業統括責任者兼フィジカルトレーナーを務める竹口正範は、前職のフィットネスクラブがCuoreと提携。関わりを持つようになって、長友らの考えやビジョンに共感し、会社を辞めて参加した。

WEBディレクターを務める北村寿洋はネット事業の会社に勤めていたある日、Cuoreのメッセージ「心の健康」が目に留まった。

北村の母親は10年前から車椅子生活を送っていて、今も足の痺れなどの後遺症に悩まされている。だが離れて暮らす家族が年に数回帰省すると、痺れが和らぐ。精神的に満たされないと健康にはならない。心の健康の重要さを考えていた矢先、同じメッセージを発信する長友の会社に行き当たった。

彼らのトップに立つ中村は自らのことを「スペシャリストではなく、ジェネラリスト」という。中村はソフトバンクアカデミアの3期生で、国際的にも有名なコンサルティングファームに勤務していた経験もある。事業の仕組みを作り、みんなが自分の専門性を発揮する土台を作っている。

COOの中村

代表取締役兼COOの中村も高校時代は名門・東福岡で長友と共にプレーしていた。

提供:Cuore

中村が大切にしていることは、まず共感できる理念を作ること、理念を行動へ移すこと、そしていざチームができたときに専門性の掛け算が最大化するようなトップの行動だ。Cuoreのチーム作りにはビジネスパーソンにとっても多くのヒントが隠されている。


プロ推奨のメニューを一般の人にも

現在のビジネスの1つである柱である運動事業は、欧米のトップアスリート、クラブチームに支持されているFLOWINというトレーニングアイテムのプロデュースだ。

長友が所属するインテルのトレーニングジムでも、けがをした選手のリハビリや全身を使ったトレーニングに使用されている。現在はJ1クラブの コンサドーレ札幌、高校サッカーの名門である東福岡高校も使っている。

Cuoreでは、日本にはないトレーニングギアやメソッドを用い、アスリートと専門家の経験や知見を活かし たコンサルティングサービスを展開している。

食事ではMCT(ミディアムチェイントリグリセルド)オイル=中鎖脂肪酸を取り入れた商品の販売が柱だ。日常に取り入れやすい無味無臭のオイルで脂質燃焼効果を高める効果が期待でき、素早くエネルギーに転換する作用がある。

だが、Cuoreが目指す事業は、物を売るだけではない。物をきっかけにその後のサービスを提供しようと考えている。

長友メソッドと思いを翻訳する

加藤は、長友の住むイタリアに長期滞在して食事をサポートしている。加藤がそれを「食トレ」と呼ぶほど徹底している。長友のコンディションを観察しながら脂質、コントロールされた糖質、良質なた んぱく質などバランスよく含んだ食事を提供し、管理ソフトに全て記録。さらにこの活動を日本の医師や管理栄養士が遠隔でサポートしている。

この「食トレ」を今後は1人でも多くのアスリートや一般の人に届けたいと考えてい る。

長友の会社のトレーニング

スウェーデン発祥のFLOWINのトレーニングアイテム。出張や旅行に持参できるよう軽くて持ち運びしやすいタイプも用意されている。

提供:Cuore

加藤は長友のサポートで海外に行くことで、近い将来日本が注意するべき点も見えてくると話した。日本には便利なコンビニがあることで、夜遅くでも空腹を満たすために何でも手に入る。残業やストレスと隣り合わせのビジネスパーソンにとって、健康を維持しようと思うと、時にはあえて“便利さ”を使わないことも必要だという。

日常に運動を取り入れるためには、もっと意識的に生活習慣を変える必要がある。

「日本ではあまり見ないトレーニングアイテムを活用することで、まずは楽しさを体感してもらう。日常的に運動を取り入れてもらうためにはできるかできないかくらいの目標を立てて、成功体験を積んでいく」

自己肯定感を意識したプログラムを竹口は意識している。

長友は企業の経営者兼オーナーとして、事業や意思決定に関わっている。1年のうちメンバーが顔を合わせるタイミングは少ないが、LINEなどを使ってミーティングを行う。

長友の強い意思や“今”を作り上げた要素をどのような形で発信するか、言葉選びも重要だ。長友が自ら生み出した「MOVE体幹」「体に投資する 」「食トレ」というフレーズもその一例だ。北村はそのメッセージを伝える役割を担っている。

トップアスリートのメソッドを取り入れ、健康や予防医療に生かすことは“理想”だが、言葉でいうほど簡単ではない。それでも、それぞれの分野での「プロ」たちが媒介することで、プロが突き詰めた知見が多くの人の健康につながれば。長友チームの目標である。(本文敬称略)


新川諒(しんかわ・りょう):通訳、フリーライター。アメリカ大学在学時にクリーブランド・インディアンズでPRインターンとして勤務。その後、レッドソックスなどで5年間日本人選手の通訳を担当。avex sportsが運営するAthlete Club「スポーツビジネスの学び方」でも発信中。

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