REUTERS/Karoly Arvai
ウイルス感染に対する有効な予防策の1つが、ワクチン接種だ。
天然痘の根絶とポリオの抑制に大きな役割を果たしたワクチンは、体内に侵入してきた細菌と戦う免疫システムをあらかじめ準備しておくものだ。
1700年代に開発されて以来、ワクチンは著しく進歩してきた。しかし、ワクチンの存在しない感染症も依然として多い。
同時に、研究者たちは、これまで想定されていなかったがんや薬物中毒といった疾病にもワクチンが活用できないか、その方法を見出そうとしている。
ワクチンとして承認されるには、疾病予防において安全かつ効果的であること、もしくは、治療に使用する場合、免疫システムを活性化させることを証明する必要がある。そのプロセスには何年、あるいは何十年とかかるだろう。
人間の生活を劇的に変える可能性がある、現在開発中の9つのワクチンを紹介しよう。
淋病
薬剤耐性のあるナイセリア・ゴノレア(淋菌)。
CDC/ James Archer
性感染症である淋病の治療には、一般的に抗生物質が使われる。しかしここ数年、治療のできないケースが増えている。
淋病の治療に有効な新たな抗生物質に加え、世界保健機関(WHO)はワクチンの必要性を訴えており、少なくとも1つが開発中だ。
しかし、驚くべき発見があった。ニュージーランドで起きた髄膜炎の流行とその後のワクチン接種に関するデータを分析していた研究者らが、同ワクチンが淋病予防にも有効であることを突き止めたのだ。髄膜炎と淋病の原因となる細菌が、「いとこ」のように非常に密接に関連していることがわかった。
特定の髄膜炎が流行した2004年から2006年までに投与され、もはや使われていないワクチン。それが淋病専用のワクチンとして開発されるのかどうか、注目される。
がん
がん細胞。
Reuters
特定の種類のがんを予防するワクチンは、すでにいくつか存在している。例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンは、6種類の異なるがんを予防できる。 B型肝炎ワクチンは、肝臓がんも予防する。
がんと診断されてから、ワクチンを使用する治療法も存在する。その1つが、2010年に承認された前立腺がんのワクチンだ。この治療法は、からだの免疫システムを再構築し、特定のたんぱく質に、がん細胞を攻撃する免疫細胞を助けさせる。
他にも、特定のがん細胞に対して免疫システムを増幅させる、より個別化したアプローチもある。
マラリア
蚊帳の中で休む家族。2013年12月19日、フィリピン中部台風の被災者用の避難所にて。
Erik De Castro/REUTERS
マラリアは、蚊を媒介して感染する寄生虫症だ。悪寒、発熱、吐き気に加え、多臓器不全を含む重篤な合併症を引き起こすこともある。サハラ以南のアフリカでは、この感染症が、蚊が関連する死因の過半数を占める。
マラリアに有効なワクチンは普及していないが、WHOのプレスリリースによると、3カ国が参加するマラリア・ワクチンの試験的なプログラムが2018年から始まる。
しかし、マラリアによる死亡者数は、スプレー式や蚊帳で使われる殺虫剤などの予防対策によって、すでに減少傾向にある。WHOによると、 2000年から2015年の間にマラリアによる死亡者数は62%減り、680万人の命が救われた。
エボラ出血熱
エボラウイルスの実験用ワクチンが入った注射をかざす、スイスの病院の看護師。
Reuters
エボラ・ワクチンは、この病気の予防に強い効果があることが確認されている。アメリカの製薬大手メルクが約6000人を対象に実施した大規模な治験で、同ワクチンは100%の有効性を示したとされる。ただし、このワクチンは、2014年から2016年に発生したレベルの新たな大流行を防ぐことを目的に、一時的に作られたもので、実際にはまだ使われていない。次の大流行が起こったとき、当局は同ワクチンを使用するかどうかの判断を迫られる。
研究者は、より長期的に有効な予防策の開発にも取り組んでいる。75人の健康な有志が参加した初期の臨床試験では、治験者全員に1年間、ワクチンによる免疫反応が出た。この持続性のあるワクチンがエボラ出血熱の予防に有効かどうかは、大規模な臨床試験が待たれる。
HIV/AIDS
HIVに感染したT細胞の電子顕微鏡写真。
NIAID
HIVワクチンは、数十年にわたり多くの研究費が投下されてきたにも関わらず、開発には至っていない。
2017年7月、ジョンソン・アンド・ジョンソンは、HIV-1ワクチンの早期臨床試験において健康な人々に免疫反応が確認され、「忍容性も良好」と発表した。同社のウイルスワクチンの開発責任者であるHanneke Schuitemaker氏は、この段階に至るまでに12年から13年かかり、現場ではいくつもの挫折があったと語った。開発プロセスにおいては、エボラウイルスのワクチン試験中に得られた知見が役立ったという。
ワクチンの承認には、まだしばらく時間がかかるだろう —— 次の段階では、HIV/AIDSの感染予防に実際に効果があることを証明しなければならない。
ノロウイルス
CDC.gov
アメリカのメキシコ料理チェーン「チポトレ・メキシカン・グリル」で発生した食中毒の原因とされるノロウイルスは、腹痛、吐き気、下痢、嘔吐を引き起こす。感染力が高く、アメリカでは毎年約2100万人が感染している。ノロウイルスの予防法はあるが、ワクチンはまだない。
しかし、Vaxartという企業が、ノロウイルスを予防する錠剤ワクチンを開発中だ。 2017年2月、同社は人体を使った早期臨床試験に成功、免疫反応を促進することとその安全性が証明されたと発表した。ワクチンが承認されるための次のハードルは、その有効性の証明だ。
インフルエンザ
Joe Raedle / Getty Images
大半のワクチンは、生涯に1回または数回投与する。しかしインフルエンザ・ウイルスは頻繁に変異するため、WHOの勧告に基づき、ワクチンは絶え間なく更新されている。だからこそ、毎年冬になると多くの人がインフルエンザ・ワクチンを接種する。
しかし、製薬会社サノフィ(Sanofi)は、より広範なインフルエンザを予防できる、万能ワクチンを開発している。成功すれば、毎年1回の予防接種に代わって、一度のワクチン接種で、数年間分の進化したウイルスも広く予防できる。
現在のインフルエンザ・ワクチンは1回の接種で、3種または4種の予防効果があるが、新たなワクチンは、さらに広範な予防を可能にする。特定の種類に特化するというより、ウイルスの突然変異に対抗するのだ。異なるサブタイプの万能ワクチンがあれば、次に大流行したとき、その中から最も役立つものを選ぶこともできる。ただし、このアイデアはまだ臨床段階にも達していない。
ヘロイン中毒
ヘロインを注射する前に、針を選ぶ麻薬使用者。2016年3月23日、コネチカット州ニューロンドンで撮影。
John Moore/Getty Images
麻薬性鎮痛薬などの過剰摂取によって起こるとされるオピオイド中毒の治療のためのワクチンは2種類あるが、どちらもまだ人体を使った臨床試験段階には至っていない。
2017年1月、このうち1種類のワクチン開発を進めるアメリカの製薬会社OpiantのCEOロジャー・クリスタル(Roger Crystal )氏は、「ヘロインが脳に到達し、使用者に高揚感を与える前に、ワクチンはそれを破壊し、作用するだろう」とBusiness Insiderに語った。
これにより、観念的にはヘロイン中毒者を助けることができる。どのくらいの頻度でワクチンを投与すべきかは、まだ分かっていない。
ジカ熱
AP Photo/Felipe Dana
2016年初め、ジカ熱の世界的流行の発生が判明したとほぼ同時に、科学者らは有効なワクチンの研究を開始した。間もなく、人体を使った臨床試験も始まった。
2017年3月、第2相試験(2番目の段階の臨床試験)に入り、アメリカと中南米で2490人を対象にワクチンの有効性が検証されている。臨床試験は、2019年に終了する予定だ。
[原文:9 dangerous diseases that could be prevented by vaccines within the next decade, from HIV to cancer]
(翻訳:本田直子)