都市圏でなぜ「駅遠」の人気飲食店が増えるのか? 駅前2.5等地ブームの舞台裏

渋谷109

撮影:今村拓馬

都市圏の飲食店ビジネスがいま変わりつつある。

飲食店舗は「駅近」などの立地が極めて重要だというのが一般的な常識だが、近年、それに当てはまらない繁盛店がいくつも出現している。それどころか駅徒歩10分弱、2F以上の空中階という不人気立地を「あえて狙う」店まで出てきた。

こうした特殊な立地の飲食不動産を、Business Insider Japanでは「2.5等地不動産」と呼ぶことにした。飲食店で2.5等地物件が流行する背景には、一体どんなビジネスの変化があるのか?

2.5等地を「1等地」にする、2010年代的集客方法

「駅遠」な2.5等地を狙って、独自のビジネスモデルで多店舗展開している飲食店がある。酒屋を営むリカー・イノベーション社が仕掛ける「KURAND」(クランド)だ。

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「KURAND SAKE MARKET」という日本酒を中心とした居酒屋を、「日本酒100種を3240円で時間無制限飲み放題」を武器に都市圏を中心に展開。「安く、いろいろな種類のお酒が飲める」「料理は持ち込みで安く抑えられる」というコスパの高さがウケて現在、東京、埼玉、千葉で6店舗を展開する。

KURANDが出店で狙う立地は、いずれも空中階が基本、広さは30坪以内と狭め、しかも繁華街から外れた雑居ビルなどをあえて狙って出店している。

この立地でも集客できるのは、母体であるリカー・イノベーション社のお酒の情報サイト「NOMOOO」(月間250万PV)の存在が大きい。この告知と集客で、繁華街から離れた立地を"1等地"にしてしまうのだ。

KURAND広報の辻本翔氏は言う。

KURAND広報の辻本氏

KURAND 広報担当の辻本翔氏。

「KURANDが"キッチンを置かない"、"空中階でもいい"という常識からかけ離れたアイデアで始めたのは、我々の母体が酒屋で、飲食経営はズブの素人だったからです。だからこそ、立地にとらわれず、広さは家賃負担が少ない30坪以内、それでも"ウェブの集客力があれば経営が成り立つのでは?"という発想ができました。最初の出店時からクラウドファンディングで調達した資金をプロモーションに使ったのも、そうした固定観念にとらわれない発想からでした」

KURANDでは、場合によっては飲食物件ではない、オフィス物件を狙う場合もある。ここにはカラクリが1つある。KURANDは"キッチンなし"の出店をベースとしている(基本的に全店で「食べ物の持ち込み無料」)。そのため、厨房設置不可のオフィス物件でも、大家の理解さえ得られれば出店できるのだ。

驚くのは、彼らの出店のスピードと徹底したコスト圧縮ぶりだ。KURANDは独特の店舗設計のテンプレートをもっているため、最短では物件決定から3週間というスピードで店舗オープンした例まであるという。

厨房レスとスピード出店によるコスト圧縮の効果は絶大。具体的な出店コストについては「企業秘密」ということだが、「(店舗によるが)出店のイニシャルコストは最初の1年弱で回収してしまう」と聞くと、およその推測はできる。通常、飲食の新店出店は1000〜2000万円ほど初期投資がかかると言われる。回収は5年程度が一般的なことを考えると、1年以内という期間で元を取るのは驚異的だ。

辻本氏は言う。

「グルメサイトへの広告出稿をほとんどしないので、"どうしてこんな立地でお客さんに来てもらえるんだ?"とよく言われます。確かに、NOMOOOのような情報サイトをみんなが作ることは正直難しいと思います。ただ、これだけは言えます。これからの飲食店は、Webの集客の成否で"生き残れるかどうか"が決まってきます」

KURANDの店内(新宿店)

KURAND新宿店

開店前にお邪魔したKURAND新宿店。常時取揃える日本酒100種を納める業務用冷蔵庫3台のほかは、デザインとコストを両立した什器でうまくレイアウトしてある。


100種の日本酒を時間無制限飲み放題

KURAND新宿店

時間無制限飲み放題で提供する100種の日本酒。開店前にはラベルを表に向けて陳列する作業が日課。プライベートブランドの日本酒の提供も特徴。PBは火入れを一般流通品とは変えるなどして味わいにもこだわっている。


食べ物の持ち込み自由。店舗で提供する料理は「缶詰」

KURANDはキッチンレス

キッチンをつくらない出店形態のため、提供する料理は缶詰や軽食が中心。持ち込み自由なので、デリやデパ地下グルメを持ち込んで楽しむこともできる。


開店前の新宿店から外を見る。新宿駅前と違って人通りが落ち着いた新宿3丁目。地下鉄出口からは近いが、雑居ビルで空中階。KURANDのセオリー通りの店舗選びだ。

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「2.5等地の開業支援」をする飲食専門不動産会社も現れた

ABC店舗のWebサイト

ABC店舗のWebサイト。不動産情報や、開業者の声などコミュニティ的側面をもたせたサイトづくりが特徴。

KURANDの自社サイトの集客例は特殊だが、食べログやぐるなびといったグルメサイトの活用は多くの飲食店が手がけている。「SNSや口コミで高評価な店がつくれるか」が集客の鍵で、極論すれば立地は関係ない、というのは飲食業の大きな流れとも言える。

飲食の開業者のニーズがあるなら、不動産を供給する業者側もそれに合わせて変わっていく。実際に、"2.5等地不動産"にいち早く目をつけ、業績を伸ばしている不動産業者もいくつか生まれている。

ABC店舗の井部喜仁氏

ABC店舗の営業本部長、井部喜仁氏。

「結果的に自分たちがこの(2.5等地)市場を開拓することになっているのではないか」と語るのは、飲食専門の不動産会社・ABC店舗の営業本部長、井部喜仁氏だ。ABC店舗は、大家から借り上げた不動産物件を自社で貸し出す"サブリース"方式の不動産会社だ。

ABC店舗がユニークなのは、飲食店の"居抜き物件"を中心に展開し、取り扱う物件の広さは10坪〜30坪という、ニッチな飲食店ニーズに特化していることだ。これは偶然にも、KURANDの辻本氏が言う広さと重なる。

ABC店舗の実績は端的に言って、"初参入者の飲食出店のハードルを下げたこと"だ。ABC店舗はサブリースという業態のため、貸し出す相手を(大家に任せず)自社のリスク管理の範疇で判断できる。

さらに、不動産業界では常識となっている敷金・礼金を、「繁盛店になりそうかどうか」という現場判断に合わせて弾力的に下げたり、のれんを下ろす"退店希望物件"情報をいち早く得て、物件の解約期間中にも次の借主を探すというようなことを積極的に行なっている。

こうした不動産業の"常識"にとらわれないビジネスが口コミで広がり、2016年までの8年間で売上高は8.5倍、経常利益は10倍になった。これはそのまま、2.5等地物件での飲食開店が増えてきていることも意味する。

繁盛する2.5等地飲食店に共通する2つの要素

ABC店舗の取り扱い不動産マップ

ABC店舗の取り扱い不動産マップ。新宿近辺の居抜き物件を表示してみたところ。

そもそも、不動産業者から見た2.5等地とはどんな物件なのか?

「駅から遠めでも人通りがあり、"潜在的に需要があるはず"という土地はあります。その条件を満たすのか否かが、いわゆる2.5等地と3等地の境目じゃないでしょうか。」(井部氏)

ABC店舗の顧客リストの中には当初、東京のど真ん中、山手線の「恵比寿駅」で出店するつもりで相談に来たが、結果的に東京都の東側の端の「亀戸駅」での出店を選んだ人もいる。 井部氏曰く、作りたいお店の業態をよくよく聞くと、「それってその駅じゃなくても集客できますよ?」というケースが、往々にしてあるという。亀戸の飲食店はその一例だ。

2.5等地の繁盛店には、共通した傾向があると井部氏は言う。

他店にはない「個性」、いわゆるキャラ立ちしているかどうか。

味や食材にこだわった「高コスパ店」。要するに、「1度来店してもらえれば、必ずリピートしたくなる」という"求心力のある店"だ。

「WebやSNSで(個性があれば)最初の1回目の集客ができる、という時代ですから。ターミナル駅前のお家賃がすごく高い物件に"無理をしてでも入る"ことが、繁盛店になるための唯一の手段では、必ずしもなくなってきた」(井部氏)

不動産屋目線では、"立地が悪くても繁盛する"という2.5等地物件は、まだ開拓の余地があるという。しかし、2.5等地物件の開拓は物件担当者の経験則による部分がまだ強い。ABC店舗では、そこに課題意識を持ち、奈良先端科学技術大学と共同で、物件の"賃料査定"を人工知能で予測する研究を始めている。すでに研究成果は2017年度人工知能学会全国大会で、研究論文として発表済み。この試みは面白い。

研究論文「暗黙知センシングに基づいた飲食店向き不動産店舗の賃料推定」の発表を伝えるリリース文:https://corporate.abc-tenpo.com/news/796/

誰が2.5等地不動産を借りているのか?

「10年前と、5〜6年前と、今とでは、確実に開業者さんの年齢が下がってきている」と井部氏はいう。10年前は40代で脱サラ独立するようなケースが多かったが、現在は下は20代後半から30代前半になってきた。その多くが、アルバイトなどで何らかの飲食店経験がある人たちだ。

低年齢化の要因は?

「正直申し上げて我々のような業者が、初めての開業者さんの"開業資金"というハードルを下げている現実があります。以前は開業資金で1000〜2000万円かかるのが当たり前。しかし今は(居抜きを活用すれば)開業資金500万円あればもう出店できる、というレベルなんですよ」

自分の貯蓄で200〜300万円、あとは親兄弟から同額を借りて出店、というのはいかにもリアルなシナリオだ。 2.5等地不動産が流行する背景がなんとなく見えてきた。

取材を進める中でさらに1社、東京近郊の2.5等地不動産を、データベース的な観点から支えて居る企業がある。飲食不動産の"情報の民主化"で借り手の検討材料がどう変わったのか? それについては後編でお伝えする。

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