東大倍増、ハーバード大学院4人 “安定=高学歴”か —— 安倍新内閣閣僚の出身大学から見えるもの

新しい安倍内閣の顔ぶれを見て驚いた。ハーバード大大学院出身の大臣が4人もいる。茂木敏充(経済再生・人づくり革命大臣)、上川陽子(法務大臣)、林芳正(文部科学大臣)、斎藤健(農林水産大臣)である。4人はケネディスクールと呼ばれる公共政策大学院に通っていた。しかも4人とも東京大出身だ。

ほかにもアメリカの大学院で学んだ大臣がいる。ボストン大大学院の世耕弘成(経済産業大臣)、ジョージタウン大大学院の河野太郎(外務大臣)だ。世耕は早稲田、河野は慶應の出身である。

ハーバード大、ボストン大、ジョージタウン大いずれもアメリカではトップスクールであり、相当に優秀でないと通えない。

安倍改造内閣のメンバー

続いた閣僚の失言などに懲りて「安定・実力」派を選んだと言われる安倍新内閣。

Getty Images: Bloomberg

現在の安倍内閣。正式には第3次安倍晋三・第3次改造内閣と呼ぶ。舌をかみそうな名称である。2012年に政権復帰してから6回目の組閣となった。

政権復帰(第2次安倍内閣)以降の大臣出身校を見てみよう(第2次安倍改造、第3次安倍内閣第2次改造は省略。最終学歴は日本の大学で集計)。

  • 第2次安倍内閣(2012年12月発足) 東京大4、早稲田大3、慶應義塾大3。1人が京都大、東京水産大(現・東京海洋大)、千葉大、東北大、学習院大、中央大、法政大、明治大
  • 第3次安倍内閣(2014年12月発足) 東京大3、慶應義塾大3、早稲田大2。1人が京都大、神戸大、東京農工大、防衛大学校、青山学院大、学習院大、国際基督教大、成蹊大、聖心女子大、中央大、法政大
  • 第3次安倍改造内閣(2015年10月発足) 東京大4、慶應義塾大3、早稲田大2。1人が神戸大、防衛大学校、青山学院大、学習院大、成蹊大、専修大、中央大、日本大、法政大
  • 第3次安倍第3次改造内閣(2017年8月発足) 東京大8、早稲田大3。1人が慶應義塾大、学習院大、上智大、成蹊大、玉川大、日本大、法政大、明治大、立教大

今回の安倍内閣では東京大が倍になった。これまでに比べると、かなりの高学歴内閣と言える。安倍が意図してのことだろうか。それともたまたまなのだろうか。

東京大8人のうち、官僚出身は4人いる。大蔵省出身が加藤勝信(厚生労働大臣)、中川雅治(環境大臣)。建設省出身が石井啓一(国土交通大臣)、経産省出身が斎藤健(農林水産大臣)。加藤、中川は官僚経験が長いので実務には長けている。公明党選出の石井は当選8回と官僚よりも政治家としてのキャリアが長いが、短いながら官僚経験があるゆえ、官をうまくコントロールできるのだろう。斎藤は課長職からの転身、当選3回ゆえにその能力は未知数だが、農林水産副大臣を経験しているのでど素人ではない。

東京大、ハーバード大大学院組を見てみよう。

林は元大蔵大臣・林義郎を父に持つ2世議員で三井物産出身。上川は三菱総研研究員、アメリカの上院議員政策スタッフを務めた。茂木は丸紅、読売新聞、マッキンゼー社を経て政治家となる。3人とも早い時期に大臣を経験している。永田町では切れ者として通っており、実務能力は抜群と言われている。初入閣の斎藤は前述のとおり。

もう1人。小野寺五典(防衛大臣)は、東京水産大、東京大大学院法学政治学研究科の出身。少なくても前任の大臣よりもまともな人材をという意味では低いハードルを、防衛大臣経験者の小野寺は楽々とクリアできると読まれたのだろう。

今回の改造は「実力・安定」内閣と呼ばれ、安倍は安全パイを求めた。前内閣の防衛大臣の稲田、地方創生大臣の山本、法務大臣の金田のふらついた答弁、あぶなっかしい言動に懲りたのだろう。

支持率を回復させるため、安定を求めて実力派を呼び寄せた。官僚をうまく使える、実務に優れている人材を求めたら、それが東京大出身者8人にたどりついてしまったわけだ。

はじめに東京大ありき、ではないだろうが、実際、官僚出身など東京大卒が大臣になるような選び方をしている。それはお友だちと別れたことを意味する。こうでもしなければ、政権が持たないと悟ったのだろう。

一方で、今回の安倍内閣には相変わらず2世が多い。 鈴木俊一(五輪担当大臣=早稲田大)の父は元総理大臣の鈴木善幸、義兄は麻生太郎という毛並みの良さだ。 初入閣の梶山弘志(地方創生大臣=日本大)、江崎鉄麿(沖縄・北方、消費者行政大臣=立教大)、小此木八郎(国家公安委員長、防災大臣=玉川大)の父は、派閥の幹部を務めた大物政治家で大臣もいくつも務めた。

2世議員の宝庫と言えば、慶應義塾大である。しかし、閣僚は河野太郎(外務大臣)1人だけだ。

現在、2世国会議員で慶應出身者は41人もいる。第2次安倍内閣以降の大臣ではほかに石原伸晃、甘利明、石破茂がいた。いずれも父は大臣を経験している。

ベテラン議員では大島理森、小沢一郎、越智隆雄、中曽根弘文、丹羽雄哉、船田元、平沼赳夫など。父親が大物政治家は、御法川信英、奥野信亮、橋本岳、岸信夫、松野頼久など。圧倒的に自民党が多く、政治家が子どもを慶應に行かせたがる風潮はいまも昔も変わっていない。

国会議員 (衆・参)の出身大学ランキングは次のとおり(2017年6月)。

国会

東京大144、慶應義塾大87、早稲田大76、中央大31、京都大30、日本大29、創価大18、明治大16、上智大11、法政大11。

中央大、早稲田大は弁護士からの転身組が見られる。

日本大、法政大は地方議会議員出身が多い。その象徴が菅義偉だろう。派閥の力関係をうまく調整する、野党を押さえ込む、官僚を自由に操る、ひ弱な2世議員を一喝する、その権謀術数に長けた政治手腕は、地方から 切った張ったの世界で生きてきた、たたき上げによって培ってきたものだ。年季が違うといわんとばかりに官房長官の在位記録を伸ばしている。

政治家の出身大学が政治に与えうる影響について、政治学者の御厨貴・東京大名誉教授に見解を求めたことがある。こう話してくれた。

「国会議員の出身大学はばらけたほうがいい。特に大臣の出身は首都圏大学に偏らないほうがいい。喫緊の課題である地方創生を実現させるためにも、さまざまな大学出身者の活躍を期待したい」

安倍1強ならぬ東京大1強で大丈夫だろうか。

私たちは東京大、官僚、ハーバード大組で「このハゲ~」と叫んだ議員を見てきたばかりで、不安になる。国民の思いが政治に生かされない。それを東大大臣、ハーバード大臣のせいにされないように、まっとうな政治をおこなってほしい。(本文敬称略)


小林哲夫:1960年生まれ。教育ジャーナリスト。おもに教育、社会運動問題を執筆。1994年から「大学ランキング」の編集者。おもな著書に『早慶MARCH』『高校紛争1969-1970 「闘争」の歴史と証言』『東大合格高校盛衰史』『ニッポンの大学』など。

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