シリコンバレーを拠点として都市農業に取り組むスタートアップ企業「プレンティ(Plenty)」の内部。農業技術への投資として過去最高額を調達した。
Plenty
- 垂直農法に取り組むスタートアップ企業「プレンティ(Plenty)」は、農業技術への投資として過去最高額となる2億ドル(約220億円)を調達した。
- その資金は、世界各地に農場を作るために使われる。
- 一部の専門家は、この投資により"インドア農業"全体が、より実用的なものになるだろうと指摘する。
プレンティは普通の農場ではない。
屋外で野菜を育てる代わりに、サンフランシスコの南にあるかつての配電センターの建物の中で、LEDに照らされた高さ20フィート(約6メートル)のタワーを使って野菜を栽培している。農薬はもちろん、日光さえも必要ない。
"インドア垂直農法"と呼ばれるこの農法は、温度調整された屋内施設で、トレイや吊り下げ式のモジュールを用いて作物を栽培する。特定の作物を一年中、どこでも、小さなスペースで生産できるため、これまでの農業のあり方を根本的に変える可能性がある。作物は、収穫から数時間のうちに消費者のもとへ届けられるようになるだろう。
2014年に創業したプレンティは、その生産能力について、同規模の農場であれば、従来に比べ350倍の生産量を上げることが可能だと主張する。必要とする水と土地も、少ない。同社のCEOマット・バーナード(Matt Barnard)氏は、世界の食料生産に革命を起こし、一般的な農法で生産された食料よりも低価格で販売することがゴールだと、Business Insiderに語った。
2億ドル(約220億円)の資金調達により、プレンティが掲げるゴールは現実のものとなりそうだ。
7月19日の発表によると、シリーズB資金調達ラウンドは、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが主導し、DCMベンチャーズの他、アルファベットのエリック・シュミット(Eric Schmidt)氏、アマゾンのジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏の投資ファンドも参加した。バーナード氏はこの新たな資金を活用して、世界各地にプレンティの農場を作りたいと語る。
「グローバルな農場ネットワークを構築することで、最高の農産物を収穫から数時間以内に消費者へ届けられるようになる」
一部の専門家は、この投資がインドア農業全体の発展に貢献すると見ている。コロンビア大学の微生物学及び公衆衛生学の教授であるディクソン・デスポミエ(Dickson Despommier)氏は、この投資によって、インドア農業がより一般的になり、他のVC(ベンチャー・キャピタル)による垂直農法を行う企業への投資を促すことになるだろうとBusiness Insiderに語った。
「都市農業は今や、大半の都市で当たり前のものとして受け入れられている。主なハードルは、マーケティングと消費者だろう。週7日、24時間体制で稼働する垂直農場で生産された葉野菜や根菜、果物などに対して、消費者はまだなじみがない」
レストランチェーン「ザ・キッチン」と、垂直農場のインキュベーター「スクエア・ルーツ(Square Roots)」の共同創業者であるキンボール・マスク(Kimbal Musk)氏は、より多くの消費者が地元で生産された農産物を求めることで、インドア農業も発展するだろうと予測する。
「地元のインドア農場で生産されたものは、本当においしい。消費者は生産者を知ることができ、彼らが生産したものを信頼できるようになる。"本物の食べ物"にとって、エキサイティングな時代だ! 」
ニュージャージーで、垂直農法に取り組むスタートアップ「バワリー」。
Bowery
近年、垂直農法はVCの大きな関心を呼んでいる。
2004年設立の「エアロファーム(AeroFarms)」は、ニュージャージー州にある9棟の施設(最も大きいもので、約6400平方メートル)で、さまざまな野菜を垂直農法で生産している。これまでに9580万ドルを調達した。2017年初めに創業したスタートアップ「バワリー(Bowery)」も、2000万ドルを調達している。
現時点でプレンティは、どの企業よりも多くの資金を調達している。
しかし、全てのベンチャーが成功しているわけではない。グーグルの親会社アルファベットは「ムーンショット・ラボ(月面着陸に匹敵する壮大な挑戦)」の一環として、垂直農法の自動化に取り組んでいたが、麦や米といった主食になる作物が十分に生産できず、2016年にこのプロジェクトを打ち切った。バンクーバーで2012年に創業したVertiCropも、わずか3年で倒産した。
プレンティ同様、垂直農法に取り組む大半のスタートアップは、他の農法に比べ、より低いコストでより高い収益を生み出す野菜の生産に注力している。しかし、エアロファームやバワリーのような産業化された規模の農場ですら、その販売価格はオーガニックと同程度もしくはそれ以上だ。
バーナード氏は、プレンティの野菜を、いずれはオーガニックでない従来通りの農法で生産されたものよりも低価格で提供したいと話している。同社にとって、頭痛の種はLEDの電気代だ。しかしここ数年、照明技術はコモディティ化が進んでいる。
インドア農業の発展は今後も続くと、自信を見せるバーナード氏はこう語った。「ベンチャー業界やUSDA(アメリカ農務省)が今後、何をやろうとしているのか予測はできないが、この農法は我々が2、3年前に予想していたよりも早く、多くの作物を育てる、卓越した農法になる」
[原文:Investors are sinking hundreds of millions into a technology that could revolutionize the way we eat]
(翻訳:仲田文子)