RIZAPグループの急拡大が止まらない。
「結果にコミットする」をキャッチフレーズに2〜3カ月で大幅な体重減と体型改善を目指す個別指導のトレーニングジムで知られる同社は近年、美容・健康やアパレル分野で企業買収を繰り返し、2017年3月の時点で51社の一大グループ企業になった。
8月9日には、2018年度第1四半期決算でグループ全体で過去最高の売上を記録したと発表した。一方で、急激な拡大路線には市場関係者から不安視する声もある。同社の瀬戸健社長は決算発表に先駆け、Business Insider Japanの単独インタビューに「今期末にはグループ企業の9割以上が黒字になる見込みだ。結果で示していくしかない」と語った。インタビューは8月2日に行った。
次々買収した企業を黒字化
RIZAPグループは、2003年に瀬戸社長が立ち上げた健康食品を通信販売する健康コーポレーションが前身だ。
この5年の成長ぶりは凄まじい。2013年度に約178億円だった売上高は2017年度にはその5倍を超える約962億円になった。この間、従業員数も309人から5047人にまで膨れ上がった。
2013年3月期〜2017年3月期のRIZAPグループの売上高(単位:億円)
企業買収も猛烈な勢いで進めている。
2017年3月末の時点で、RIZAPグループ社を核に、子会社51社のグループになっている。赤字の企業を買収し、出資、経営を指導して黒字化を目指す手法といえる。2017年3月期のRIZAPグループ社の有価証券報告書によると、2016年から今年3月までの間だけでも、おもに以下の企業を買収している。
2016年
2月:タツミプランニング(注文住宅)
4月:日本文芸社(出版)、三鈴(婦人服等)
5月:パスポート(雑貨)、エンパワープレミアム(美容、ヘルスケア予約サイト)
7月:マルコ(補正下着)
2017年
2月:ジーンズメイト(アパレル)
3月:エス・ワイ・エス(印刷)、ぱど(フリーペーパー発行)
美容・健康を中核とするRIZAPグループには、健康食品の販売、製薬会社、リアル店舗を展開するアパレル、雑貨店に加え、注文住宅や出版社まである。グループ企業は主に、次の4つの領域で事業を展開している。
- 美容・健康
- アパレル
- 住関連ライフスタイル
- エンターテイメント
RIZAPグループの主要4事業=2017年3月期有価証券報告書を基に作成。
「顧客とともに悩め」
果たして事業の一貫性はあるのか。
瀬戸社長は「自分に自信を持つことができて、自分の価値を高める事業に特化している」と説明する。
例えば、RIZAPのトレーニングジムでダイエットに成功した人は、鏡を見る回数が増えていく。10キロ痩せると、これまで着ていたサイズの大きな服は着られなくなる。いままで、自分に関心がなかった人が、身の回りに興味を持ち始め、服装にも興味が出てくれば、アパレル企業にとってはビジネスチャンスが生まれる、という考え方だ。
こうした顧客の「思考」は「妄想」ではない。ジムでの顧客のカウンセリングが潜在欲求を探るヒントになっており、こうした「欲求」に沿って買収戦略も組み立てているという。
長い不況に苦しんでいるアパレル業界では、大手企業が運営する店舗も、リストラや閉店が相次いでいる。それでも瀬戸社長は、「デニムで街を歩いている人はたくさんいる。十分可能性があると思っている」とジーンズメイトを買収した狙いをこう話す。
ビジネスの基本は、「テイクではなくギブから」(瀬戸社長)という。ジムでは顧客のトレーニングを手助けする。「かっこよくなりたい」「スリムになりたい」といった顧客の目的を実現するために何ができるかを徹底して考えれば、売り上げは後からでもついてくるという持論だ。
アパレルやインテリアのリアル店舗にも、こうした考え方を投影させるつもりだ。ジムのパーソナルトレーナーが顧客の減量に取り組むように、ジーンズの店でも、女性向け補正下着の店でも、顧客が達成したい目的をどう実現するかに寄り添うことが重要だと説いている。
「誕生日プレゼントを選ぶ時に、相手が何を求めているかを考えるように、相手の立場に立って、悩まないと。赤字の企業は、だいたいトップが考えていない。そこから、ひとつひとつ変えていく」
グループで顧客情報活用へ
一大グループとなったRIZAPが、どのようにグループ企業間の相乗効果を生み出していくのか。最近の同社の動きに、ひとつのヒントがある。
インタビューに答える瀬戸社長
RIZAPは、CRM(顧客関係管理)に力を入れている。今月3日には、セールスフォース・ドットコムと連携し、トレーニングジムの顧客情報の活用を強化していく方針を発表している。セールスフォースとの協業の狙いについて同社は「生涯を通じたライフサポートの実現」としている。
トレーニングジムには、年齢や性別、職業だけでなく、減量中の日々の食事、身体の変化など、膨大な顧客情報が蓄積されている。こうした情報を、アパレル、インテリア、注文住宅などのグループ企業間で共有し、販売促進に活用していく狙いがあるとみていいだろう。
新宿や渋谷などのターミナル駅に掲示しているRIZAPの広告には、東口と西口では別の電話番号が掲載されている。外部向けの代表番号だけで150本ほどあり、どこに、どのように広告を掲示すると、どのような反応があるのかといった情報も日々蓄積している。こうした情報はグループ全体の資産になり得る。
人材の確保も急ピッチで進めている。最近、ファーストリテイリング、ギャップジャパン、食べログなどから幹部クラスの人材がRIZAPに加わった。100円ショップのダイソーの経営幹部も迎えたという。
「人材を確保するのはM&Aに近いものがある。人がすべてですから、人を連れてくるのがいまの僕の仕事と思っている」
RIZAPグループが8月9日に発表した2018年度第1四半期決算によると、売上は前年同期比44.5%増の約286億5200万円になった一方で、営業利益は前年同期比27.5%減の27億100万円となった。広告宣伝費、販促費の増加や、新規事業として取り組んでいるゴルフ教室、英語教室などの事業への先行投資が影響したとしている。
2013年9月にRIZAPの傘下に入ったインテリア雑貨などの企画・小売のイデアインターナショナは、2017年6月期の通期で過去最高益を記録。マルコ、夢展望、パスポートは第1四半期決算で黒字化を達成するなど、グループ企業の経営再建が進んだという。
決算発表会で、瀬戸社長は「自己投資産業には7兆円の市場がある。我々はこの産業のナンバーワンを目指す」と語った。
(撮影:今村拓馬)