行列のできる「駅遠」飲食店ブーム、後押しする「立地データ分析」の民主化とは?

飲食店の繁盛する条件が「立地」から「Web集客の上手さ」へと変化している。従来は飲食に不向きとされた駅遠、空中階物件でも、繁盛するようになってきたのだ。これは一種の新しい飲食ビジネスモデルではないか? Business Insider Japanではこの現状を「駅前2.5等地ブームの舞台裏」と題して掲載した。

さらに取材を進めるなかで、このブームは「立地のわりに集客できる」という2.5等地物件の発掘がしやすくなった、という不動産データ事情にもありそうなことがわかってきた。

「立地データ」の民主化が個人の飲食開業を変え始めた

飲食店.COMのトップ画面

飲食店.COMのトップ画面。「内装」や「食材発注」といった各機能のポータルも兼ねている。

東京・恵比寿にオフィスをかまえるシンクロ・フード社は、飲食店の出店を支援するWebサイト「飲食店.COM」などを運営する不動産ポータルサイトの運営会社だ。いわば、不動産サイト「HOME'S」や「アットホーム」の飲食店業界版、といえばわかりやすい。

同社の強みは豊富なマーケティングデータにあり、不動産業者2000社から集めた物件データに調査データを組み合わせて、月額1万800円で提供している(一部無料利用も可能)。利用者の多くは、中小規模の個人飲食開業者だ。

取材に応じたシンクロ・フード取締役の大須賀康人氏に、「店舗物件探し」のデータベースを見せてもらった。

シンクロ・フード取締役 大須賀康人氏

シンクロ・フード取締役 大須賀康人氏。

山手線・恵比寿駅周辺のデータを表示してもらうと、地図上にマッピングされた物件データにあわせて、「周辺の人口動態」や「500m範囲の小売業の年間販売額」が表示された。

さらに「競合店を見る」に切り替えると、同じく半径500m四方の「飲食店舗数」が業態別にグラフで表示される。営業中の店だけではなく、新規店・撤退店(閉店)での表示もできる。地域でどんな店が流行っているのか、どんな店が「盛り下がっているのか」が一目でわかる。

飲食店.COMの競合情報

飲食店.COMでみた競合店情報。恵比寿駅前地域の半径500mでは居酒屋が圧倒的に多く、お弁当・デリの業態は少ない。


飲食店.COM

恵比寿周辺の商圏データ。周辺で働く人の従業員数や小売の販売額なども出店検討の情報として有効。

通常、大手飲食チェーンなどが新規出店する場合は、立地データ※を元に、出店を決定することが多い(立地データ=その地域の客層の男女比、どの程度の人の出入りがあり、どういう競合がいてポテンシャルはどの程度か、を調査したデータ)。

リッチデータのマーケティング分析を中小規模の個人でもできるようにした、というのが飲食店.COMの強みだ。

これは、言ってみれば飲食向け不動産「立地データ」の民主化だ。

こうしたサービスの存在を知らない新規開業者はおそらく今でも、「土地勘がある」(=自分の生活圏)「なんとなく好きな駅だから」で飲食物件を選びがちだ。一方で、2.5等地でもうまく繁盛させる店が増えている背景には、個人でもデータを元に分析的に出店判断できる環境が整ってきたこともあるのだろう。

2.5等地で繁盛する店の条件

2.5等地飲食店が増えている理由として、大須賀氏は「1等地への出店がどんどん困難化している現状がある」と語る。1等地の不動産価格は近年上昇傾向で、さらに食材の原価も上がってきて、個人や小規模の飲食店は1等地で成立しにくくなってきた。都市圏の駅前1等地はいま、資本力のある大手飲食チェーンしか勝てない場所になりつつあるのだ。

では、飲食店.COMの目線で見た「2.5等地繁盛店の成功パターン」とはどんなものだろうか? 大須賀氏は3つの要因を挙げた。

1. 食べログなどの「グルメサイト対策」

食べログで高評価をとるための要素の1つが「コスパ」。前回の記事で取材時に実名を挙げて説明した繁盛店では、コスパが良い(価格の割にレベルが高い料理が出る)ことで評価が上がっている。2.5等地出店では賃料を抑えられるので、原価率を通常より高めに設定できる。"駅遠だけど美味しい店"で個性を出すには、2.5等地は狙い目。

2. SNS活用や会員制化などの集客手法の工夫

リアルな数字として、20坪くらいの飲食店の場合、2.5等地を選ぶことで坪単価が3000円下がれば、賃料負担が月額6万円安くなる。SNSでクーポンを出す、クラウドファンディングなどを活用しつつ会員制にする、などでしっかり集客できるなら、浮いた6万円を料理の素材をよくする、店内内装にこだわる(年間なら72万円の"予算"がとれる計算だ)等に投下できる。こうした工夫で、初来店客のリピート率を高めている。

3. 立地データを調査し、条件の「ギャップ」に着目する

東京・五反田の、ある2.5等地飲食店は食べログ評価★3程度の「並」だが、よく繁盛している。実はこの地域はオフィスワーカーが多く、宴会需要が取れる。近隣に大きい企業があることは立地の「ギャップ」要素だ。駅から10分以上離れていても、飲食店が成立する可能性が高まる。

「事業承継」という新しい出店形態

事業承継M&A機能

飲食店.COMでは事業承継でのM&A事例も増えてきたという。飲食店.COMの「飲食M&A」では売却希望案件の一覧をみると、リアルな相場感がわかる。

シンクロ・フードでは近年、「新規出店のサポート」以外に、既存店を譲り受ける、いわばM&A型の「事業承継」という出店形態をサポートすることが増えてきた。これはシンクロフードが事業として始めたことでもあるが、背景には、長く営業してきた地域の人気店オーナーの高齢化と、その後継者がいないという実態があるという。

事業承継出店のケースでは、下は数百万円から、上は数千万円単位のM&Aになるという。大須賀氏は言う。

「当社がサポートしたケースでいくと、地域密着型の居酒屋を経営していたオーナーがリタイア目的で引継ぎ先を探していたため、ある若手経営者に社員含め丸ごと事業を承継してもらったという例があります。

旧オーナーにとっては閉店時のコスト負担がかからず、居抜き譲渡よりも高い売却代金が手に入り、社員の雇用も継続させることができます。新オーナーも、社員と得意客がついた状態で店を始められるので、出店直後の運営と集客にそれほど困らずに済みます。今、飲食業界は慢性的な採用難が続いていますが、事業承継の場合は、そのまま社員の雇用を継続させるので、出店における採用コストもかかりません」

事業承継にまつわる後継者問題は、中小企業庁が「2020年には団塊経営者の大量引退時期が到来する」と警鐘を鳴らしている、日本全体を取り巻く問題だ。同庁の資料では、60歳以上の個人事業者のうち実に7割が「自分の代で事業をやめるつもり」だと回答している。

中小企業庁の調査データ

出典:中小企業庁の調査資料「事業継承に関する現状と課題について」より

こうした背景を踏まえると、うまく承継できれば売主・買主の両方にとってメリットが高い個人飲食店のM&Aは、今後増加していく可能性は高そうだ。

大須賀氏によると、近年の開業者の傾向は、本業を持ちながら飲食店をする副業型のオーナーも増えていると言う。前回取材した居抜き物件専門の賃貸不動産会社ABC店舗の新規開業者の傾向「20代後半〜30代前半が増えてきた」という話と重ね合わせると、ブームの構造らしきものが浮かび上がってくる。先行事例の低コスト開業のノウハウがある程度一般化して、立地の向き不向きをデータ分析できる環境も揃った結果、「2.5等地の飲食店」が開業しやすい環境が整ってきた、ということだ。

時折見かける、住宅街の中に突然出現する行列店。パッと見は不思議な光景でも、今回の取材後にはその見え方が全然変わってしまった。そういった飲食店も、実はデータで見れば一目瞭然な「隠れた2.5等地」という優良立地かもしれないのだ。

(撮影:伊藤有)

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