このCMは男性にこそ見て欲しい——幻の男女像にとらわれる日本

コピー機の前でたたずむ女性

「この国は、女性にとって発展途上国」と打ち出した第1弾CM

提供:ポーラ

女性を描いたネット動画やCMの炎上・取り下げが相次ぐ昨今、“挑戦的”なCMがある。化粧品大手ポーラ(東京都品川区)がショップで働くビューティーディレクターを募集する、リクルートのためのCMだ。「この国は、女性にとって発展途上国」と、ドキッとするフレーズで打ち出した前作から1年ぶりに第2弾を公開。現代女性の生きづらさをえぐり出す。ジェンダーを扱うCMは賛否や好き嫌いが分かれがちだが、ポーラはなぜあえて踏み込むのか。

「あのCMは、私だ」

「あのCMは、私だ」

ポーラの第1弾CMがテレビで放映された昨年7月、制作陣のひとり、コピーライターの山根哲也さんの携帯には、地元京都の同級生の女性(32)から、泣きながら電話がかかってきた。フェイスブックを通じて、ポーラのCMコピーが山根さんの作品と知ったという。

コピー機の前でうつむく女性、会議の後に男性たちが立ち去る中、ひとりで全員分カップを片付ける女性、人気のないオフィスでお腹をなでる妊娠中の女性、トイレで涙をこらえる女性——。

同級生は「発展途上国」というコピーとともに、そこで描かれる女性たちを見て涙したという。

第1弾CMは「ハッとした」「これが現実」という共感から、「じゃあ海外行けば」という反発まで、ネットを中心に盛り上がった。

ツィッターやネットの掲示板には批判的な意見も噴出したが、ポーラ宣伝部長の渡邉和子さんは「それに対して、CMを引き下げるという考えはありませんでした」と、きっぱり話す。

「第1弾CMでポーラが発信したメッセージは、押し付けでも結論でもなく問いです。こういうことが起こっていますが、みなさんどう思われますか、と。それに対するコメントは、ポジティブ・ネガティブどちらも、みなさんが思われたことであり、 ご意見だと思っていましたから

幻にとらわれているのは誰か

それから1年。同じ制作チームが送り出す第2弾CMが、公開された。

「この国には、幻の女性が住んでいる」のナレーションと共に登場する女性たちは、厳しい環境の中で、それに耐えている。

制服姿で受付をする女性、黒いリクルートスーツでショーウィンドウの華やかなワンピースを眺める若い女性、小さな女の子と戸外でたたずむ母親らしき女性、職場の男性に瓶ビールを注ぐ女性——。

前作同様、女性たちの静かな葛藤が描かれる。

「誰かの“そうあるべき”が重なって、いつのまにか私が私の鎖になりそうになる」「縛るな。縛られるな」——。

前作に引き続き、切実さあふれるコピーを書いた山根さんはいう。

「キャリアを重ねてきた周りの女性でも、出産や育児があるから、これくらいまでには仕事を辞めると言ったりする。それなのに、結婚相手について聞くと『いません』と。過剰な不安にとらわれて臆病になってしまっているように思えて。(新CMは)そこから解放できるものになればいいな、と考えました

フェイスブックのCOOシェリル・サンドバーグ氏が著書で書いた「すべての女は幻の赤ちゃんを抱いている」を周囲でも目の当たりにしたことが、強く印象に残っていた。

女性だけではありません。幻の男性もいるし、幻のお父さんも幻のお母さんもいる。同調圧力の強い日本では、社会的な理想像が支配している」

CMの企画制作の総責任者であるクリエイティブディレクター、原野守弘さんは言う。

「日本では女性はこう生きた方がいい、男性はこう生きた方がいいというジェンダー的なステレオタイプが強く存在している。そこから解放されていくことが、日本が(第1弾CMのコピーである)『発展途上国』から『先進国』への仲間入りをする道なのではないかと考えました」

「こうあるべき」という社会の価値観を「幻」と呼ぶならば、男性を支配する幻も相当に根強い。

「それを否定するのは勇気がいる」と、原野さんはいう。

「男同士、ずーっと一緒に仕事をしてその後飲みに行って、週末もゴルフでつるんでいる。終身雇用制度もあるから、会社を辞める、転職するとなると、家族の中で大騒ぎに。多様な生き方は目の前にあるのに、『男はこうあるべき』という幻に囚われてしまう

ポーラCMに携わったメンバー

ポーラが発信するのは結論ではなく問いかけ。左からコピーライターの山根哲也さん、ポーラの渡邉和子さん、クリエイティブディレクターの原野守弘さん

なぜCMは笑顔でなくてはならないのか

出来上がった第2弾CMに、ポーラ社内もざわついた。

「個人的に、ものすごく共感しました。子どもを産んで仕事に復帰した3年前から、夫には『家事がちゃんとできなくてごめんなさい』、親には『子どもが病気の時に見てもらってごめんなさい』、会社には『早く帰ってごめんなさい』と、いつもいつも謝っていました」

ポーラ宣伝部の田畑圭子さんは言う。

「誰も私を責めていないのに、どうして自分はこんなに謝っているんだろうと考えていたのですが、このCMではっとしました。小さな頃から、女の子はこうあるべき!という環境で育ってきたことに、縛られているのだなあと」

そもそも昨夏の第1弾CMも「社内で物議を醸しました」(ポーラ宣伝部長、渡邉さん)。

「笑顔もない、暗い、『こんなこと言っていいの?』という指摘はありました。けれど、では、なぜ笑顔を出さなくてはならないのか? 明るくなければならないのか? それは企業アタマ。それよりリアルに寄り添うことが大事」と話を重ね、最後は社内もその流れになっていったという。

今でこそ、ポーラは女性の管理職比率が27.9%(日本平均11%)だが、1929年に創業した当時、セールス担当者はすべて男性だったという。

「京都の営業所へ一人の女性が『女ではあきまへんやろか?』とやってきたのが、今のポーラの始まりです。社会の環境も、自分が変わることで、変えられるという思いが原点にある」と、渡邉さんはCMに込めたメッセージを説明する。

男性だって葛藤している

内閣府の「女性の活躍推進に関する世論調査」(2014年)によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」との考え方について、「反対」は49.4%「賛成」は44.6%。反対が賛成を5%弱上回ったとはいえ、この10年あまりは両者が拮抗している。

賛成派の理由として「妻が家庭を守る方が子どもの成長などによい」と答える人は約6割に達するが、それは裏返せば「子どもの成長のためには、外で男性が働き続けるべき」になる。働き方の多様化が叫ばれる現代でも、女性のみならず男性にもやはり「こうあるべき」の鎖が存在する。

「発展途上国」にいるのも、「幻の男女像」に縛られているのも、女性だけではない。男性だって、葛藤している。

現実に立ち向かう女性を描くポーラCMは「そのまま男性に置き換えても成り立つ」(クリエイティブディレクターの原野さん)。こうしたCMを世に出すことで、現代社会に問いかけている。

「あなたを縛る鎖の正体は、なんだろう」と。

(撮影:今村拓馬)

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