KDDIはなぜベンチャー「ソラコム」を買収したか?記者会見から見える両社の狙い

記者会見時の写真

KDDIバリュー事業本部バリュー事業企画本部長の新居眞吾氏(左)、ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏(中央)、KDDI ソリューション事業本部ソリューション事業企画本部副本部長の藤井彰人氏。

KDDIによるソラコム買収発表から1週間。両社が会見を開いた。

「KDDIがソラコムを200億円で買収」と一部報道が出た途端、ネット上では「KDDI、いい買い物をした」という評価する意見がある一方、「IPOするかと思っていたのに」「KDDIの傘下に入ってソラコムの良さが消滅するのではないか」と落胆の声も聞かれるなど、賛否両論の反応だった。

その反響に応える形で、ソラコムの玉川憲社長は改めて「(買収されたのは)第二の創業期だと思っている。イグジット(出口)ではなくエントランス(入口)だ」と強調した。

スタートアップが大企業に買収されることをイグジットと呼び、創業者にとっては一つのゴールとなるが、ソラコムとしてはKDDIの傘下に入ることは新たなスタートに過ぎないというのだ。

玉川社長は「世界中のヒトとモノをつなげたい。日本発のグローバルプラットフォームを構築する」として、KDDIの力を借りて、さらなる飛躍を狙っていくようだ。

グローバル展開見据えて得た武器

一方のKDDIにとっても「ソラコムの良さが殺されるということは決してしない。サポートすることでともに成長していきたい」(KDDIバリュー事業企画本部、新居眞吾本部長)と、ネットの反響に配慮した。

ソラコムは創業して3年弱のスタートアップであるが、その技術力やビジネス展開が評価され、ネット上にはファンも多いことから、KDDIが買収したことで過剰な反応が出たようだ。

ソラコムの会見風景

KDDIグループに参加する意義を語るソラコムの玉川氏。KDDIグループの世界的なネットワークは、ソラコムにとって大きな武器になる。

世間の反応はさまざまだが、当のソラコムにとって、KDDIグループになることは、とても大きな武器を手にすることになる。

KDDIは600社を超える海外通信事業者とパートナーシップを締結し、海外の事業拠点も100カ所以上、存在する。ソラコムはグローバルでの事業展開を模索しており、世界的なネットワークの調達や営業にKDDIの支援を活用できるようになる。

ソラコムはこれまではMVNOとして、NTTドコモや海外の事業者から回線を借りていた立場であったが、これからはキャリアのグループとして、回線をフルに活用できる。

KDDIが欲しかったソラコムの技術

KDDIとソラコムではこれまで、免許不要の周波数帯(アンライセンスドバンド)によるIoT向け通信規格であるLoRaWANやSIGFOXなどを手がけてきた。これらは低消費電力などの魅力がある一方、当然、アンライセンスなので、参入事業者が多く、料金競争などが激しくなる恐れがある。

しかし、これからは、LTEなどのネットワークをベースとした「NB-IoT」や「Cat-M1」といった、キャリアしか提供できないIoT向け通信規格が始まろうとしている。さらに2020年にはIoT通信にも有効な5Gが始まろうとしている。

こうしたキャリアしかできない通信規格にいち早く取り組むには、MVNOというネットワークを借りる立場では限界があるのは間違いない。それならば、キャリアのグループに入った方が手っ取り早いという判断だろう。

次世代ネットワークの開発(スライド)

KDDIグループの次世代ネットワーク開発において、ソラコムの技術力が必要だった。

一方、KDDIとしては、ソラコムの技術力を欲しがったというのが、今回の買収の背景にある。ソラコムは、携帯電話における交換機などの「コアネットワーク機材」を仮想化してAmazonのクラウド上に展開し、キャリアと同等のサービスを提供してきた点が強みだ。

今後は次世代ネットワークとして、交換機やサーバー、ネットワーク機器、ストレージをすべてクラウド上に展開するのが、ネットワーク業界のトレンドと言える。

KDDIには、LTEだけでなく、FTTHやCATV、WiMAX、LPWA、5Gといったさまざまなネットワークが存在する。将来的に、これらを全て統合し、管理していくには、ソラコムのクラウドネイティブなソフトウエア開発力が不可欠というわけなのだ。

注目されるドコモの動き

ここ最近、KDDIは相次いでネットワークを手がける企業の買収を行っている。2017年1月には800億円でビッグローブを子会社化。さらに今回は、一部報道では200億円でソラコムを買収したとされている。

いずれの会社も、NTTドコモのMVNOとして、NTTドコモの回線を売ってきた会社だ。ビッグローブはいまだにNTTドコモのSIMカードを売っている。ソラコムに関しても、NTTドコモの回線を継続して販売していくし、すでに顧客が活用しているデバイスの中にあるNTTドコモ回線をKDDI回線に切り換えるようなことはしないという。

ドコモ社屋

KDDIのソラコム買収を受け、NTTドコモがどう動くかが注目される。

Shutterstock.com

KDDIが積極的にMVNOを買収したことで「KDDIのグループ会社がNTTドコモの回線を売る」という奇妙な状況が起きている。

この関係に対して、別のMVNO関係者は「過去にソフトバンクがNTTドコモの回線を売るという状況になったことがあったが、そのときはNTTドコモが回線の提供を拒否してちょっとした騒動になった。今回もそのようなことにならなければいいが」と心配する。

実は、かつてPHS会社のウィルコムが、NTTドコモのMVNOとしてSIMカードを使ってサービスを提供していたことがある。しかし、その後、ウィルコムの経営が苦しくなり、ソフトバンクが支援に乗り出した。結果、ソフトバンクがNTTドコモの回線を提供するという状況になり、それに対してNTTドコモが回線提供を渋ったことがあった。NTTドコモとしては「ウィルコムならいいが、ソフトバンクは許せん」という考えだったのだろう。

サービスの継続が危うくなったが、結局、別の会社が間に入り、別の会社が通信サービスを提供するというかたちにして、事なきを得たのだった。

いまのビッグローブやソラコムはこの状況にかなり近いだけに、NTTドコモがどのような動きに出てくるのかが注目だ。

すでにソラコムやビッグローブが販売してきたSIMカードの枚数は相当数になるだけに、NTTドコモとしても今回ばかりは静観する可能性は高い。しかし、NTTドコモが回線提供を拒むような事態に陥れば、混乱は避けられないだろう。


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。

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