真空列車のコンセプト画(1974年)
Flickr/x-ray_delta_one
テスラおよびスペースXのCEOのイーロン・マスク氏は2013年、真空チューブ内を超高速で走行する磁気浮上式ポッド(列車)を考案した。ハイパーループと呼ばれる高速次世代輸送システムだ。
同氏は調査報告書において、ハイパーループの将来性を描き、他のテック企業に商用化へ向けた開発を提案した。現在のところ、2社のスタートアップ、シャービン・ピシェバー(Shervin Pishevar)氏率いるハイパーループ・ワン(Hyperloop One)とダーク・アールボーン(Dirk Ahlborn)氏率いるハイパーループ・トランスポテーション・テクノロジーズ(HTT)が、実用化に向け最も近いポジションにいる(マスク氏は7月に、ワシントンD.C.~ニューヨーク間を結ぶトンネル建設の「口頭による政府承認を得た」とツイートし、自身のプロジェクト始動をほのめかしている)。
しかし、空気圧を利用した輸送システムを提案したのは、マスク氏が初めてではない。ブログメディアのio9が指摘するように、ハイパーループの起源は、17世紀後半に世界で初めて人工的に真空状態を作り出せるようになって以後数十年をかけてたどり着いた、空気力学(加圧された空気)を応用した「地下高速輸送システム」というコンセプトにある。
マスク氏をハイパーループ構想へと導いたテクノロジーの歴史を振り返ってみよう。
1799年、発明家のジョージ・メドハースト(George Medhurst)氏が、空気圧を利用し鋳鉄パイプを通じて荷物を運ぶシステムを考案。1844年、同氏はロンドンに乗客の荷物専用の駅を建設。このシステムは1847年まで利用された。
ブルネル・ジョリーセイラー鉄道の乗客用駅と荷物専用の駅(1845年)
WIkipedia Commons
出典:io9
1850年代半ばにかけて、ダブリン、ロンドン、パリでも圧縮空気を利用した鉄道が建設された。ロンドン・ニューマチック・ディスパッチ(London Pneumatic Despatch)の地下鉄は小包輸送のためのシステムだったが、人が乗ることも可能だった。1865年、開通を記念してバッキンガム公爵が乗車した。
Air Tube Systems UK
この頃、フランスの小説家ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)氏が、大西洋を横断するチューブ列車を描いた同氏初のSF小説、『二十世紀のパリ(Paris in the 20th Century)』を出版している。
1860年代半ばには、南ロンドンが、クリスタル・パレス・パーク内を走るクリスタル・パレス空気圧鉄道を建設。直径22フィート(約6.7m)のプロペラで進んだ。復路ではプロペラを逆回転させ、列車をトンネル内に吸い込み、後進させた。
Wikipedia Commons
1870年から1873年にマンハッタンで運行されたビーチ・ニューマチック・トランジット(Beach Pneumatic Transit)は、ニューヨーク最初の地下鉄の前身だった。アルフレッド・エリー・ビーチ(Alfred Ely Beach)氏が設計。1両列車で、停車駅も1つ。圧縮空気を利用し乗客を運んだ。
Museum of the City of New York
出典:The Atlantic
19世紀末までには、主要都市のほとんどが、郵便物やその他メッセージの輸送に空気圧チューブを利用していた。今日でも、銀行、病院、工場などで残っている。
ニューヨークの郵便局の空気圧チューブ(20世紀初頭)
Museum of the City of New York
1960年代、NASAはオフィス内のコミュニケーションツールとして空気圧チューブシステムを採用していた。また、ミネソタ州イーダイナのマクドナルド(現在は閉店)では、2011年まで、ドライブスルーで注文された商品を客に提供するのに利用していた。
1910年、アメリカにおけるロケットのパイオニア、ロバート・ゴダード(Robert Goddard)氏が、ボストンーニューヨーク間をわずか12分で移動できる列車を設計。実際の建設に至らなかったが、真空トンネル内で磁気浮上する設計だった。
Wikipedia Commons
20世紀、科学者やSFライターたちはハイパーループのようなシステムを想像するようになった。例えば、SF小説家のロバート・A・ハインライン(Robert Heinlein)氏は1956年、『ダブル・スター(Double Star)』の中で「vacutubes」(真空を意味するvacuumとチューブを意味するtubeの造語)を描いている。
Flickr/x-ray_delta_one
1990年代初め、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究員たちがニューヨークーボストン間を45分で結ぶ真空チューブ列車を設計。マスク氏のハイループ同様、磁気の線路を必要とした。
MIT
2000年代初め、輸送スタートアップET3が空気圧と磁気浮上を利用した列車を設計。このデザインの特徴は、高架方式のチューブを走行する車サイズのポッドだ。
ET3
2010年に発表されたフードチューブズ(Foodtubes)も、同様の構想だ。ただし、チューブは地下にあり、輸送するのは食品。食品の入った容器が、時速60マイル(約96 km)の速度でチューブ内を移動する。イギリスでの建設には1マイル(約1.6 km)あたり約800万ドル(約8億8300万円)の費用がかかる(ただし、まだ構想段階)。
FoodTubes
出典:Ars Technica
その3年後、イーロン・マスク氏が57ページにおよぶハイパーループ構想の概要を「白書」にまとめた。同氏の設計によると、チューブを高速走行するポッドは28人乗り。ニューヨークとワシントンDCは29分で結ばれると同氏は最近ツイートした。
Tesla
マスク氏がハイパーループ建設を提案しているスタートアップの1社HTTは2016年、カリフォルニア州クエイ・バレーにおいて5マイル(約8 km)のテスト・トラック建設に着工、現在進行中だ。同社は列車の速度が時速760マイル(約1200 km)に達することを目指している。
Hyperloop Transportation Technologies
もう1社のスタートアップ、ハイパーループ・ワンは2017年7月、ネバダ州に同社が建設した本格的なテスト・トラック「DevLoop」でのテスト走行に成功した。磁気浮上を利用し、列車の速度は最高時速70マイル(約112 km)に達した。同社は今後、時速250マイル(約400 km)を目指す。
ネバダ州ノースラスベガスで行われたハイパーループ・ワンの公開テスト走行の様子(2016年5月11日)
Reuters/Steve Marcus
中国のある科学者グループは、水中の空気圧列車を構想している。2017年、中国科学院の研究員は潜水艦鉄道を提案。理論上、マスク氏のハイパーループを大きく上回る、時速1240マイル(約1984 km)での走行も可能としている。
中国科学院の潜水艦鉄道の構想図
Chinese Academy of Sciences/Chinese Academy of Engineering
いつの日か、これら全ての構想が一体となり、輸送に革命を起こすハイパーループが実現するかもしれない。
HTTによるハイパーループ完成予想図。
Hyperloop Transportation Technologies
[原文:The design behind the Hyperloop dates back long before Elon Musk — take a look at its evolution]
(翻訳:Ito Yasuko)