人生では「難しい選択」こそチャンス ── 金融マンからDELL、Googleへ。今は最先端ロボットベンチャーで働く男のキャリアストーリー

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「ときどきわからなくなるんです。自分が実際にすごいことをやれているのか、それともGoogleという会社がすごいだけなのかが」

そう語るのは、伊佐裕也さん。英国オックスフォード大学を卒業後、ロンドンの花形・金融マンとなるも、後に転職してマーケターに転身。DELL、SONY、Googleといったグローバル企業を経験して、今はロボットベンチャー企業・Rapyuta Roboticsに務めています。

今回は、「誰もが直面する人生の課題」を実際に乗り越えてきた「先輩ビジネスパーソン」のキャリア、それを話のタネにして語り明かし、学びや気づきを得るイベント「キャリアストーリー」から伊佐さんの「華々しいキャリアの裏にある、生々しい葛藤」をご紹介します。

伊佐裕也(いさ・ひろや)


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Rapyuta Robotics株式会社のマーケティング・PR部門を統括。シュローダー・インベストメント・マネジメント、DELL、SONYなどさまざまな業界でマーケティング業務に従事した後、2011年2015年にはGoogle Japan株式会社のSMB中小・中堅企業マーケティングチームを統括。SMB向けウェブサイト構築サービス「みんなのビジネスオンライン」等多様なビジネス向けの施策をリード。その後freee 株式会社にて「マジで価値あるマーケティング」を実践するマーケティングチームを牽引し、2017年より現職。英国オックスフォード大学政治経済学部学士号、INSEAD経営大学院MBA取得。

求めていた充実感と後につながる人脈を得たDELL時代

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現在はマーケティングとPRを仕事にしている伊佐さんですが、大学卒業に進んだのはロンドンの金融会社。給料は良く、休暇も年5週間と恵まれた環境でしたが、6年目にしてお金がお金を生んで増えていく金融の世界にイマイチやりがいを感じられず、「僕はこの仕事を今後もずっとやっていくのだろうか?」と違和感を覚えます。

そこで伊佐さんが思いついたのはビジネススクールに行ってMBAを取ってみること。

伊佐:先を見据えてこれからのキャリアを決めたいと思っていたので、考える時間が欲しかったんです。イギリスで再就職することはできるだろうと思っていましたが、今、日本に転職しなかったらもう日本で働くチャンスはないんじゃないかと。

MBAを終えた伊佐さんはマーケターとしてDELLに転職、日本でPCの販売戦略を担当することになります。入ってみると販売台数のターゲットが非常に細かく設定されていて、「×月×日の午前中にはPCを×台売ること」というように数時間単位で目標が定められていたそうです。

伊佐:午前中の売上が達成できなさそうだと、大急ぎで追加プロモーションを検討するんです。たとえば、よくやったのがオンラインセールです。 担当商品はPCなので、スペックを通常より上げてお得感を出し、ウェブサイトに来てくれた人には確実に買ってもらえるようにします。スペックアップにかかる費用を回収しつつ目標を達成できるかバタバタとシミュレーションを行い、実行に移さないといけません。そのリアルな手触り感は金融業界にはないものでした。

加えて、DELLで一緒に働いた人たちとはその後のキャリアに影響を及ぼすほど、深い関係を築きます。


伊佐:当時、一緒に働いた人たちはみんな転職したり起業してしまって、もう誰もDELLには残っていません。それでも未だにつながりはあって「あの頃のDELLは良かったね」なんて話をするんです。直接的にキャリアが交わる人もいました。たとえば、DELLで僕の最終面接をしてくれた人とは、Googleに同日入社することになりました。

金融業界で働き続けるという選択も悪いものではなかったはずですが、伊佐さんは新しい世界に踏み出すことのほうを選び、仕事への手応えや後に続く人間関係などを得ることに成功しています。

なぜみんなGoogleを辞めていくのか

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イベント「キャリアストーリー」は、少人数の参加者と食事を共にしつつ、ゲストであるちょっとすごいビジネスパーソンと語り合う。参加者からは多数の質問があったが、質問が集中したのはやはりGoogle時代のこと。

その後、伊佐さんはGoogleに入社。Googleの広告サービス「AdWords」の日本国内のマーケティングを担当します。AdWordsはGoogleの検索結果に広告を表示できるサービスです。今では多くの企業が利用するサービスとなり、Googleの売上の大半を占める巨大サービスとなっていますが、伊佐さんが入社した当時は更に新規ユーザーを増やすために、マーケティングと営業の新しい連携の形を模索している段階でした。

興味深いのが、データドリブンなイメージのあるGoogleでも「泥臭い仕事」が欠かせなかったということ。

伊佐:AdWordsという広告を売るためには「出稿見込み企業リスト 」が必要になります。その作り方には2つの考え方ありました。

1つは業種や企業規模などから広告予算を推測し、出稿の見込みが高そうな企業をリスト化して、営業が優先的にアプローチするデータサイエンス的な手法です。Googleらしいかっこいいアプローチなのですが、それだけではうまくいかないんですよ(笑)。

結局、うまくいったのはこのデータサイエンス的な手法に泥臭い手法を掛け合わせた場合でした。実際に広告予算を持っている企業とは要するに「すでに広告をどこかに出しているところ」なんですよ。たとえば、雑誌の広告やTVCMを片っ端からチェックして出稿している企業をリスト化したりもしました。半ば総当たりみたいな方法ですが、これも大切なデータになります。こうしたさまざまなデータを組み合わせ、見込みの高い企業から優先的に効率よく営業がアプローチできるプロセスを作り上げました。

仕事はハードでしたが、伊佐さんは「Googleは本当にいい会社」と評価していました。それは「チームで働くおもしろさ」を教えてくれたからです。

伊佐:Googleで学んだのは「すごい人たちがいるとすごい仕事ができるな」ということです。本当に優秀な人たちが集まった当時のチームは最強だったと思っていますし、今でもあんなチームを作りたいと思っています。本当にいい会社です。とても大きな仕事ができました。

しかし、伊佐さんは今はもうGoogleには勤めていません。

伊佐:では、なんで辞めたのかという話になりますよね。まず、ときどきわからなくなるんです。自分が実際にすごいことをやれているのか、それともGoogleという会社がすごいだけなのかが。僕の場合だと、売っていたAdWordsのビジネスモデルがすごすぎて、「僕たちが売らなくなったとして、本当に会社の売上が下がるんだろうか 実は何もしなくても売れていくのでは…」と思ってしまったんです。それに、これはGoogleを辞めていった多くの人がそうだったと思うのですが、働くうちに「もっとチャレンジしたい」と思ってしまうんです。Googleにいるからできることがある一方で、Googleにいるからできないこともあるんです。

本当にグローバルなB2Bビジネスがやりたい

Googleを退職した伊佐さんの次なるチャレンジは、スタートアップで働いてみること。元Google社員が立ち上げたクラウド会計ソフトのスタートアップ勤務を経て、現在はロボットベンチャー・Rapyuta RoboticsでPR・マーケティングを担当しています。どうしてこの会社に入ろうと思ったのでしょうか。

伊佐:1つは、Googleのあとに国内のスタートアップを経験してそのおもしろさを知ったことです。もう1つはグローバルなB2Bビジネスがやりたかったんですね。かつての同僚が働いていたというのも大きかったです。

ビジネススクールの頃よりも希望は具体的になり、さまざまな会社での経験が「自分が行きたい場所」への嗅覚を鋭くするとともに、人間関係がそれを後押ししてくれるという好循環が生まれています。

もちろん、そんな伊佐さんが選んだRapyuta Roboticsも凄まじくおもしろい会社です。一言で言うなら「ロボットの世界のAndroid」を作ろうとしている、超野心的な企業で、既に13億円もの資金調達にも成功しています。


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GoogleのAndroidプラットフォーム向けに開発されたアプリはSamsung製のスマートフォンでも、SONY製のスマートフォンでも動作します。また、Android プラットフォーム向けに開発されたスマートフォンでは既に存在する無数のアプリを使うことができます。Rapyuta Roboticsが開発を進めている「クラウドロボティクス・プラットフォーム」はそのロボット版です。さまざまなロボットをつなぐプラットフォームとして、ロボットのハードウェア開発もソフト開発も簡単に行うことができます。ロボット界のGoogleを目指す会社と言ってもいいでしょう。

チャレンジを重ねてきた伊佐さんですが、そのチャレンジはまだ続くようです。40代にさしかかった伊佐さんは次の3つのことが将来のキャリアを決めるうえで重要だと語ります。

伊佐:若いみなさんに僕から伝えたいのは次の3つです。

1. 自ら行動することでツキを引き寄せることができます。関心をもった会社や人に自分から話を聞きにいくといった積極的な行動が次のキャリアに、次のキャリアにとつながり続けます。

2. すべてはつながっています。「何でこんな仕事をやってるんだろう…」と思うことは僕にもありました。でも今になって振り返ってみると、それが今につながっているんですよね。

3. 難しい選択はむしろチャンスです。選択肢が2つあって、どちらか一方が圧倒的にいいなら、いい方を選ぶだけ、とても簡単な話です。難しいのは、「正解がない選択」ではないでしょうか。僕の場合なら、Googleを辞めたときがそんな選択でした。すばらしい会社に居続けるべきか、それとも新しいチャレンジをするべきか。どちらを選んでもいいんです。だからこそ、それは「自分は本当はどうなりたいのか」「自分の本当にやりたいことはなんだろう」と自問して答えを知ることができる最高の機会になるんです。

イベント参加者の「どの会社が一番楽しかったですか」という質問に「そのときそのときが楽しかったですね。いつでも今が一番楽しいんです」と伊佐さんが断言できてしまうのは、きっと目の前のことに全力を尽くしてきたからなのでしょう。

イベントの感想には「境遇などは、かなり私と異なり、単純には参考に出来ないかな、と言うのが、まず印象に残りました。しかし、考え方や出来事の捉え方などとても参考になりました」というものがありました。

イベントの狙いはまさにここにあります。

優れた先輩と同じ道を歩むことはできずとも、そのマインドを自分の人生に生かすことはできるはず。ただ、それをどう生かすのかは、実際に話を聞いて、自分で考えてほしい──

今後も、キャリアストーリーはそうした場として定期的に開催していく予定です。記事でももちろん楽しんで頂けますが、実際にスピーカーと直接やりとりできるイベントで、ぜひ食事とともにお楽しみください。みなさまのご参加をお待ちしております

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(聞き手/世古暁・クラウドヘッドハンターズ株式会社、文・撮影/神山拓生)

ライフハッカー[日本版]より転載(2017年7月13日公開の記事)

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