日本音楽著作権協会(JASRAC)がライブハウスから楽曲の使用料を徴収して著作権者に配分する際の運用が不透明だとして、ドラマーのファンキー末吉さんが8月18日、調査と業務の改善を命じるよう、文化庁に申し入れた。ファンキーさんが主張する、JASRACの“ブラックボックス”とは。
ファンキー末吉さんは、著作権を巡る3つの立場を経験してはじめて、JASRACの抱える問題に気づいたという。
撮影:今村拓馬
「著作権をもらう側、使う側、払う側の3つの立場を経験して、はじめてJASRACのブラックボックスに気がついた」
8月18日に記者会見したファンキー末吉さんは、こう主張する。この日、文化庁に調査を求める上申書を提出した。
JASRACは、作曲家らに代わって音楽の著作権を管理する団体だ。例えばテレビ番組で、あるアーティストの楽曲を使うと、著作権の使用料が発生する。この例では、JASRACは楽曲を使ったテレビ局から使用料を受け取り、著作者に分配することになる。
ファンキーさんは1980〜90年代に「Runner」などが大ヒットしたバンド「爆風スランプ」のドラマー。「3つの立場」とは、作曲者として著作権の使用料を受け取る立場、他人が作曲した楽曲をライブで演奏して著作権を使う立場、八王子市のライブハウスの経営にも関わっていたため出演者たちが演奏した楽曲の使用料を支払う立場だ。
「ライブハウスで払う立場になってはじめて、お金がどのように集められ、著作権者に分配されているのかが分かった。作曲者としてもらうだけではこの仕組みは分からない」(ファンキーさん)
2013年10月、このライブハウスを巡ってJASRACとの間に裁判になった。JASRAC側が「2009年5月以降、無許諾利用を継続してきた」として、ファンキーさんらライブハウス側を提訴。ファンキーさんらは最高裁まで争ったが、2017年7月11日に最高裁が上告を棄却し、ファンキーさん側に約546万円の支払いなどを求める判決が確定した。
ファンキーさんは、訴訟の後も、ライブハウスで演奏された楽曲の使用料の徴収・分配のあり方について、「ブラックボックス」があると主張している。
文化庁の作花文雄・官房審議官(肩書は当時)は、2014年4月25日の衆議院内閣委員会でJASRACの徴収・分配について説明した。
コンサートとライブの徴収・分配方法の違い(ファンキー末吉さん側の上申書の付属資料を基に作成)
制作:小島寛明
会議録によると、テレビやラジオなどの放送の大部分、カラオケなどについては、楽曲を利用した事業者からの報告に基づいて徴収している。
一方、ライブハウスなどの「社交場」については、サンプル調査に基づいて使用料を算出している。統計学に基づき、無作為に調査対象の店を選び、直接訪問するなどして、特定の1日に演奏された楽曲の情報を集める。JASRACはこうした情報を基に使用料を推計して、著作権者に分配している。
ライブハウスにサンプル調査を採用している理由について、作花氏は「実際に利用された曲目全てを報告するということは、利用者側にとっても大きな負担となる」と説明している。
JASRACは同じ生演奏でも、コンサートホールとライブハウスでは異なる徴収方法を採用している。
コンサートホールでは演奏者が曲ごとに許諾を申請して使用料を支払い、著作権者は曲ごとに使用料を受け取る。
一方、ライブハウスではおもに、演奏者は利用許諾を受けられず、ライブハウスが毎月決まった額を支払う包括許諾の方式が採用されている。包括許諾の場合は、JASRACがサンプリング調査を基に演奏されている曲目の比率を算出し、使用料を著作権者に分配する。上申書によれば、どのライブハウスをサンプリング調査の対象としたかについては、JASRACは明らかにしていないという。
サンプリング調査では、ライブハウスで演奏される頻度の低い曲は、調査から漏れる可能性がある。ファンキーさんは「ライブで自分の曲も演奏しているが、使用料は全然入ってこない」と話す。持ち歌の少ないアイドルのライブで頻繁にカバーされているが、JASRACから全く使用料が支払われないと主張する著作者もいる。
記者会見する鈴木仁志弁護士(左)とファンキー末吉さん(右)。
撮影:小島寛明
JASRACは、コンサートホールやイベントでの演奏についてはインターネットを通じて利用許諾を受ける仕組みを導入している。鈴木弁護士は「ライブハウスについては、ITがない時代の運用が続いており、権利者に正しく使用料が支払われないことが問題だ」と話した。
著作権等管理事業法は、著作権管理の事業者が、委託者や利用者の利益を害する事実があると認めるときは、文化庁が事業者に対して業務の改善を命じることができると定めている。
ファンキーさんは「きちんと著作者に分配されるべきだ。文化庁に調査して、違法であれば改善するよう命令してほしい」と訴えた。
JASRACの広報担当者は取材に対して、「内容を把握していないため、コメントを差し控える」と回答した。
使用料徴収を巡っては、音楽教室とJASRACの争いも起きている。ヤマハ音楽振興会など音楽教室を展開する251社が6月20日、JASRACを相手に、音楽教室での演奏についてはJASRACが使用料を請求する権利がないとの確認を求めて、東京地裁に提訴している。