Darren Weaver
もう、脳のパフォーマンスを高めるために薬を飲む必要はない。
オックスフォード大学の研究チームが、2015年に行った分析によると、睡眠、運動、脳トレーニングなどの、薬を使わないで認知能力を向上させる方法(NPCE:non-pharmacological forms of cognitive enhancement)は、モダフィニル、メチルフェニデート、カフェインなどの薬で認知能力を向上させる方法(PCE:pharmacological forms of cognitive enhancement)と同じ効果があることが明らかになった。
「大量のデータを用いて両者の効果を比較したメタ分析では、データの新旧は考慮されていないものの、それでも薬を使う方法(PCE)は薬を使わない方法(NPCE)に比べて、より効果があるとは言えない」と同研究チームのルシアス・カビオラ(Lucius Caviola)氏とナディラ・フェイバー(Nadira Faber)氏は述べた。
認知能力を向上させる薬、いわゆる「スマートドラッグ」の効果は、注意力、短期的な記憶能力、思考速度、覚醒度合の向上などだ。スマートドラッグは脳内のセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの分泌を促進することによって神経伝達物質レベルで効果を発揮する。
一方で薬を使用しない、自然な認知能力向上方法の効果は以下の通り。
- 良い睡眠習慣は記憶能力、創造力、問題解決能力の向上に効果があると考えられる。たった6分の昼寝でも効果がある。
- 集中した運動(短期間での密度の濃い運動)は、モチベーション、記憶能力、学習速度の向上に効果があり、その効果は48時間後まで持続する。通常の運動は、脳のサイズ、血行促進、各部位同士のつながりの強化のみならず、記憶力、注意力、思考速度の向上、学業のパフォーマンス向上に効果がある。
- 脳トレーニングのために開発されたプログラムは記憶力、注意力、視覚認知能力の向上などに効果があり効果は3カ月間持続する。テトリスのようなゲームから外国語学習、何か新しいことを始めることなども同様の効果が見られる。
ただし、このような認知能力の向上方法は段階的なもの。劇的な効果はなく、今すぐアインシュタインのような天才になれるわけではない。しかし、自然な(薬を使わない)認知能力向上方法は「スマートドラッグ」と同様の効果がある。
一方、「スマートドラッグ」には通常の薬にはない副作用がある。健康上の副作用に加え、場合によっては認知能力を弱めることが確認されている。
例えば、モダフィニルは創造力と思考の柔軟性を低下させ、判断に過信を招く可能性がある。「スマートドラック」を摂取したチェスプレイヤーが時間管理能力を低下させたという研究結果もある。勉強に集中しようとメチルフェニデートを摂取した学生が注意散漫になり、何時間もかけてクローゼット整理をしてしまったという話は珍しくない。
「スマートドラッグ」に関するオンライン掲示板等では、このような副作用について目にする機会は少ないだろう。しかし、カビオラ氏とファイバー氏は「副作用を軽視してPCEに依存すること」に対して警鐘を鳴らしている。
PCEはまだ研究の初期段階にあり、今後の研究や新しい薬がより強力な効果を発揮する可能性はある。
薬であれ、なんであれ、認知能力を向上させる方法には限界があるようだ、と両氏は述べた。特にすでに高い認知能力を持つ人(おそらく脳内の神経伝達物質のレベルが最高レベルの人)にはその傾向が見られる。つまり、あなたには、睡眠と運動だけで、もう十分かもしれない。
[原文:Sleep and exercise could be as powerful as any 'smart drug']
(翻訳:Satoru Sasozaki)