2017年上半期の新規上場企業は39社。前年同期と比べて1社少なかったが、中・小型株に対する個人投資家の需要が強く、IPO(新規株式公開)市場は引き続き底堅さを維持した。IPO動向は経済活動を映す鏡と言われるが、今年のキーワードはeコマース、シェアリングエコノミー(シェアエコ)、物通、フィンテックだ。
回転寿しのスシローと、ラーメンの「一風堂」を展開する力の源ホールディングスは、外食における上場企業として注目された。
撮影:今村拓馬
回転寿しのスシローグローバルホールディングスや、ラーメンの「一風堂」を国内外で展開する力の源ホールディングスなどの小売業が注目を集める一方、拡大を続けるeコマース業界からは通販サイト「LOCONDO.jp」を運営するロコンドがマザーズに上場した。
あずさ監査法人がまとめた報告によると、業種別では、情報・通信業が一番多く12社、次いでサービス業が11社、小売業は6社だった。eコマース関連では少なくとも5社が上場した。東京証券取引所によると、7月に4社、8月には3社が上場。
9月に上場を予定している企業は8月25日現在、8社となっている。そのうちの1社が家計簿アプリ・ソフトのマネーフォワード。同社は8月25日、東証から新規上場の承認を受けた。9月29日にマザーズに上場する。
ダウ平均史上最高値と米ユニコーン企業の大型IPO
ニューヨーク・ダウ平均株価が初めて2万2000ドルを突破し、熱気に覆われたアメリカの株式市場では、企業価値10億ドル(約1090億円)を超えるいわゆる「ユニコーン」と呼ばれるベンチャー企業が軒並み上場を果たした。中でも、スナップチャットを運営するスナップ(Snap)や、食材キット宅配サービスのブルーエプロン(Blue Apron)、ビッグデータ解析のクラウデラ(Cloudera)が注目を集めた。
一方、国内では、初値をベースに時価総額が一番大きかったのはスシローで941億8400万円。次いで、ホームセンターを展開するLIXILビバが870億7000万円。プライベートエクイティ・ファンドのベインキャピタルが保有していたオンラインマーケティング・リサーチのマクロミルは第3位で721億700億円だった。
【初値時価総額ランキング】
上場日 | 会社名 | 業種 | 市場 | 初値時価総額 |
---|---|---|---|---|
3/30 | スシロー | 小売 | 東証一部 | 941億8400万円 |
4/12 | LIXILビバ | 小売 | 東証一部 | 870億7000万円 |
3/22 | マクロミル | 情報・通信 | 東証一部 | 721億700万円 |
3/27 | ティーケーピー | 不動産 | マザーズ | 499億4900万円 |
3/30 | ユーザーローカル | 情報・通信 | マザーズ | 452億2600万円 |
(出所:あずさ監査法人)
最近では、衣食住における消費者の購買意識の変化もあり、eコマースの活用シーンが多様化してきている」と話すのは、あずさ監査法人・IPOサポート室長の鈴木智博氏。
撮影:Business Insider Japan
「国内の隅々まで網羅する物流ネットワークを有する物流大国・日本では、既存の流通企業とは異なるビジネスモデルを有するeコマース関連の新興企業の活躍が期待される。最近では、衣食住における消費者の購買意識の変化もあり、eコマースの活用シーンが多様化してきている」と話すのは、あずさ監査法人・IPOサポート室長の鈴木智博氏。
プリント基板のeコマース事業を運営するピーバンドットコムが3月9日にマザーズ市場に上場し、EC運営企業の物流センター管理・配送を手がけるファイズは3月15日、同市場に上場した。
EC事業者を支援するテモナは4月に上場企業となった。中古車やバイク、高級ブランド品などを扱うインターネット・オークションを運営するオークネットは3月29日、東証一部に上場。初値の時価総額は341億円に達した。
【上場したeコマース関連主要5社】
上場日 | 会社名 | 市場 | 初値時価総額 |
---|---|---|---|
3月7日 | ロコンド | マザーズ | 135億7200万円 |
3月9日 | ピーバンドットコム | マザーズ | 77億3100万円 |
3月15日 | ファイズ | マザーズ | 97億8400万円 |
3月29日 | オークネット | 東証一部 | 341億5000万円 |
4月6日 | テモナ | マザーズ | 102億6400万円 |
(出所:あずさ監査法人)
佐川急便のSGホールディングス、上場承認は早秋か
市場が注目している2017年の大型上場は、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスだろう。SGホールディングスは6月、東京証券取引所に上場申請を行った。早ければ、9月にも東証は上場を承認するのではとの声も市場から聞こえてきた。上場時の時価総額は3000億円を超えると言われている。
SGの上場申請は早ければ9月にも承認されるだろうとの声が聞かれる。
Shutterstock
SGホールディングスの売上高にあたる営業収益は9300億円、営業利益が494億円。佐川急便を核に物流事業が営業収益の多くを稼ぐ。また、SGホールディングスは2016年にB-to-B分野に強い日立物流と資本・業務提携を締結。上場後のSGは、業界で先を走るヤマトホールディングス(時価総額:約9115億円)と日本通運(約7445億円)を追い上げていく。
2016年3月30日、日立物流との資本・業務提携提携の記者会見の席で、両社トップは、「経営統合」は今後の目標の一つであると発言している。
「現時点で、経営統合に関する交渉のテーブルはあるわけではない。資本・業務提携のシナジー効果を最大限に引き出す話し合いをしている」とSGホールディングス・広報担当者。「上場の目的は、コーポレート・ガバナンスを強化して、透明性の高い企業作りである」と述べ、上場の詳細に関するコメントは控えた。
下半期にはシェアエコ分野でのIPOが加速
eコマースに加えて、UberやLyftなどのライド・シェアリングがアメリカでは急拡大しているが、日本でも自動車を所有しない人が増えるなど、“所有”から“共有”(シェア)の流れを背景として、下半期から来年にかけて、シェアリング・エコノミーの分野で事業拡大を目指す企業によるIPOは期待できる、とあずさ監査法人の鈴木氏は言う。日本経済新聞は、個人間のフリマアプリのメルカリが年内上場を目指していると報じた。
「働き方改革の一環としてのリモートワークやインバウンド需要増加による民泊関連事業の広がり、リユース品のCtoCサービス、ブランド品のシェアなど、幅広い分野でシェアリングビジネスが普及しつつある」と鈴木氏。「一般的に、年間のおよそ55%の新規上場は下半期に行われ、上半期における上場は45%程度。依然として、ベンチャー企業の創業者のIPO志向は強く、2017年の新規上場会社の堅調な株価推移を受けて、早期のIPO実現に向けた想いを一層強くしている印象がある」と鈴木氏は語った。
【最近5年間の新規上場会社数】
2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | |
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上半期IPO社数 | 20 | 26 | 43 | 40 | 39 |
年間IPO社数 | 54 | 77 | 92 | 83 | -- |
(出所:あずさ監査法人)