中国海軍がジブチに初の海外基地——中東からバルト海まで地球規模で活動拡大する中国

北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐる米朝チキンレースの影に隠れているが、注目すべき中国の動きが進んでいる。

中国海軍がこの夏、初の海外基地をホルムズ海峡のジブチに設置し、欧州のバルト海ではロシアと初めて軍事合同演習を行ったのである。習近平総書記の戦略的な経済圏構想「一帯一路」と共に、中国海軍の活動範囲は中東から欧州へと地球規模で拡大している。米中のパワー・シフトが明らかになりつつある。

中国海軍画像1

中国海軍の活動範囲は中東から欧州へと拡大している。

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軍事目的を隠さない報道

人口90万人のジブチは、原油の輸送動脈のホルムズ海峡入り口にある戦略要衝である。ソマリア沖の海賊対処活動の拠点としてアメリカや旧宗主国フランスのほか、自衛隊もここに拠点を置いてきた。

東アフリカ地図

中国は2016年2月、初の海外補給基地として建設計画を公表。この8月1日、現地で中国海軍副司令官とジブチ国防相が出席し、華々しく駐留開始式典が行われた。中国が海軍艦船をソマリア沖に初めて派遣してから9年が経っている。

8月1日は中国人民解放軍創設90周年の記念日でもあった。習氏は、北京の建軍記念式典で「領土主権と海洋権益を断固として守る」と、海洋権益の保護を強調した。

ジブチの基地の目的について、中国国防省は「アフリカや西アジアの平和維持および人道支援活動にあたる」と説明するが、新華社通信は「軍事協力や海軍演習、救出作戦などの拠点として使われる」と詳しく報じた。軍事目的を隠さないのは最近の中国報道の特徴でもある。

実は7月末、ジブチに停泊中の中国海軍ミサイルフリゲート艦「衡陽」などに海上自衛隊の潜水員が「違法」に接したと、中国紙「検察日報」が非難する“事件”があった。自衛隊は報道を否定したが、ジブチでの活動で先行する自衛隊が、人民解放軍と「火花」を散らした格好だ。事実なら、劣勢を挽回しようとする自衛隊の焦りが目に浮かぶような話だ。

バルト海では中ロ合同演習

そのころ、ジブチから1万4000キロも北のバルト海に、「中国版イージス艦」のミサイル駆逐艦「合肥」など、中国海軍艦隊がゆっくりと姿を現した。ロシア領のカリーニングラード沖で、ロシア海軍と合同軍事演習に参加するのが目的。中国艦隊のバルト海演習は初めてで、7月中旬から1週間にわたって対潜水艦訓練を行った。中ロ海軍の合同演習は2012年に開始され、2016年は南シナ海で、9月は日本海とオホーツク海で行われる。

バルト海地図

中ロ合同演習について中国紙「環球時報」(7月27日付)は、興味深い論評を書いている。論評は「(中ロ演習は)欧州諸国の中国への疑念を招いた面があった」と「中国脅威論」を高めたことを率直に認めている。

だが同時に「中国がジブチに海軍補給地を建設しただけで、西側は目を光らせた」と、西側の警戒に反発。中国の経済規模がアメリカと並ぶころ、「世界の各地域は中国軍艦の姿を目にすることになろう」とし、「(中国海軍の)活動範囲が世界規模に拡大することに慣れる必要がある。これは中国の挑発や武力誇示ではなく、正常かつ自然な推移だ」と結んだ。

ジブチ基地やバルト海演習が、中国海軍の地球規模での活動拡大をにおわす自信にあふれた内容だ。ただ、この新聞は多少誇張気味に書くくせがあることは覚えておいた方がいい。

インド洋の「象」と「龍」の確執

バルト海で中ロ合同演習がはじまったころ、インド洋のベンガル湾では、海上自衛隊最大のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」が、インド海軍の空母ビクラマディティヤ、米原子力空母ニミッツと並んで航行した。1週間にわたる共同演習「マラバール」である。日米印を代表する大型艦艇がそろい踏みした初の共同演習の目的は「インドと日本とアメリカが中国をけん制するメッセージ」とみていいだろう。

中国軍艦のインド洋航行が増す中、インドは警戒と疑念を高めてきた。米軍事ジャーナリスト、ロバート・カプラン氏は米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」(2009年3・4月号)に、「(中国が)インド洋の東と西への陸海双方で影響力を強めていくにつれ、インドは中国と制海権をめぐる争奪戦を展開する」と予測している。

世界のエネルギー需要は今後15年で約40%増大するが、この半分を「龍」(中国)と「象」(インド)の需要が占める。龍の需要は過去10年間で倍増し、象は世界第4位のエネルギー消費国。インドは原潜3隻と空母3隻を既に持つ、世界有数の海軍大国でもある。

中国がインド洋のパキスタン、バングラデシュ、ミャンマー、タイなど友好国内に港湾・石油・軍事・輸送施設を次々と建設し始めたのは2003年ごろから。これらの諸都市を1本の線で結ぶと、「ウシの顔」のようなインドの顔の「首飾り」に見える。米コンサルティング会社はこれを「真珠の首飾り」と命名した。

米中国情報誌「China Brief」の編集者ピーター・ウッド氏は、ジブチ基地について「直ちに軍事目的は言えない」と分析しながら、中国の目的を①原油などの輸送ルートの確保による経済権益の保護②「真珠の首飾り」の諸都市と同様の目的、とみる。ただ長期的には、インド洋における中国の存在感を高める戦略的意義を持つとみている。

自信深める中国海軍

中国海軍写真2

中国軍が情報公開の透明性を高めているのは、自信の表れとみてとれる。

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中国自身は、活動範囲を拡大することをどう位置付けているのだろう。2009年の中国国防白書は「海軍は1980年代以来、近海防衛戦略への転換を実現した」と、近海防衛戦略が約30年で「完成段階にある」と総括した。

そして2015年白書では初めて近海防衛に加えて、「遠海護衛」をうたっている。近海から遠洋、目的も海洋資源獲得にシーレーン防衛という「海外経済権益確保」が加わり、着実に海軍力を強化してきた。

空母「遼寧」が2016年12月から今年初めにかけ、宮古水道から初めて西太平洋に抜けたのも「遠方への戦力投射能力の向上」(2017年版「防衛白書」)の表れである。中国海軍は2009年4月末、中国側は青島港での中国海軍創設60周年祝賀パレードに、自衛隊を含め29カ国軍代表を招き、非公開だった原潜を初披露した。

中国軍関係者はかつて筆者に、「中国の透明度が低いことを問題にするが、それは自分の装備と技術に自信がないからだ」と説明したのを思い出す。原潜公開や空母建造の公表は、中国軍が次第に実力と自信を持ち始めた表れとみてよい。「環球時報」の自信にあふれたコメントをもう一度読んでほしい。

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