バノン氏が狙う極右テレビ局立ち上げと「全面戦争」——政権離脱で勢いづく白人至上主義

「Fire Bannon(バノンをクビに)」

「No Bannon(バノンはいらない)」

反トランプ派のデモで、必ず見られる看板だ。極右サイト「ブライトバート」の前会長、スティーブ・バノン氏が首席戦略官として、ホワイトハウスのオーバルオフィス(大統領執務室)に出入りしているのは、リベラル派にとって「身の毛がよだつ」(デモ参加者)事実だった。

2016年11月19日シカゴでのデモ

トランプ氏が大統領選に当選した直後から、反トランプ派のデモではバノン氏を非難する看板が並んでいた/2016年11月、シカゴで。

vnews.tv / Shutterstock

トランプの敵と「全面戦争」宣言

8月18日、ホワイトハウスは、「ジョン・ケリー首席補佐官とスティ―ブ・バノンは、お互いに今日がスティーブの最終日になると合意した」と発表。リベラル派の悪夢が終わるかと思いきや、バノン氏は数時間後、ブライトバート会長へ復帰し、右派にでさえ「全面戦争」を宣言した。バノン氏の復帰で、極右派がますます勢いを得そうで、アメリカは1960年代の公民権運動以来の不穏な情勢になりそうだ。

バノン氏はブルームバーグ・テレビに対し、「戦争」の内容を語った。

「自分はトランプのために、トランプの敵と戦争を始める。キャピトル・ヒル(連邦議会)やメディア、アメリカ経済界にいる、トランプの敵とだ」

アメリカでは1週間前、南部のバージニア州シャーロッツビルで、白人至上主義者や極右が人種差別反対派の市民らと対立し暴動に発展。女性1人が、命を落とした。直後に、トランプ大統領が「『いろいろな側』を非難する」として、白人至上主義、クー・クラックス・クラン(KKK)など人種差別主義を特定して否定しなかったことで、アメリカ国内はさらに騒然となった。

移民国家としての成り立ち、公民権運動などの歴史から、大規模な集会など開けなかった日陰の身のはずの白人至上主義者、KKK、ネオナチなどが、シャーロッツビルのような平和な大学街に集結したことですら大きな衝撃だった。一方の、白人至上主義者らにとっては、シャーロッツビルに集合できたことが「大きな成果」だ。今後も各地で、彼らが集会を開く可能性は大きい。

そこに、ホワイトハウス首席戦略官と、極右の思想家としては最高位に上り詰めたバノンが、下野してくる。絶妙のタイミングだ。

米メディアによると、バノン氏は、保守系テレビFOXのさらに右、つまり極右のテレビネットワーク局を設立する計画を友人に漏らしているという。

バノン氏とトランプ氏

ホワイトハウスで、バノン氏はトランプ氏に極右的な考えを進言してきた。

Chip Somodevilla / GettyImages

バノン氏はホワイトハウスで、移民・難民の排斥、人種対立を煽る考えを進言し、トランプ氏に影響を及ぼしてきた。逆に、穏健派でグローバリズム、グローバル経済を支援する長女で大統領補佐官のイヴァンカ氏、その夫で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏と対立を繰り返してきた。実際にブライトバートは、夫婦ら穏健派を「ホワイトハウス・グローバリスト」と非難している。

連邦議会ではジョン・マケイン上院議員など共和党穏健派の重鎮らがバノン氏やトランプ氏の壁となり、オバマケア(オバマ前大統領の医療保険制度)の改廃などトランプ氏の公約が次々とほごにされている。バノン氏がテレビ局を作ってまでも伝統的で穏健な保守派を否定したいと闘志を燃やすルーツがここにある。

マイノリティーがホワイトハウスに

バノン氏がホワイトハウスに在籍したことは、アメリカ社会にとって想像以上の影響がある。かつて政権を取ったブッシュ氏など共和党大統領が、決して支持を得られなかった極右の支持者を、つなぎとめることができたことだ。バノン氏はマイノリティーと見なされてきた極右を、ホワイトハウスに影響を及ぼす地位にまで引き上げることに成功した。

トランプ氏の支持率は30%台、不支持率が60%台という悲惨な状況だが、極右の間での支持率は90%前後。バノン氏が今後これらの有権者と容易に接することができるようになるのは、極右にとってあまりにも都合が良すぎる。

一方で、ホワイトハウスの混乱は続く。イヴァンカ氏やクシュナー氏と対立するバノン氏がいなくなっても、トランプ氏自身が「異常な」ホワイトハウス運営を続けており、かつてないホワイトハウスの「混沌」が続くのは間違いない。

シャーロッツビル事件に対するトランプ氏の反応を受け、大統領の諮問会議メンバーである企業の最高経営責任者(CEO)らが相次ぎ辞任し、トランプ氏を見限った。これに対し、トランプ氏は、ツイッターで「製造業評議会と戦略・政策フォーラムで、企業経営者にプレッシャーをかけるより、2つの会議を解散する」と逆ギレのようなコメントを発した。

著名投資家カール・アイカーン氏も18日、大統領特別顧問を辞任すると発表、トランプ氏はますます「裸の王様」状態になりつつある。

ニューヨークのデモ

ニューヨークで行われた反トランプデモでは、トランプ氏を乗せた車が到着すると怒号に包まれた。

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トランプ氏が就任後初めてニューヨークのトランプタワーに戻った14日は、人種差別やナチズムを糾弾するデモが起き、トランプ氏の車列が怒号に包まれた。バノン氏が解任された翌19日は、反人種差別を訴える集会がボストン、テキサス州ダラス・オースティン、ルイジアナ州ニューオーリンズなど各地で開かれ、ボストンは約4万人が集まった。

デモの現場には、白人至上主義者や極右が自らの意見を主張するために現れる。各地の警察は、シャーロッツビルのような衝突を避けるため、反人種差別派から遠ざけるように、白人至上主義者らを隔離し警護している。

ホワイトハウスというガラス玉の中にとどまっていた「混乱」が、バノン氏が一般人に戻ったことで、外に波紋が限りなく広がっていく。バノン氏がホワイトハウスに在籍した200日は、極右にとって誇りだ。極右はバノン氏の解任で、むしろ活気づいている。それが、アメリカのさらなる混乱につながるようで、先行きが恐ろしい。

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