8月9日から15日まで、横浜で「ピカチュウだけじゃない! ピカチュウ大量発生チュウ!」が開催された。2016年7月に公開され、大ヒットしたスマホゲーム「Pokémon GO」に関するイベントだ。配信開始から1年が経過し、「当初の勢いはなくなった」などと言う人もいるが、イベントはきわめて活況だった。イベントの中心地域であるみなとみらい地区には、累計200万人以上が訪れ、1億2千万匹以上のポケモンが捕まえられたという(主催者調べ)。
一方で、大規模な集客が行われたこと、Pokémon GOというゲームの特質上の課題も色々と見えてきた。
会場周辺で撮影。年齢層が幅広く、まさに子供から高齢者までが参加する、家族で楽しめる大規模イベントだった。
海外のポケモンイベントのような通信障害は発生しなかった、が……。
「ピカチュウだけじゃない! ピカチュウ大量発生チュウ!」は株式会社ポケモンが主催し、Pokémon GOを開発・運営しているナイアンティックのサポートにより展開されたイベントだ。
株式会社ポケモンは2014年から、横浜みなとみらい地区で「ピカチュウ大量発生チュウ!」というイベントを夏に開催している。ピカチュウがみなとみらい地区をジャックして、パレードやステージイベントが行われる。今年は初めて、公式にPokémon GOと連携する形のイベントとなり、来場者の規模が一気に拡大した。
筆者は取材を兼ね、開催2日目の8月10日(木)に訪れた。熱気はすさまじいものだった。にわか雨の伴うあいにくの天気のなか、皆がPokémon GOを立ち上げたスマホを見ながら歩いていた。しかも家族連れから高齢者まで、年齢が幅広い。Pokémon GOの人気と受容度がいまだ大きいもので、スマートフォンアプリとしては特別な存在であることがよく分かる。
ソフトバンクの移動基地局。イベント対応用だとわかる、バナーを車両につけているのが印象的だ。
こちらはドコモの移動基地局。日本の通信キャリアはコミックマーケット(コミケ)をはじめ大規模イベントの対策ノウハウができており、そのためポケモンGOのような局所的なユーザー増にも大きな通信トラブルを起こさず対応できたようだ。
運営もかなり大規模なものだった。経路の交差点毎に誘導員が配置され、人員誘導もしっかり行われていた。
モバイル通信の絡むイベントだけに特徴的だったのは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった大手携帯電話事業者が移動基地局を配置していたことだ。Pokémon GOは通信ができなくてはプレイできない。約3週間前の7月22日にアメリカ・シカゴで開催された「Pokémon GO Fest Chicago」では通信の混雑が原因で、イベント会場でほとんどプレイできないというトラブルが発生したのとは対照的だ。
日本の携帯電話事業者は、この種の大規模イベントでの混雑対策ノウハウを多数持ち合わせており、完璧ではないものの、「通信を軸にしたイベントを成立させる」状態を維持できていた、といっていいだろう。
慢性的な大渋滞、夜間も続く“ポケモン捕獲”、重くのしかかる地域住民トラブル
とはいえトラブルもあった。特に不満が大きかったのは、開催地である横浜周辺住民からの声だ。みなとみらい地区を中心に、会期中は周辺に慢性的な渋滞が発生。交通が麻痺した。また、夜間にもPokémon GOプレイヤーが地域に滞在した結果、夜間の静穏も失われた。
赤レンガ倉庫周辺。時折の降雨でも来場者が大きく減る気配はない。まさにみんなポケモンGOを夢中で楽しんでいた。
ここには、Pokémon GOというゲームの特性も大きく影響している。一般的なイベントであれば、その開催時間が終われば人はいなくなる。だが、Pokémon GOは、ポケモンが出現し続ける限り、昼夜を問わず、ずっと「イベントは開催中」なのだ。
Pokémon GOのような「滞在型の位置情報ゲーム」では、イベントの社会的影響を、一般的なイベントと同じようには計れない。累計200万人という多数の人々が訪れた理由は、もちろん人気があってのものだ。だが一方で、「何度も来る人」「長時間滞在する人」がいる。Pokémon GO特有のルールが及ぼす社会的影響について、開催側も参加する側も、無自覚な点はなかったか?
開催時のトラブルについて、主催側である株式会社ポケモンとナイアンティックに状況を問い合わせたところ、以下のような回答が得られた。
(特に主催者である株式会社ポケモンとして)「ピカチュウ大量発生チュウ」全体として、今後に課題を残す運営であったと認識しております。来年度以降のイベント開催については未定ですが、イベントの主催者である株式会社ポケモンとしては、横浜市様とも協議を重ねながら、検討を進めてまいりたいと思っております。
Pokémon GOについては、プレイヤーと地域の摩擦が、いくつも指摘されている。ナイアンティックを中心とした運営側が考えるべきことは多数残っているのは間違いない。
Pokémon GOと同じトラブルは、一般的な観光地などでも起きうる、(このシステムの)普遍的な問題だ。受け入れる側(住民)と訪れる側(ポケモンファン)、そしてそこで利益を得る人々の間での相互理解が欠かせない。ブームで売り抜けるのでなく、長期的なビジネスを指向するならなおさらだ。
一方で、プレイする側が「そこに人が住んでいる」ことに、無自覚なことも否めない。一般的な住宅地はもちろん、商業地域であると認識されているみなとみらい地区であっても、地域の「生活」がある。それを忘れがちな人々にきちんと周知する、時にはシステム的に、ルール的に抑制することも必要ではないか。
イベント取材中、来場者の表情は明るかった。特に親子連れの満足度は高かったようだ。その笑顔には大きな意味があると思うし、そこには商圏もある。横浜に住む人々にとっても、マイナスばかりではないはずだ。
「位置情報ゲームに人が集まることで起こるトラブル」だけを見て、ポケモンを悪者にしてはいけない。このゲームの歴史は浅く、だからこそ今年の状況から、運営側もユーザーも多くのことを学べるはずだ。
■関連サイト
イベント公式サイト「ピカチュウだけじゃない! ピカチュウ大量発生チュウ!」