「幸福度」上昇する消費は1カ月◯◯万円まで ——現代人を苦しめる負の浪費サイクルとは

買い物

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「消費の量は、人の幸福度にどう影響するのか」

著書『日本の幸福度』に、そんな興味深い調査結果があります。 大阪大学COE(Center of Excellence) のアンケート調査「くらしの好みと満足度についてのアンケート」の中の一つです。アンケートでは「消費」のみならず、さまざまな要因と日本人の幸福度の関係が調査されています。少し前の2004年のものですが、十分参考になるでしょう。

調査では住宅や車、高額の電気製品などの耐久消費財は除き、世帯全体の1カ月の平均消費額と世帯に属する人の幸福度の平均との関係を見ています。その結果、消費額が45万円までは幸福度も上昇する傾向があるものの、それ以降は明確な増加関係はありません。これによって消費に対する幸福度は、一定の額を越えると飽和すると考えられるそうです。

この本によると、幸福度の研究は近年国際的に盛んになってきていて、上記以外にも消費に関連するものとして、「物質主義は幸福度を低下させる」「金銭により高い価値を置いている国の人々の幸福度が低い」「物質主義の人は社会的関係を軽視し、自分の所得と物質的欲望とのギャップが大きくなるので幸福度は低くなる」などの研究が報告されているそうです。

行き過ぎた「消費」は「不安」を生む

なぜ人は「消費」から幸せを感じなくなるのでしょうか?

空の財布

消費が多すぎてお金が貯まらず、不安になることも。

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日々家計相談をしているファイナンシャルプランナー(FP)の立場として考えをめぐらすと、「消費」が必ずしも人を幸福にしていない事実は、アンケート結果を見なくとも明らかです。消費をコントロールできずに悩んで相談に来る方が絶えないことは、何よりその事実を教えてくれます。

相談者が異口同音に訴えるのは、消費が多すぎて貯蓄が思うようにできず、将来への不安を生み出しているということ。消費額のある飽和点を超えると幸福度が上がらず、かえって別の不安やストレスを生み出しているのも、アンケート結果とも符合します。「消費」という行動が別の「不安」を生み出しているため、幸福度を下げる一因になっているのではないでしょうか。

ストレス消費や「自己投資」という正当化

こういった相談のとき、「何」を買ったかという費目もさることながら、より大事な点は別にあると私は考えています。「何」ではなく、「なぜ」です。なぜ消費したのか、そこにその人の消費パターンが潜みます。いくつか例を挙げてみましょう。

多いなと感じるのは、ストレスを解消するための消費。ストレスの原因は仕事や人間関係、夫婦仲や子どものことなどさまざま。消費対象もお酒などの飲食から洋服やマッサージ、健康器具などさまざまです。

男性に目立つのは立場や付き合いから生じる消費。飲み代やゴルフ、それに伴う交通費もばかになりません。さらにネットやテレビなどを見ながら、つい買ってしまうといった衝動買いも少なくありません。趣味やこだわりが要因で、「やめられない」といった例もあります。「自己投資」という言葉が、妙に正当性を持たせてしまっている場合も見受けられます。

飲み会

飲み会など、付き合いから生じる消費も多い。

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こうした消費行動の流れを整理すると、ある感情や好みから消費が引き起こされ、さらにその消費から罪悪感や後悔、不安といった負の感情が生み出されています。

もちろん悪い消費ばかりではありません。満足のいく買い物ができたときには、生活は豊かになり、幸福度も高まるでしょう。消費には正の感情を引き起こすものと、そうでないものと、主に2タイプあると考えられます。

ここで一つ確認しておきたいのが、そもそも消費とは何かです。辞書には、「人が欲望を満たすために、財貨・サービスを使うこと」とあります。なるほど。

FP的に解説するなら、「交換」です。 消費とは、「お金」と「モノやサービス」との交換を意味します。「〇〇〇円」と表示された価格(価値)分のお金を手放して、代わりにモノやサービスを受け取る行為です。交換しない間、お金は腐りませんから、持っていれば必ずいつか役に立つでしょう。それが蓄え(貯蓄)です。必要なときに、必要なモノやサービスと交換すればいいわけです。

しかし、将来役に立つであろう貯蓄の有益性を手放して、いま目の前にあるモノやサービスと交換(消費)すれば、人生に役立つものとの交換でなければ、本当の意味での「等価」とは言えないのかもしれません。ましてや、後悔するような負の感情を生み出す消費は、まるでお金を捨てているかのようで、実にもったいないです。

もはや消費が幸せを呼ぶ時代ではない

なぜこのようなことが起こるのか考えました。私なりの結論ですが、「お金の使い方」を教わっていないからではないかと思うのです。

お金は交換、価値の尺度、貯蓄手段といった3つの機能を持っています。お金がない時代は物々交換でした。それではお互いのニーズを満たす相手を探すのが大変です。交換する量も争いのタネになりやすい。そこで、共通の交換手段、価値を測るものとしてお金という道具が発明されました。腐らない材質のものであれば、将来への備えとして貯蓄の手段にもなりえます。

お金は人間の生活をより便利にするためにつくられ、本来は人を幸せにするための道具であったはずです。

一万円札

幸せになるための「お金の使い方」は教えられてこなかった。

撮影:今村拓馬

ところが、現代は消費(交換)によって負の感情が生み出されている現状があります。幸福度研究からすれば、日本の成熟した経済下では、すでに消費の飽和点に達していると考えられるのかもしれません。

戦後の日本はとても貧しく、多くの人の暮らしが疲弊していました。しかし、高度経済成長を経て、日本は豊かになります。この過程では消費量の増加は幸福度の増加にもつながったことでしょう。

ただ、お金を持つようになっても、その使い方(金銭教育)を教わっていません。言ってみれば取扱説明書のない道具を持たされたようなものです。日本はその後物質的にも経済的にも豊かになり続け、いまや消費で悩む大人たちが増えてしまったのではないかと思うのです。個人的には、株や投資信託などの投資手法を学ぶよりも先に、お金の取り扱い方を学ぶ方が、多くの人々にとって有益な気がします。

政府はいま「経済最優先」として、「消費の喚起」を掲げています。

日々、家計を拝見している立場から言わせてもらうと、消費の喚起が本当に国民の幸福につながるのか熟慮すべきです。「経済」が私たちの幸福をつくる時代はおそらく終わっていて、私たちの暮らしや幸福度からみた「経済」のあり方を考えるべき時期に到達しているのではないかと思えてなりません。

ついムダ遣いをしてしまったときに、「日本経済に貢献した」と言い訳をするのも、そろそろ終わりにしませんか。


八ツ井慶子(やつい・けいこ):ファイナンシャルプランナー。2001年より「家計の見直し相談センター」相談員としてFP活動を始める。2013年に「生活マネー相談室」を設立。「しあわせ家計」づくりのお手伝いをモットーに1000件を超える相談実績がある。主な著書に『レシート〇×チェックでズボラなあなたのお金が貯まりだす』『ムダづかい女子が幸せになる38のルール』など。

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