ヘッジファンドの役割とは? 大規模損失が示す業界の本質的な問題

ジェリー・チョウ氏

IBMで量子コンピューター研究を行う科学者ジェリー・チョウ(Jerry Chow)氏。

IBM

  • 34億ドル(約3700億円)を運用するヘッジファンドTourbillon Capitalは、主力ファンドで損失を出し続けている。
  • 同社の創業者ジェイソン・カープ(Jason Karp)氏は、クライアントに宛てた書簡の中で、「コンセンサスとETF( 上場投資信託:特定の株価指数、債券指数、商品価格(商品指数を含む)などに連動することを目的に運用される投資信託)主導の強気市場の中で、規律を維持し続けることの難しさが浮き彫りになった」と述べた。
  • 同社がクライアントに宛てたこの最新の書簡は、ヘッジファンド業界の将来に関する根本的な疑問を間接的に提起している。それは、「ヘッジファンドマネジャーの役割とは何なのか? 」という問いだ。
  • それでもTourbillonは、アクティブマネジャーには将来性があり、知名度の低い銘柄がチャンスを生むと考えている。

34億ドルを運用するヘッジファンドTourbillon Capitalは、強気市場が勢いを増す中、主力ファンドで損失を出し続けている。

ジェイソン・カープ氏率いる同社は、ニューヨークに拠点を置く株式主体のヘッジファンドで、その苦戦の理由を、四半期ごとの書簡で説明してきた。Business Insiderは、同社がクライアントに宛てた2017年第2四半期に関する最新の書簡を精査したが、そのテーマはこれまでとほぼ同じだ。

今回はとりわけ、クオンツ運用とパッシブ運用がいかに市場を変えたかを述べている。クオンツ運用とはアルゴリズムを使って投資判断を下す手法で、短期的な動きを追うことが多い。一方、パッシブ運用のファンドは市場指数を追いかける。そして、クオンツ運用とパッシブ運用の双方が、長年金融街に君臨してきた、人間が個別銘柄を選んで運用する「アクティブマネジャー」に対して、挑戦状を突きつけている

同社の書簡は言外に、業界の将来について疑問を提起している。ヘッジファンドマネジャーは、自らが価値を認めない銘柄であっても、パッシブ運用とクオンツ運用の動きに習って投資すべきなのか? それとも、短期的に損失を出すことになっても、自らの規律を貫くべきなのだろうか?

「私たちは、後悔に苦しむ(好調な銘柄を追いかけて史上最高のエクスポージャーを維持する)よりも、規律に苦しむ(自分たちのプロセスを貫いて低利益のままでいる)方を選ぶ。しかし残念ながら、それは後知恵だ。実際には、起こり得た結果に至らなかった」とカープ氏は書簡で述べている。

「言い訳を聞きたい人はいない」

「言い訳を誰も聞きたがらない時は、パートナーの皆さんに対し、私たちが意思決定やポシション取りに失敗し、損失に至ったとお伝えする方が、はるかに簡単だし都合がいい」とカープ氏は書いている。

ただ、現実はもっと微妙であると言い、相互に関連する2つの原因を挙げた。その1つは、同社のロング・ショートのポジションが「アクティブからパッシブへの資金シフトという構造転換と真逆」になっていたことだ。さらに同社は、人気の高い「TMT(テクノロジー、メディア、テレコミュニケーション)」という、株式市場を押し上げる原動力となってきた銘柄のエクスポージャーを減らして来た。カープ氏によれば、業績トップのファンドの多くは2017年、テック銘柄に焦点を当てているという。

ジェイソン・カープ氏

ジェイソン・カープ氏。

Milken Institute

「広い意味でTMTがなぜこれほど望ましいか、その理由は理解しやすい」カープ氏は述べる。「今年のS&P銘柄のリターンのうち、40%近くは同指数における資本割合がわずか20%というセクターから生まれている。"好調な"銘柄を保有していないことに対するペナルティは、アクティブマネジャーにとって大きい。そしてパッシブ運用も問題を悪化させている」

Tourbillonの評価によると、ヘッジファンドにとって最も重要な株式指標である「Goldman Sachs Hedge Fund VIP Index」では、TMT関連銘柄が約80%を占めている。2015年には約10%だったが、今ではS&Pにおけるテクノロジー株の20%をはるかに上回っているとカープ氏は書簡で述べている。

Tourbillonのパフォーマンス

Tourbillonの運用実績に詳しい人物がBusiness Insiderに語ったところによると、Tourbillonのロング・アルファ・ファンドは7月を通して約13%増となったが、TGMF(Tourbillon Global Master Fund)のロング・ショート運用は同時期で2%減となった。これに対し、S&P 500は同時期に10.4%増となっている。Business Insiderが過去に検討した投資家文書によれば、2016年はTGMFが9.2%減と沈んだ一方、S&P 500は9.5%増となった。

カープ氏は、クオンツ運用とパッシブ運用の高まりは、これ以外にも同社の戦略に打撃を与えていると言う。

「我が社最大のロング・ポジションは、パッシブ運用の中では十分な注目をされないで来た。これは、アナリスト・カバレッジが不十分であること、配当が無いこと、あるいはオーナーシップ構成が複雑であることによるものだろう。これに対して我が社のショート・ポジションは、パッシブ運用で広くカバーされてきた。ショート・ポジションの対象企業に意味のある買い戻しが入った時のように、需給の不均衡から生じる価格への影響を我々は目にしてきた」

「年初来のファンダメンタルズ分析が正しかったにもかかわらず、我が社トップのロング・ポジションは割安になる一方、トップのショート・ポジションはさらに割高になった。これは抗いがたい逆風となっている。我が社のリサーチ(関心がある方のために当社サイトで公開している)は、主に当社最大のポジションにおけるアクティブ/パッシブの傾きと相関関係にあるとの結論を強く支持している」

アクティブ運用はどうしたら勝ち得るか

カープ氏は、「パッシブ運用の流入という大きな動きの中で正しい側にいる」株式が、資金のインフローが止まった後にどのような動きをするのか、示すデータはほとんどないと言う。しかし、ETFインフローから利益を得るほとんどの大型株は、「翌年には、アウトフローによって打撃を受けた株式と比較して、パフォーマンスが相当低迷する」と話す。 その上で、「我慢強い投資家にとって、これはミーン・リバージョン(平均回帰性)が依然としてより広範に当てはまることを示唆している」と付け加えた。

同氏はまた、最も人気のある銘柄に資金が流れていく中で、知名度の低い銘柄にチャンスが生まれると考えており、その具体例として石油・ガス会社のハルコン・リソーシズ(Halcon Resources)とエネルギー関連会社のNRGエナジー(NRG Energy)を挙げた。この2銘柄は両方とも、資産を売却した後で株価が急騰した。書簡では次のように述べられている。

「株式市場(あるいは、機械的に配分を行うパッシブ運用者やロボット)が、株価を本来の価値から相当にかけ離れたものにするなら、ハルコン・リソーシズやNRGエナジーのようなケースがこれから増えると見込まれる。パッシブ運用の高まりは、こうした銘柄について深い分析を行い、株価が示唆する価値以上に深く理解するアクティブマネジャーに確実にチャンスをもたらしてくれる」

[原文:A $3.4 billion hedge fund's letter raises a fundamental question about the future of the industry

(翻訳:ガリレオ)

ソーシャルメディアでも最新のビジネス情報をいち早く配信中

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい