ANAホールディングスや電通らなどから総額55億円を調達した通称“おじさんベンチャー”こと、Blue Planet-works(BPw社、東京都渋谷区)を取り上げた7月のBusiness Insiderの記事は話題を呼んだ。
要塞化の技術を核としたセキュリティシステムの事業展開を進めているBPw社はいよいよ、2018年2月から、スマートフォンの要塞化アプリ”AppGuard Mobile”の提供を始める。また、BPw社によれば、ANAが8月末からWindowos PC向けのAppGuardの導入を始めるという。
2017年4月までに総額55億円の出資を受けたBPw社はさらに、8月末までにJTB、吉本興業、フェイスなどからも出資を受け、総額110億円の資金調達を完了した。
BPw社には、ネットセキュリティー最大手であるシマンテックから、日本法人社長だった日隈寛和氏と執行役員だった坂尻浩孝氏が加わり、技術開発を担っている。
BPw社の中多広志社長(左)と、坂尻浩孝執行役員。オフィスは古い雑居ビルの一室だ。(7月の記事取材時に撮影)
アンドロイド向けに公開しているAppGuard Mobile のモックアップ。
BPw社が米ブルーリッジネットワークス社から事業譲渡を受けたAppGuard技術は、従来のセキュリティ技術とは違って「検知」をしない。AppGuardをインストールしたシステムは「適正な動作」はできるが、適正でない動作は未知か既知かを問わず、動作が遮断される。検知をしないことから頻繁にソフトを更新する必要はなく、サイズも1メガバイト未満で軽い。OSに依存しない強みもある。
このAppGuardを、スマートフォンの「防御」に特化した形で提供するのが、AppGuard Mobileだ。現在、すでにアンドロイド版のモックアップが、Google Playからダウンロードできる。モックアップの画像からは、BPw社が今後提供していく技術の一端が描かれている。盗聴できない通話“TRUSTED CALL”や、外部からは遮断され、限られたサークルの中で安全に情報をやり取りする”TRUSTED CIRCLE”だ。
IoTや自動運転が普及する近い将来に必要なセキュリティとは?
BPw社はこれまで、日本国内でAppGuardをどのように普及・展開するかについて構想をまとめる作業を続けてきた。人やモノがつながっていく社会が急速に実現に向かっているいま、BPw社は、AppGuardから派生した次の3つの技術を提供していく考えだ。
- 防御:外部の脅威から守る
- 安全と信頼:安全で信頼できるつながりを確保
- 安心:ユーザーが自律的に自分の個人情報を守る
自動運転が普及した近未来では、車と車が通信して情報をやり取りするだろう。前を走る車が後ろを走る車に対して、事故の情報を伝え、減速するように促す。送られてきた情報に従って減速するには、車の中の情報が防御されているだけでは不十分だ。この情報が改ざんされていると、さらなる事故や渋滞につながりかねないからだ。
前の車からの情報は信頼できて、安全なものかは立証されなければならない。そして、車に乗っている人の個人情報のやり取りは、車の快適な走行のために必要な情報に限定され、匿名化されている必要がある。
中多広志社長は「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)やシェアリングエコノミーを巡って、機能面ばかりの議論が進んできたが、安全をどう確保するのかについての議論が欠落している」と話す。
Blue Planet-worksの公式Webページ。まだプロダクト情報は掲載されておらず、「お知らせ」も4月の事業開始の報告と、5月のランサムウェア完全阻止のデモ動画があるのみ。近く、大幅に刷新する予定だという。
AppGuardから派生し、BPw社が提供する技術のひとつにAnonymous Identity(匿名のアイデンティティ)がある。例えば、医療の現場で、治療方針を決める際には、患者たちの病歴情報を蓄積したデータが有益だが、過去に病気にかかった人がだれかを特定する必要はない。この際には、情報を提供する人は、50代、男性など、あらかじめ匿名化された情報を提供する。
一方で、いざ自分が病気にかかった時は、病歴やアレルギーなどできる限り詳細な個人情報を医療機関に提供した方が、治療が成功する確率が高まる。この技術で匿名化された情報は、情報を受け取った側が遡ろうとしても、情報の提供者は特定できないという。
同社が描くConnected World(つながった世界)は、個人情報が完全に防御され、情報を必要に応じてどんな形で提供するか、一人ひとりが自律的に判断できる世界だ。日隈氏が、AppGuardの強みを強調する。
「単なるセキュリティの会社なら、110億も集められないだろう。我々は、人やモノがつながっていくConnected Worldの基盤となる安全、安心という前提を提供できる」