世界中からやってきたプレスでごった返すGalaxy Note8のハンズオン会場。
サムスン電子は先週、アメリカ・ニューヨークで同社の最新スマートフォン「Galaxy Note8」を発表した。前モデルとなる「Galaxy Note 7」は、発売直後にバッテリーの不具合に起因する発火・爆発事故が相次ぎ、全世界的なリコール、航空機への持ち込み禁止、日本発売キャンセルとなったことは記憶に新しい。そうした背景から、グローバル向けのGalaxy Noteシリーズは、約2年ぶりの登場となる(韓国ではGalaxy Note 7をベースにした再生モデルの「Galaxy Note FE」が発売済み)。
サムスン電子は「Galaxy Note 7」のバッテリートラブルの印象から苦戦を強いられている印象があるが、実際決算ではなんとか好調を維持している。もちろんGalaxyシリーズを抱えるモバイル部門の落ち込みは、下半期(3Q+4Q)比較では、2016年は売上高で5兆4600億ウォン。2015年に対して5000億円規模(1ウォンは0.1円で換算)円減収ということになる。
サムスン電子が発表した2016年決算の内容。IMがモバイル部門。
2017年第1四半期と第2四半期の決算概要。
一方で主にメモリーや有機ELパネルなどの事業は好調で、結果として2016年の全社合計の売上高は201兆8700億ウォン。これは2015年に対して+1兆2200億ウォンと、売上高を約1200億円ほど積み上げて着地した。
サムスングループは8月25日、イ・ジェヨン(サムスン電子副会長)被告が、韓国の前大統領・パク・クネ被告への贈賄罪などの罪に問われた事件で、ソウル中央地裁から懲役5年の判決を言い渡されたばかり。実質トップの実刑判決には経営面を不安視する声もあるが、懸案のモバイル部門は2017年第2四半期からは売上高が増収に転じ、復調の兆しが見えてきた。
バッテリー欠陥問題の「窮地」から息を吹き替えすサムスン
iPhone7 Plusとのサイズ比較。画面周囲のベゼルの薄さが際立つほか、幅そのものも7 Plusより3.1mm小さく、持ちやすい。重量は逆に、Note8の方が7g重く約195gだ。
2017年度第2四半期でモバイル部門が息を吹き返してきた要因は、「Galaxy S8シリーズ」(2017年4月21日発売)の好調なセールスによるものだ。サムスン電子の発表によると、モバイル部門の売上高の50%はGalaxy S8シリーズの売り上げという。この勢いをさらに加速させるために投入されるのが、今回の「Galaxy Note8」だ。
「Galaxy Note8」の特徴としては、市場で高評価の「Galaxy S8」シリーズをベースに、特にビジネス市場で人気が高かったNoteシリーズの特徴であるペン入力を強化。さらにここ最近のスマートフォンの流行機能を貪欲に取り込み、全方位に強化されたモデルに仕上げできた。
デザインコンセプトとしては「Galaxy S8シリーズ」と同じ、有機ELを採用する画面の4隅の角を丸めた独特の形。ただし、発表会で見た実機は、Galaxy S8シリーズほどは「丸み」がなく、全体として四角い印象がある。これは紙の手帳を意識したデザインだと思われる。
画面サイズは6.3インチ(1440×2960ドット)。Galaxy S8+が6.2インチなので、若干だが画面サイズを拡大した。Galaxy S8シリーズ同様に画面比率は「18.5:9」と縦長なタイプ。さらに画面周囲のベゼル(枠)が狭い狭額縁のため、16:9のスマホと比較すると、5.6から5.7インチクラスと同じくらいのスリムな横幅となる。
18.5:9の良さが光る2画面モード「マルチウィンドウ」。ディスプレイが縦長のため、上下に2つのアプリを表示しても広々使える。
注目のペン機能「S pen」の手書き機能は好感触
S penを取り出せば、すぐにメモがとれる「Screen off Memo」という機能もある。大きな画面サイズ+ペンというスマホは、そもそもサムスンが開拓したもの。世代を経て、紙のメモっぽさへのこだわりも洗練されてきた。
Noteシリーズのいちばんの特徴は「S pen」を使った手書き機能。スマートフォンの手書き機能というと、思ったように字が書けずイライラする……というネガティブな印象を持つ人は少なくないが、Galaxy Note8とS penの組み合わせは、まさに紙にペンで書き込むような感覚で使える。
手書きの文字を写真に書き込んで、アニメーションとして書き出す機能も利用できる。
これはまずペン先が0.7mmと一般的なボールペンに近い細さのため。S penでタッチした部分にしっかりと反応する。さらにタッチしてからの反応も、遅延がほとんどないので違和感が少ない。筆圧検知は4096段階とトップクラスなのでイラストなどにも十分使えるレベルだ。
スマートフォンでメモというと、ペンをとりだしたあとアプリを起動といった手間が面倒だったが、Galaxy Note8ではスリープ中でもS penを取り出せば手動でアプリを起動しなくても、そのまま画面にメモを書き込める「Screen off Memo」機能を搭載している。しかも1画面分書ききっても、どんどんスクロールさせて最大100ページまで書き込める。一般的な会議や取材といったメモならファイルを切り替えたりせずに書けるので便利だ。
サムスンもついにデュアルカメラへ
昨今のトレンドを取り入れ、メインカメラは標準と望遠のデュアル仕様。
デュアルカメラはどちらも光学式手ぶれ補正を搭載し、iPhone 7 Plusとの違いをアピール。
カメラ機能はスマートフォンの流行押さえた、iPhone7 Plusなどと同じ「デュアルカメラ」仕様。片方は標準、片方が望遠という定番の組み合わせで、どちらのカメラにも光学手ぶれ補正を搭載する。発表会のプレゼンでは、iPhone 7 PlusとGalaxy Note8の望遠側で撮影した動画を比較し、性能差をアピールしていた。実際に撮影する場合、遠くの被写体を撮影するほうが手ぶれの影響を受けやすく、“失敗写真”は望遠側で撮るときのほうが多い。そのため望遠側もしっかりと作り込まれているのは評価できる。
あえて不満点を挙げるとすれば、本体背面に配置された指紋認証センサーの位置だ。カメラユニットに並んだ本体背面上部にあるのだが、グリップの位置によっては指が届かない。グリップ位置をやや中央よりにすると届くものの、今度は本体左右にある電源ボタンと、サムスン独自のバーチャルアシスタント(AI)機能「Bixby」(ビクスビー)の呼び出しボタンに手が当たってしまい、誤動作することも。
これはディスプレーサイズが0.1インチしか違わない「Galaxy S8+」でも指摘されていた部分なので、指紋認証センサーはカメラユニットの下などに配置するなど工夫が欲しかったところだ。誤動作が気になる場合は、標準搭載の虹彩認証や顔認証を併用するなどの工夫で解消することはできる。
多くのメーカーが必ず問われる「AIへの投資」サムスンは?
本体左側面にはBixby呼び出し用のボタンも用意されており、押すと音声入力が起動する。
これからのスマートフォンはAIを使ったパーソナルアシスタントとしての機能がポイントとなってくる。英語と韓国語のみとはいえ、BixbyとしてオリジナルのAI機能を搭載しているのは、グローバル向けには今後の強みになる。さらにサムスン電子は昨年11月にIPU(インテリジェント処理装置)と呼ばれるAI向けのチップを開発しているイギリスのAI向け半導体のスタートアップ、グラフコア社に出資している。
いま、AI機能はスマートフォン側(いわゆるエッジ側)ではCPUやGPUを使って処理を行う場合もあるが、まだインターネット回線を介してクラウド側で処理するケースが多い。これらの処理をエッジ側単体で現実的な速度で処理可能にするのが、IPUだ。
IPUを使った処理は各社が注目している技術で、現在はNVIDIA(エヌビディア)やクアルコムなども注力して開発。スマートフォンメーカーとしては、ファーウェイも独自のIPUを開発し、8月末にドイツで開かれる家電展示会@「IFA 2017」でなんらかの発表があると見られている。AppleもAI専用のチップを開発していると噂されている(このあたりの各メーカーの情勢については、笠原一輝氏の記事が詳しい)。
つまり現時点でAIについて取り組んでいるスマートフォンメーカーが、次世代のスマートフォンのトップメーカーになれるチャンスがあるのだ。その点では、Galaxy Note8に限らず、サムスン独自AIである「Bixby」の日本語対応は早急に進めてほしいところだ。
プレゼンに登壇したサムスンの電子のMobile Communications Business PresidentであるDJ Koh氏。
今回の発表会では、冒頭でサムスン電子のモバイル部門トップのDJ Koh氏が過去のNoteシリーズを振り返り、(サムスンにとっての黒歴史である)Galaxy Note 7の問題もうやむやにせず、しっかりと向き合い反省を述べた。この態度は、Galaxy Noteシリーズを復活させたいという強いメッセージとして、現地取材をしていたプレスには好意的に受け入れられたように見えた。
Galaxy Note8の日本発売はあるのか?
ニューヨークのPark Avenue Armoryにて開催。「Galaxy Note8」を発表した。ホールに立てた2枚の壁と床にLEDを仕込んで巨大なディスプレーとして使い、非常に大がかりなステージを作っていた。
発表会では発売する地域や価格のアナウンスはなかったため、日本での発売は未定だ。とはいえ、かつてGalaxy Note 7はキャリアがカタログなども印刷して準備していたほど、発売に乗り気だったことは確か。さらに日本語のGalaxy Note8公式サイトでも紹介されていることから、今回も国内キャリアから発売される可能性は十分にありえそうだ。
Galaxy S8シリーズで見えてきた復調をNote8で加速させようというサムスン電子。ワールドワイドでは復調傾向でも、果たして世界一消費者が厳しいと言われる国・日本でもうまくいくのかは別の話だ。続報には注目していきたい。
(撮影:中山智)