休業日を増やして売り上げ増、そして従業員の給料も上がる好循環はなぜつくれたのか

リクルートワークス研究所では、旅館業の働き方改革を題材にした研究を行い、「サービス産業の『新しい働き方』」にまとめました。この研究のきっかけになったのは、鶴巻温泉の旅館・陣屋さんとの出会いです。

旅館「陣屋」

休日を増やして売り上げ増も実現し、従業員満足につなげた陣屋。

提供:陣屋

陣屋さんの何がすごいか。サービス向上、業績向上、従業員の待遇、働きやすさ改善、この全てを同時に実現しているところです。簡単に言うと、休みを増やし待遇を改善して、売り上げを伸ばしているのです。それも、日本的な経営や働き方の象徴である旅館業で。

陣屋さんは現在、週に2.5日が休業日です。月曜の朝、宿泊客がチェックアウトすると、その後の半日と火曜、水曜は休業で従業員も同時に休む。私たちが宿泊できるのは、木曜泊から日曜泊までの週4日です。

売り上げを確保するために稼働日を増やす、というのが普通の考え方だと思います。どのような仕組みになっているのでしょうか。

売り上げ増、コスト減、従業員への還元の三位一体戦略

同社の基本方針は、売り上げを増やして、コストを下げる。サービスの質を上げて単価を高め、業務効率化でコストを下げる。皆が理解できる経営の原理原則。ものすごく、シンプルです。

具体的には売り上げ増加策として、

  1. 食材や演出にこだわった料理の大幅リニューアルで客単価を高める
  2. コストコントロール策としてITを活用し、情報の見える化・共有化を果たす
  3. それまでの月次管理を日次管理に変え、PDCAサイクルを素早く回す
  4. 過去のお客さま履歴をおもてなし力向上につなげたり、ウェブやSNSで発信したりするなど、情報の活用を進める
  5. 非生産的な業務の削減や効率化などにより、お客さまとの会話・接点を増やす
  6. ここまでのステップで成果が出て収益を確保できたら、従業員への還元
  7. 定休日導入などの働き方改革に手をつけ、賃金アップなどで従業員に報いる

というものです。1から5までなら一般的な経営改革ですが、6、7まで取り組んでいるのが本質的な働き方改革のポイントです。

そして、この経営改革を進める前に、厳しい経営状況を従業員に共有する。

つまり、経営情報の透明性を高めて、現場の一人ひとりに当事者意識と危機感を持たせたことが改革推進力になったのです。

経営者も従業員も徹底してやり抜く覚悟

ここから私たちが学ぶべきポイントは2つあると思います。

1つ目は、最初に売り上げ増加を図ったこと。その中でも、単価アップのトリガーとして、最初に料理に着目したことです。料理は、初期投資が小さくても質を高めて単価を上げやすい。部屋出しから食事処での提供に変更することで、コスト低減もできます。とはいえ、一般的には部屋出しの方が単価を上げやすいので、この取り組みでの工夫や努力は並大抵のものではなかったと想像できます。

私は仕事柄、事業立ち上げの相談相手になることが多いのですが、売り上げ拡大の取り組みを後回しにする人が多いのに驚きます。新規事業開発なので売り上げがどれくらいになるのか不確かなのは分かります。しかし、提供する価値がいくらに相当するのか、きちんと確認するのは極めて重要。新規事業では売り上げを最初に置かないと何も始まらない。既存事業でも、売り上げ拡大策を考えずに生産性向上を検討している場合は、早晩、限界がきます。

夜のオフィス街

働き方改革、生産性改革の議論は盛んだが……。

撮影:今村拓馬

2つ目は、従業員への還元をしっかり行ったこと。儲かったら従業員に還元する。報酬に加えて、休みも増やす。すると稼働日が減るので、限られた従業員で運営できる。一人当たりの報酬が上がり、働き方も改善すると従業員が定着。それによって従業員のサービスが習熟する。結果、顧客満足度が上がり、単価アップやリピートで収益が高まる。求人コスト、育成コストは下がる。従業員への還元や投資を積極的に行える。

陣屋さんでは、休業日の2.5日には全員休みます。シフト制ではないので、引き継ぎが不要で、業務効率が向上します。また、稼働日には全従業員で接客できるので、いつでも良いサービスを安定的に提供できます。

言葉にするとシンプルですが、最も難しいのはこれをブレずに、徹底して日々行うこと。その覚悟が、経営者と従業員に問われるのは言うまでもありません。

誰かが我慢したり、無理をしたりして成長するということではなく、お客様も経営者も従業員も皆が幸せになる発想で経営すると、まったく新しい職場が生まれる可能性があるのです。休業日を増やして、生産性を上げ、会社の利益も従業員の給料も上げる。今回ご紹介した旅館業以外の業界でも、企業成長の新しいあり方になると思います。

陣屋さんの事例にインスパイアされて、飲食業でもこの経営に挑戦しようとするフレンチビストロが9月末にオープンします。経営者兼シェフは私の息子。飲食業でもこのモデルが成功するのか、楽しみです。


中尾隆一郎(なかお・りゅういちろう):リクルートワークス研究所副所長。大阪大学大学院工学研究科修了。1989年リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長などを経て、現職。

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