報道各社の内閣支持率はなぜ差が出るのか。“単純平均”で見える本当の支持率

2017年8月の内閣改造を受けて、主要メディアが実施した緊急の世論調査では、安倍内閣の支持率は軒並み上昇した。しかし、最も高い共同通信で44.4%、朝日新聞、毎日新聞は35%と数字に開きがある。「政権寄りの報道機関では高い数字が出て、政権に厳しい報道機関は低い支持率が出るのでは?」と、つい勘ぐりたくもなるが、実態はどうなっているのだろうか。

国会議事堂

撮影:今村拓馬

内閣改造後に報道各社が実施した緊急の世論調査の内閣支持率は次のとおりだった(主要メディアに限った)。

  • 共同通信:44.4%
  • 読売新聞:42%
  • 日経新聞:42%
  • NHK:39%
  • 朝日新聞:35%
  • 毎日新聞:35%

松本氏

「世論調査結果は、もっとも客観的な世論の指標」と語る松本正生教授

撮影:小島寛明

4月から主要報道機関6社の単純平均をグラフ化して、ウェブサイトで公表している埼玉大学社会調査研究センターの松本正生教授は「政治に対する評価基準が内閣支持率に一元化され、通信簿のようになっている現状があるが、会社ごとの数字の違いはあまり気にせず、変化の傾向を追うことに意味がある」と話す。


「あえて言うと」を聞くかどうか

各社の調査結果の違いは、何が原因なのだろうか。

松本氏によれば、各社の質問方法に違いがあるという。「支持しますか、支持しませんか」という質問に対して、意思表示をしない人たちがいる。こうした人たちを、そのままにするか、「あえて言うとどちらですか」と重ね聞きをするかの違いだ。

松本氏によると、各社は以下の対応に分かれているという。

  • 重ね聞きをしている:読売、日経
  • 重ね聞きをしない:朝日、毎日
  • 不明:NHK、共同通信

重ね聞きをすると、内閣に対する支持基調が強いときは支持に振れ、不支持基調が強いときは不支持に振れやすい特徴がある。松本氏は「その時の政治情勢に応じて、支持と答えた人が、100%支持かというとそうでもない。一人ひとりの中でも、今は支持6割で不支持4割ぐらいかなとか、支持と不支持が同居している。この割合は、政治情勢によっても変化する。傾向を捉えるということであれば、あえて言うとどちらですか、と重ねて聞くことにも意味があるだろう。いずれにしても、一貫性を持って同じ方法を継続することが大切だ」と言う。

差は調査の運用の違いからも

報道各社は、内閣支持率と政党支持率は最初の質問として聞いているという。例えば、政治とカネを巡る疑惑に関する質問の後で支持か不支持かを聞くと、不支持に振れやすく、失業率の改善など前向きなニュースに関する質問の後は、支持に振れやすい。このため、「毎回の調査で、最初の質問で前フリなく内閣支持率を聞いて、それぞれの社のスタンスが出ないように、各社、気を使っている」(松本氏)という。

むしろ、各社の調査の運用の違いから、結果に違いが出てくると、松本氏はみている。

平日に世論調査を実施すると、企業で働いている人の意見は調査に反映されにくい。また、応答しなかった電話番号に対して、時間をおいて応答があるまで電話し続ける社がある一方で、すぐに別の番号にかける社もある。積極的に電話に出ない人を「追いかけて」質問をするかしないかは、調査結果に微妙な影響を及ぼすだろう。

タイムライン世論とのせめぎ合い

各社のこうした運用の違いを踏まえ、埼玉大学社会調査研究センターは2017年4月から、主要6社の世論調査結果を単純平均して、グラフ化し、ウェブサイトで公表している。産経新聞については、調査方法が異なるため、対象に含めなかったという。支持率・不支持率の合計を6で割った「単純平均」を用いている。松本氏は「内閣支持率が、いまの社会の雰囲気を示す総合指標であるとすれば、平均値を追う意味があると考えた」と話す。

内閣支持率の推移

内閣支持率の月別平均(埼玉大学社会調査研究センターの資料を基に作成。8月は内閣改造後の緊急調査の結果を用いた)

松本氏らが平均値の公表を始めた背景には、スマートフォンの普及で、若い世代を中心に、Facebookなどのタイムラインに流れてくる情報を世論と考える人が増えているのではないか、との危機感がある。

「タイムラインがつくる世論と、既存メディアによる世論調査結果から読み取れる世論のせめぎあいが起きている。タイムラインの情報を世論だと考える人が多数派になれば、そちらが世論になるだろう。しかし、報道機関の世論調査の結果は最も客観的な世論の指標ではないか。そのことを認識してほしい」(松本氏)

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