なぜ急増?ビジネス街ランチ難民の救世主「フードトラック」 —— 私たちはコンビニ飯に飽きている

8月中旬の赤坂アークヒルズ。広々としたビルの空きスペースには、ランチを買い求める行列ができていた。行列の先は、カラフルな色をしたフードトラック。そういえば最近、いろんなところでフードトラック見かけませんか?

赤坂アークヒルズ・カラヤン広場のフードトラック

赤坂アークヒルズ・カラヤン広場のフードトラック。毎日3台、日替わりで1週間15店の味が楽しめる。

ビルの余ったスペースでランチ難民を解消

mellow社の代表取締役、柏谷泰行さん

mellowの代表取締役、柏谷泰行さん。2年前、銀座で「衝撃的においしい」パエリアのフードトラック・TOKYO PAELLAに出合ったことが全ての始まりだった。

「オフィスビルにある飲食店ってどこも一緒。都市圏のランチ難民の問題って『食べられない』ことじゃなくて『選択肢が少ない』ことだと思ったんです」

フードトラックを活用したランチスペース事業を手がける株式会社mellowの代表取締役、柏谷泰行さんはこう語る。

六本木や大手町など一等地に建てられたオフィスビルは地価の高さゆえ、そこに店舗を構えられるのはほとんどがチェーンの飲食店かコンビニだ。そのためか、新しくオープンしたビルに行ってみても、飲食店の顔ぶれはほとんど同じ。

フードトラックは固定店舗を持たないため、100万円から200万円の初期費用があれば比較的簡単に開業できる。ビルを運営する不動産会社にとっても、使われていないスペースを数時間単位で活用でき賃料も入るため、メリットは大きい。客側も、毎日違う味を安価で楽しめる。

実際、フードトラックの数はここ20年、右肩上がりで増えてきている。東京都福祉保健局が発表している「食品衛生関係事業報告」によると、東京都で営業許可を取得した調理可能な移動販売車の数は2004年から2014年の間で倍増し、2892台となっている。

フードトラックグラフ

平成3〜26年度東京都福祉保健局『食品衛生関係事業報告』を基に作成

都もフードトラックを歓迎する。オフィスビルの公開空地(敷地内にある一般に解放されているスペース)を使った街づくりに力を入れているからだ。2009年、「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」を改正し、公開空地を貸し出せるビルの敷地面積を規制緩和した(3ヘクタール以上が1ヘクタール以上になった)。これによって、ビル敷地内でイベントやオープンカフェ、フードトラックの運営をするビルが増えてきている。

2017年4月にオープンした「渋谷キャスト」。ランチタイムにはフードトラックが並ぶ。

2017年4月にオープンした「渋谷キャスト」。ランチタイムにはフードトラックが並ぶ。

エッジのたった料理で一品勝負

柏谷さんによると、オフィスビルでフードトラックを出すときのポイントはおしゃれな空間作りだという。mellow社ではビルオーナーのリクエストに合わせ、フードトラックを出店する空間のデザインも担う。例えば屋台によくあるようなのぼりやバナーは使わず、メニュー板のデザインを統一するなど、細部にまで気を配る。

上:エジプトの国民食といわれるコシャリ。下:「エジプトめし コシャリ屋さん」のオーナー、須永司さん(左)と妻・愛子さん。

上:エジプトの国民食といわれるコシャリ。下:「エジプトめし コシャリ屋さん」のオーナー、須永司さん(左)と妻・愛子さん。

人気が出るメニューは「店主のこだわりを感じちゃう、エッジがたったもの」(柏谷さん)だ。フードトラックで出される料理は基本的に一品勝負。その中でも、普段は出合えないような、特徴的なメニューが人気を集めやすい。

赤坂アークヒルズで「エジプトめし コシャリ屋さん」を展開する須永司さんは2011年10月、エジプトの国民食として知られるコシャリに出合った。その味にほれ込み、働いていた電機メーカーの営業職を2015年に退職。そのままエジプトでコシャリの修行を積み、翌年3月に念願のフードトラックをオープンした。

コシャリという日本人にとってはなじみの薄い食べ物を積極的に買っていくのは「新しもの好きそうな女性」が多いという。コシャリはベジタリアンフードであることから、外国人もよく足を止める。

食べてみると、チリコンカン風のトマトソースに、フライドオニオンのシャクッとした食感と、お米とマカロニのもちもちとした食感が絶妙に混ざり合う。甘みがあり、どこか懐かしささえ感じる味だ。

赤坂アークヒルズ以外では東銀座、東京大学でも営業しており、9月からは品川でも出店する予定だ。

銀座のトラットリアも「攻めに行く」時代へ

マンゴツリー

上:ミールワークフーズのフードトラックの人気メニュー、ピリ辛のガパオとマンゴージュース。下:ミールワークフーズ事業本部長の鵜澤宏昌さん。

フードトラックブームは、固定店舗を持つ有名レストランにも影響を及ぼしている。

タイ料理店「マンゴツリー東京」など、レストランやバーを展開する株式会社ミールワークフーズは、今年8月からトレードピアお台場でフードトラックの営業を開始した。事業本部長の鵜澤宏昌さんによると、いろいろな場所をめぐることでお客さんと不動産オーナーの認知度を高めることを狙っているという。新しい味などを小規模でテストできる、という利点もある。

「『フードトラックだからしょうがないよね』という味では終わらせたくない。反応がいいのは、やはりほかの店ではやっていないようなメニューですね」(鵜澤さん)

銀座の有名イタリアン、トラットリア「コルポ デラ ストレーガ」は2017年7月、ランチ営業を固定店舗からフードトラックに切り替えた。ディナーの平均予算1人あたり約8000円の味が700円から900円で楽しめるとあり、好評だ。メニューも「ポルケッタ」「仔羊のブロデッタート」など本格派で、1日約120食が売れるという。ランチタイムでの売り上げは固定店舗のときと比べ、約2倍に増加した。

自動販売機とコインパーキングだらけの街よりも

やっぱり人との出会い。雨の日や休みの日でも買いに来てくださるお客さまがいると、本当に嬉しいですね」

フードトラック営業をすることの醍醐味について、前出の須永さんはしみじみとそう語る。

「ガパオ丼」を展開するスマイルデリのフードトラック

車1台分のスペースでも、フードトラックを出すことはできる。写真は「ガパオ丼」を展開するスマイルデリのフードトラック。

フードトラックは新たな土地活用ビジネスとしても期待されている。今までは大企業しか入ることのできなかった場所に個人の店が入れば、人との豊かなつながりが生まれていく。

空き地が全部コインパーキングか自動販売機になってる街なんて、味気ないじゃないですか」(柏谷さん)

ガパオやシンガポールチキンライスに続く次の「食」のトレンドは、フードトラックで起こる人と人とのつながりから始まっていくのかもしれない。

(撮影:西山里緒)

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