かっぱ寿司練馬店。事前予約制導入で、前回の食べ放題とは打って変わって店舗は平穏ムード。
6月から7月にかけて、かっぱ寿司が店舗、期間、時間限定で実施した「食べ放題」。平日14時~17時限定だったため、実施前は「使い勝手が悪すぎる」など冷ややかな目で見られていたが、ふたを開けてみると1カ月で想定を大きく上回る11万5765人が利用した。好評を受けてかっぱ寿司は8月28日から9月8日まで、前回より多い全国36店舗で、「新・食べ放題」を始めた。
世の多くのサラリーマンにとっては勤務時間ど真ん中だが、普段から一人でも入るほど回転寿司愛あふれる筆者としては何としても行きたい。とは言え、40代女一人で食べ放題はちょっと自信がない。そこで編集部のインターンで東京大学文学部3年生の分部麻里さん(21)を誘って、東京・練馬店の食べ放題に参戦してきた。
—— 端末3台駆使してどうにか予約
前回のかっぱ寿司トライアル食べ放題では、予想を上回る客が訪れ、数時間待ちや店に足を運びながら食べられないという事態も発生した。このため、今回の食べ放題はネットからの予約が必須となった。
毎日午後3時に翌々日の予約ができるようになる。初日の28日と29日分については、25日午後3時に予約が始まった。
私たちは初日の28日を避けて、29日に東京・練馬店へ食べに行くことを決定。予約は分部さんが担当した。
29日午後3時に始まった9月1日の練馬店予約受付画面。午後3時7分時点でかなり埋まっている。
分部さんは予約開始10分前に自分のiPhoneからログインし、午後3時と同時に予約画面に入ろうとした。しかし予約が殺到しているためか、画面を更新しても「ページを開けません」との画面が表示される。
「このままでは予約ができないかも」
危機感を感じ、その場にいた友人に協力を依頼、パソコンも使って端末3台で予約サイトへのアクセスを試みた。
最も早く、練馬店の予約時間・人数選択ページにたどり着いたのは友人のiPhone7(分部さんのiPhoneは6。バージョンの差がつながりやすさに影響したかは不明)。しかし「確定画面に進む」ボタンを押した後に、「ページが開けません」と表示され、絶望。再び時間選択からやり直しになる。
その頃にはすでに早い時間帯の予約は埋まっており、テーブル席が残っていたのは15時半と17時のみ。2度目は「ページが開けません」と表示されることなく、無事に予約が完了した。iPhoneを貸してくれた友人とハイタッチして、時計を見たら午後3時39分だったという。
ちなみに、かっぱ寿司によると、練馬店は食べ放題専用席を90席用意し、1日に約200人が利用できる計算だという。29日現在、練馬店のウェブ予約は毎日開始10分そこそこで埋まってしまうが、当日に空きがある店舗もある。
—— 好物のアジは「食べ放題」対象外
店に到着したの29日午後3時20分。予約時間より10分早かったが、待つことなくテーブル席に通された。食べ放題は60分制、ドリンクバー付きで男性1580円、女性は1380円(その他、小学生料金などあり)。「食べ残した場合は、その分を実費で払う」「食べ放題は専用メニューにある商品のみ」「60分超過後は延長料金が10分ごとにかかる」などと説明を受け、15時25分に食べ放題がスタートした。
回転ベルトでも寿司は運ばれてくるが、60分を無駄に使いたくないため、タッチパネルで食べたい物をオーダーしていく。注文した商品は、新幹線のトレーに乗って運ばれてくる。
食べ放題の対象となる商品は80種類以上。「極上大とろ」「ほたて」(いずれも一皿180円)など、高級ネタは対象外だが、100円の皿は基本的に食べ放題というのが私の理解だった。
しかし分部さんが「私、アジが好きなんですけど、事前にチェックしたらアジは対象外なんですよ」と言うので、「大アジ」の価格を見たら100円だった。
それにしても事前にメニューチェック、予習を怠らないとはさすが東大生。というわけで、100円皿でも食べ放題対象外がある点は注意が必要だ。タッチパネルの「食べ放題」から選べば、間違えることはない。
前回のトライアル食べ放題では、客が殺到して混乱が生じたそうだが、完全予約制の今回は平穏そのもの。一人客、男女のカップル、親子連れなど客層はさまざまだが、話し声はあまり聞こえず、皆、何かの修行のように黙々と皿を重ねている。
—— 20分経過。食べ盛りの大学生は「ここからです」
開始から20分、筆者は後半の息切れを懸念し、5皿しか食べていない。対して朝から何も食べていない分部さんは、既に10皿完食。「ここからですね」と不敵な笑みを浮かべ、ドリンクバーのカルピスを飲んでいる筆者に、「食べ放題のときはウーロン茶がいいですよ。母が言ってました」とアドバイスまでする余裕っぷりだ。
この日何も食べずに挑んだ分部さん。最初の20分で10皿を食べ、ドリンクはウーロン茶一択。
私たちは二人とも回転寿司好きだが、かっぱ寿司は久々。筆者の場合は近くに店がなかったことが大きな理由だが、分部さんはどうなのか。
「中学時代は家族でよく行っていたんですよ。けれどある日、母が『かっぱ寿司はおいしくない』とはま寿司に乗り換えて、高校以降はずっとはま寿司です」
なんと!
回転寿司チェーン界では「かっぱ寿司」「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」が四強と称されてきたが、実はかっぱ寿司の売上高は減収、純損益も赤字基調が続いており、最近では「1人負け」と言われることもある。対して2002年に創業したゼンショーグループのはま寿司は、この数年で急速に業績を拡大。店舗数はスシローを抜いて業界首位になった。はま寿司の躍進とかっぱ寿司の凋落の背後には、「分部一家」のような客が多数いるということだろう。
今回、「味の改善への取り組みを、多くのお客様に知ってほしい」と食べ放題を企画したかっぱ寿司。「はま寿司派」に鞍替えした分部一家から、娘だけでも取り戻すことができるのか。
——残り15分、最後に何を選ぶかに悩む
45分が過ぎた。ここまでで分部さんは寿司14皿+あおさの味噌汁(180円)を食べた。通常価格換算では1580円。さらにウーロン茶も2杯飲んでいる。皿を数えた分部さんは元を取ったことに安心したのか、「おなかが膨れてきました」とこの日一番の笑顔を見せた。
対して筆者は、寿司7皿と茶碗蒸し(180円)。880円分しか食べていないのに、すでに腹八分目。分部さんと同じくあおさの味噌汁を注文したが、それでも1060円。
「そろそろお時間です」とスタッフから声がかかって、ちんたらと寿司を食べている余裕がなくなり、ついに通常価格300円の「ごくっ!旨 鮭出汁の味噌ラーメン」手を出すことにした。
分部さんはプレミアムプリンと杏仁とうふを頼み、既にデザートタイム。杏仁とうふは通常100円だが、プリンは200円。では私も、とプリンを注文すると、残り7分を切ったところで、ラーメンとプリンが同時に来た。
残り時間7分、ラーメンとプリンが同時に運ばれてくる。
そのボリューム感にうっすら後悔がこみ上げる。よく味わいもせずに麺をすすり、今度はプリンをかきこむ。舌で魚介だしとプリンのカラメルソースが絡み合って全然うれしくない。デザートは別腹というし、ラーメンの代わりにデザートを複数食べた方が良かったのではないか。しかし今、それを考えている時間はない。
どちらの器も空にして時計を見たら、終了1分前。急いで写真を撮り、会計をしてもらい、本日の食べ放題が終わった。
——「かっぱ寿司もいいんじゃない」
最後に、この日食べた分を通常価格に換算してみた。
分部さん:寿司14皿(1400円)、あおさの味噌汁(180円)、デザート2品(300円)。合計1880円。プラスドリンク2杯。
筆者:寿司7皿(700円)、あおさの味噌汁(180円)、茶わん蒸し(180円)、ラーメン(300円)、デザート1品(200円)。合計1560円。プラスドリンク2杯。
女性2人、1時間の戦績。
女性の食べ放題価格は1380円。頑張れば元を取れるが、元を取ることにこだわると、終盤は苦行と化し、楽しめない。また、個人的な感想を言えば、値段が少し上がってもいいから、全メニュー食べ放題になるプランがあればうれしい。
かっぱ寿司が食べ放題を実施する狙いは、「昨年10月以降進めてきた、寿司ネタの品質向上に象徴される新しいかっぱ寿司を、より多くの人に体験してほしい」というものだ。中学以来6年ぶりにかっぱ寿司を訪れた分部さんに、その思いは伝わったのだろうか。
「ほかの回転寿司チェーンと比べてまずいとは思いませんでした。普通においしかったです。ただ、久しぶりすぎて、以前と比べて味が改善されたかはよく分かりません。アジが食べられないのは残念でしたが……」
では、はま寿司に寝返ったお母さんには、何と伝えますか。
「かっぱ寿司もいいんじゃない、と言ってみます」
(価格はいずれも税抜き)
(撮影:浦上早苗)