SHOWROOM前田裕二、ビジネスモデルは「スナック」仮想ライブ空間は孤独な路上弾き語りから生まれた

前田裕二

自室のようなSHOWROOMの社長室。一番目立つ場所に飾られていたアコースティックギターは、寄る辺のない少年時代、ある意味「生存をかけて」始めた路上での弾き語りで使用していたものだ。

Business Insider Japanがミレニアル世代のスタートアップ経営者を追うシリーズ。2回目は、アーティストやアイドル、モデルなどの配信が無料で視聴・応援できるライブ配信サービスを20代で起業した、「SHOWROOM」代表の前田裕二(30)。

外資系金融エリートからエンタメ企業創業

前田はバリバリの金融マンだった。新卒でUBS証券に入社し、1年後に渡米。ほんの数年前までは、ニューヨークにある外資系投資銀行のアメリカ本社(UBS Securities LLC)で北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事し、トップの営業マンとして実績を上げていた。

だが、一転してエンタメ業界へ舵を切った。仕掛けたのは、「SHOWROOM」という、これまでにないライブ配信サービスだ。

前田は長い前髪をかき分け、バンドマンが音楽の夢を語るみたいに、事業に懸けるストレートな思いを語る。

「人はいつ死ぬかわからない。僕がニューヨークで猛烈に働いていた頃、学生時代のバンドメンバーで親戚でもある大事な人を亡くして思ったんです。生きているうちに、『0から1』を生み出すような新しい価値を創出する仕事がしたい。世界中の人たちに、幸せや付加価値を提供し、影響を与え続けられるような何かに全力投球したいと。『これだ!』と思い定めたのが今のビジネス。僕はこの事業に命を懸けています」

2013年11月にスタートしてわずか3年半だが、ライブを観に来る「ユーザー」の登録数は150万人弱。「演者」と呼ばれる配信者は有名・無名を問わず増え続け、すでに約20万人になっている。視聴者から受け取る「ギフト」によりマネタイズできる仕組みを採り入れ、月1000万円を稼ぎ出す演者もいるという。最新(2017年7月末〜8月末)の日本におけるiPhoneアプリ売り上げランキングの毎日の集計に目を通したら、エンターテイメント部門1位の座は1日たりとも他に譲っていなかった。

SHOWROOMの特徴は、誰でも生放送の配信ができることだ。アプリをクリックすると、配信部屋の一覧がずらり。この「仮想ライブ空間」で繰り広げられるパフォーマンスは、とにかく自由でおおらかだ。アイドルがすっぴんで自宅から生トークを配信していたり、アーティストの卵がゆるトークを交えてウクレレライブを披露していたり、一般人の男性がブツブツしゃべりながらせっせとガンプラ(機動戦士ガンダムのプラモデル)作りを進める手元の動画を配信していたり。

演者と視聴者とがインタラクティブに交われる「双方向性」が強みだ。番組の視聴自体は無料。視聴者が「いいね」「もっと応援したい」と思えば、SHOWROOM内の電子的な仮想通貨を現金で買い、その仮想通貨で交換する花やぬいぐるみなどのアイコンを「ギフト」として演者に贈る(「ギフティング」する)。路上パフォーマンスの投げ銭感覚だ。演者への直接支援モデルである点が新しい。

「ご法度」デザインが生む新しい価値

SHOWROOMアプリ

SNSの次の大きな波は、アジア圏に端を発する「ライブストリーミング」だと前田は確信している。SHOWROOMが画期的なのは視聴者をアバターとして登場させ、演者と一体感のある「ライブ会場仕立て」にしたデザイン。観客席のほうが広い。

「ルーム」と呼ばれる配信部屋がそれぞれのパフォーマンスの場に。実際、真夜中2時にライブ公開中だった女性アーティストの「ルーム」に入室してみた。

画面のデザインがライブ会場みたいなつくりになっている。訪問客が分身ともいえる「アバター」で表現され、真夜中にもかかわらず100人近い観客がワサワサと集まっていた。こんな風に、視聴者の熱気や温度まで伝わってくるのは、演者のステージ(額縁状に切り取られた配信動画のスペース)以上に観客席のスペースの方が幅を取るレイアウトだからだ。パフォーマンスに呼応する形で視聴者(アバター)が思い思いに「ギフティング」する様子や、コメントの投稿が可視化されていて、演者と視聴者が一つの劇場に「居合わせている」感覚だ。

この女性演者は、 「◯◯さん(アバター名)、今晩も来てくれていたんですね。ありがとー」 と「常連客」を気にかける発言も。画面上ではアバターの吹き出しのような書き込みコメントが飛び交い、演者がそれらを拾い読みした上で、 「じゃあ、最後の曲は◯◯さんのリクエスト曲でいこうかな」 と客からのリクエスト曲をアカペラで披露していた。

それにしても、大胆なレイアウトだ。スマホの縦画面で視聴する場合、上のほうに演者のスクリーンがあって、その下側3分の2ものスペースが視聴者のアバター群が「いる」観客席で占められている。「演者」対「視聴者(アバター)」の面積をあえて「1対2」とする黄金比は、演者とファンの心理を読み解けなければ思いつかないものだ。前田は言う。

「普通は演者の画面の方を大きくしますよね? 画面の面積のほとんどをアバターが占めるってのは、ウェブデザイン的には『ご法度』。でも、僕には演者の心理として、『自分がデカく表示されているよりも、ファンがいっぱい観ている様子が伝わってくるほうがテンションが上がるはず』という読みがありました。それは、僕自身が昔、路上で弾き語りをしていたから。お客さんがいないときの寂しさも、応援されるヨロコビも、演者の気持ちが痛いほどわかる。僕にはあの頃の経験すべてが色つきの映像として思い浮かべられるんです」

路上ライブで体験した「濃い常連客」

前田裕二

物心がついた頃から父親はおらず、8歳で母親を失い、一つ一つ逆境をはねのけながら生きてきた。ハングリー精神は半端じゃない。自己分析ノートは30冊以上にも及ぶという。

渋谷の少し外れにあるSHOWROOMのオフィス。社長室の一角に、1本のアコースティックギターが大事そうに飾ってあった。前面に貼られた特大ステッカーには黄ばみがあり年季を感じさせるが、剥がれ一つない。愛情を持って扱われてきた証しだ。

「僕の人生もビジネスも、このギターが原点です。8歳で両親を亡くした僕が『生きるため』に路上での弾き語りを始めたときに使っていたものです」

親亡き後は、10歳年上の兄と2人だけになった。住む家を失い、頼るアテもなく、最初の1カ月ぐらいはやむなく警察署に仮住まいさせてもらった。半年後にようやく実父の妹にあたる叔母の家に引き取られた。だが、叔母の家に自分の“居場所”はなかった。

かといって、叔母宅を出ていけば、たちどころに困窮するのも目に見えていた。親という後ろ盾を失った小学生の前田にとり、生きるための命題はただ一つ、 「1日も早く、僕自身で食べる力をつけないと」。小学6年生にして自力で稼ぐことを考えた。

「真っ暗闇をさまようようだった」小学生生活に一筋の光明が差したのは、1本のギターがきっかけだった。社長室にあったアコースティックギターは、叔母の息子にあたる「親戚のお兄ちゃん」から譲ってもらったものだ。「もう使わないから、やるよ」と。最高の遊び道具を手にした前田は音楽にのめり込み、東京都葛飾区や足立区の路上で弾き語りを始めた。

そこで稼いだ小銭を握りしめ、電車で移動し、今度は港区白金の路上をライブ会場に。道行く人の年齢、交わす会話から相手のニーズを汲み取り、相手の心に沁みる歌を届ける努力と工夫を怠らなかった。 大人に馴染み深い昭和の歌謡曲を歌う小学生には、いつしか「濃い常連客」がつき、多いときには月10万円がギターケースに入るまでになった。

潰れないスナックの「絆」ビジネス

路上ライブで忘れられないエピソードがあるという。 ある時、松田聖子の『赤いスイートピー』を聴いていた40代くらいの女性から、「『白いパラソル』って知ってる?」とリクエストされた。前田はあえて、「時間差」で応えようと考えた。

「知らないので今日は歌えないのですが、来週の水曜日の同じ時間にもう一度、この場所に来てもらっていいですか?」

次回の約束を取り付けた。1週間後、一生懸命練習した「白いパラソル」を歌ったところ、その女性はじっくりと噛みしめるように聴き、ギターケースに1万円を置いていってくれたのだった。

「僕が特別に歌がうまかったわけでもない。『わざわざ自分のために時間をかけて練習してきてくれた』という絆に対する対価だと思うんです」

SHOWROOMオフィス

SHOWROOMの親会社はDeNA。前田は新卒の就活時、同社の内定を蹴っている。現・取締役会長の南場智子が「5年越しで口説いた男」と言われる。2013年にDeNAに入社、「社内スタートアップ」から事業を興した。

この原体験から、前田はこれからの消費活動は「『モノ消費』から『ヒト消費』に向かっていく」という確信を持っている。どんなに高機能でも、人はモノを買うことにやがて飽きていく。人との繋がりにお金を払う事業モデルなら、人との関係性を耕し続ける努力次第で広がり続けると。

人と人との絆をベースに「ニッチ」を積み上げていくビジネスモデルを、前田は「事業のスナック化」と表現する。

「地方に行くと、料理やお酒がとびきり美味しくなくても、ついつい通ってしまうスナックがある。そこのスナックのママって、実はダメダメですぐに酔いつぶれしまったりする。でも、常連客は『ここは俺たちの居場所だからなんとかしなきゃ』とママになり代って新入りの客に対応したり、店を盛り上げようと奮闘したりする。そんな風に人の絆があり、愛される店のほうが長続きしやすい」

まさにSHOWROOMは、そんなスナックをバーチャル空間上に無数に作っている小宇宙みたいなイメージだという。

例えば、今年6月にSHOWROOMで漫才コンビ「キングコング」の西野亮廣が24時間生放送のチャレンジをしたときのこと。ライブ中、西野が寝てしまった時間があった。すると、視聴者同士が「寝ちゃった」「なんとかしないと」とつぶやき始め、「西野さんにサプライズをしかけよう!」とチャットを使って横で連携し、勝手に企画を立ち上げた。寝ている間におでこにイタズラ書きされた「恥ずかしい映像」をツイッターで拡散しようという企画だった。ファンが西野の居眠り中でも番組が存続するよう、空白を埋めてくれたのだ。

前田はにこやかに振り返る。

「視聴者たちが協働、というか『共謀』していろいろ動いてくれる感じがスナックっぽいなと思って」

深さ×課金を実現するプラットフォーム

キーワードは「共感」だ。SHOWROOMには50歳のアイドル「ちづるさん」がいる。彼女は30年ほど前に「おニャン子クラブに入りたかった」。封印していた夢を諦めず、もう一度と配信を始めたところ、常時固定ファンが500人つく人気演者になった。いまでは芸能事務所とも契約してアイドル活動を展開している。

「誰にでもある『夢を追いかけたい気持ち』や、完全ではない『余白』を埋めようと頑張る姿に人の共感が集まりムーブメントになる。スナックのママと同じで、100人でも500人でもニッチを積み上げる方が強い。その共感に対してファンがギフティングをする。僕らの強みは、この関係性の『深さ』×『課金』を実現できるプラットフォームを体現することなんです」

実はAKB48をはじめとするアイドルたちも、SHOWROOMに参画している。そうしたアイドルたちがけん引役になっていると思いきや、 「テール(尻尾)、ミドル、トップと演者をカテゴリーすると、無数の素人によるテール演者や、ちづるさんのようにテールからミドルへと登っていったような人たちこそが要。というか、そうした人をターゲットにするという『気づき』があったからこそ、事業が大きく拡大できたとも言えるんです」

対象を「テール演者」に絞ったことで売り上げ額もグンと上がったという。SHOWROOMの収益源はギフトのうちの35%に当たる手数料や、テレビ局や出版社などとのコラボイベントからの収入だ。最近のイベントの例では、ティーンエイジャー向けの月刊誌の専属モデルオーディションが挙げられる。SHOWROOM上でのリアクション獲得量(視聴者からの無料・有料ポイント、コメント数)を競わせる形で実施したところ、2カ月間で数千万もの売り上げがあった。

テール演者を応援する方針に絞った創業3カ月目から右肩上がりに転じた。

作詞家でプロデューサーの秋元康からは、テール演者を耕すことが前田のビジネスの根幹だと、発破をかけられたという。

「AKBはあくまでも起爆剤。抗生物質に過ぎない。アイドルばかりを投入していたら、身体が薬漬けになるのといっしょ。漢方薬のように体質を改善して体力をつけないと」

SHOWROOMのAKB48の企画で前田とタッグを組む秋元は、シビアな意見をくれるビジネスパートナーでもあり、親のいない前田にとっては「あたたかく見守ってくれる父親のような存在」でもあるという。

SHOWROOMオフィス

今年、新しい事業としてメジャーレーベルとは一線を画した「小さな声」を届けるレーベルを立ち上げる。全ては「努力した人が公平・公正に夢を叶えられる社会をつくるため」 。前田の視座はすでに世界へ。「SHOWROOMを世界一の事業・サービスにして、グーグルを超えたい」。

思えば、前田の人生にとって、一つひとつの目標をクリアにしないと生きていけないという「制約」こそが、逆境をはねのけ成長を続けるエンジンとなってきた。

「受けた大学は一つも落ちなかった。UBS時代も、米国人同僚にクレイジーと言われるぐらい仕事に没頭し、営業トップの成績を叩き出した。目標を設定して、その目標からの距離感を自分で測って、それを埋めるためのアクションをやりきるっていうのが得意」

さらには過酷な環境下で孤独な少年時代を過ごした人生により他者への想像力が磨かれ、「やさしさ」を乗せるこれまでにないプラットフォームを実現させた。

前田は感慨深げにこう語った。

「もはや僕の境遇は、ディスアドバンテージというアドバンテージ。自分に与えられた運命をを正当化するためにがんばっている感じ。だからこそ、僕は歌がうまいとかいう才能ではなく、後天的な努力によって頑張った人が報われる社会を作りたいと思っているんです」(本文敬称略)

(撮影:今村拓馬)

Business Insider Japanから前田裕二さんへの質問


前田裕二(まえだ・ゆうじ):SHOWROOM代表。1987年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券に入社。11年からニューヨークに移り、北米の機関投資家に対するエクイティセールスに従事。その後、事業立ち上げについて、就職活動時に縁があったDeNAの創業者・南場智子に相談したことで、13年5月、DeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を設立。15年8月に事業をスピンオフし、SHOWROOMを設立。同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。近著に『人生の勝算』。

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