総合職10年で6割離職の現実、会社のホンネを見限る女性たち

地下鉄のホームのサラリーマン

男性ですら疲れている。総合職女性はもっと行き詰まっている。

撮影:今村拓馬

2020年には女性管理職比率を3割にという政府の掛け声とは裏腹に、基幹的な仕事を担う総合職の女性が、これからという時に会社を辞めてしまう動きはいまだに珍しくない。育児期に女性の労働率が下がるM字カーブは緩やかになる一方、厚生労働省の調べでは、総合職女性の採用10年後の離職率は約6割(男性37%)が現実だ。期待されて入社した彼女たちはなぜ、職場を去ることを決めたのか。

社会人てこういうもの?

新卒で大手メディアグループに入社した板倉彩さん(31、仮名)は、営業で外回りの日々を過ごした。誰もが名前を知るような大企業で仕事のやりがいもあり、給料も他の企業に就職した同級生よりも多かったが、とにかく激務だった。

「昼間は外回りの時間、書類をつくるのは午後6時以降」が“常識”の職場で、時間が惜しいので移動中に100件電話をかけるのもザラ。当然、仕事が終わるのは深夜を過ぎ、そこから同僚と飲みに行く毎日だった。

「社会人てこういうものなのかなあと。他の会社の友達と会う時間もなく『普通』が分かりませんでした」

2年働き、営業成績も良く年間表彰も受ける。ただ、終電帰りの日々に「ロウソクが縮むように命が縮む」のを感じて、転職がちらつくようになった。

悩んだ末、「これで落ちたらもう少しがんばろう」と申し込んだ求人での採用が決まり、会社を離れた。

その後1社を経て、今では職住近接の中小企業で働いている。

時短勤務だけど3時間睡眠

大手食品メーカーに勤める森本翠さん(30、仮名)は、好きで打ち込んできた営業職からマーケティング部に異動になった。1年足らずの育児休業から復帰するタイミング。人気の部署とはいえ「あれ?」と思ったのが、担当の食品がカフェイン入りだったことだ。

「子どもが1歳未満だったので、授乳中でした。担当となると毎日、カフェインを摂取することになる。会社はあまりそういうことに気づいていないのかな、と」

違和感はその後、的中した。

パソコンの手元

子どもを寝かしつけてから持ち帰りの仕事にかかる。

Shutterstock

チームは男性ばかりで、月の残業時間が100時間超えするような激務だった。時短勤務の森本さんは、午後5時には退社するが、夕刻になって翌朝締め切りの業務が降ってくる。

「子どもを寝かしつけて夜11時に起きて3時間仕事して、泣き出した子どもに授乳してまた仕事に戻り、3時間寝たら朝が来るような毎日でした」

そんな生活を半年も続けると、ある朝、どうしてもベッドから起き上がれなくなった。子どもを保育園に預けると、泣きながら心療内科に駆け込んだ。

「うつの診断書出しますよ。休めますがどうしたいですか」

医師に問われて、「分かりませんでした。診断書をもらえば休めるけれど、それでどうしたいんだろうと」。

結局、受け取らずに帰ってきた。

その後上司が代わると、持ち帰り残業はかなり改善された。とはいえ、「上司が代われば、また同じことが繰り返される。風土が変わらない限り、ずっとこの会社にいるのは難しい」。

職場の本音に覚醒する女性たち

「今の時代はSNSもあるし、メディアも働き方改革のメッセージを発している。ネットや育児休業で他の世界を見て、こんな働き方はおかしいと覚醒する人は増えています。違和感をもったらできる人から辞めている印象です

キャリア支援のオンライン講座を手がけるMYコンパス(東京都中央区)代表の岩橋ひかりさん(37)は、キャリアに悩む女性をたくさん見てきた。

キャリア支援講座

この働き方でいいのか。育児休業中に「覚醒」する女性も少なくない。

提供:MYコンパス

岩橋さんも、大手流通グループ傘下の金融機関の元総合職だ。

育児休業明けに異動した人事部で、表向きは妊娠を祝福しながら、裏では「うちの部署に戻さないで」「妊娠したハケンさんは辞めてもらう」といった組織のホンネに触れるうち、離職を考えるようになった。

会社では仕事と育児の両立のロールモデルのように扱われていたが、「ここで働き続ける選択肢はないな、と思いました」。その後、2人目の育休中からベンチャー企業の手伝いをするなどして起業準備を重ねた。

厳しい就職戦線を勝ち抜いた総合職女性たちの多くは、仕事の能力は高い。退職後は、柔軟な働き方が可能な企業への転職ももちろんあるが、岩橋さんのように起業する女性も少なくない。

8割離職の総合職女性の同期

新卒でメガバンクに入行した渡部雪絵さん(37)は3年間、都内で法人営業などを担当。その後は大手経済紙、証券会社を経てファンドで働いた。

妊娠を報告すると退職勧告を受けたのをきっかけに、「自分の好きなことをしよう」。それまでの経験を生かし、2016年に働く女性のワンピースブランド「Ayuwa」を立ち上げた。

メガバンク時代、「希望していた企業広報に行くには10年はかかると言われて。そんなに待てないと転職を決めました」。

就職氷河期の難関を突破したメガバンク同期入社の総合職女性たちは、東大、京大、早稲田大と高学歴女子がそろっていたが「10人中、今も残っているのは2人だけ」という。

第一子の出産後に6割の女性が依然退職する日本で、その後は契約社員やパートなど非正規雇用に転換するコースがお決まりだ。

しかし、経済産業省の女性起業家等実態調査(2015年)によると、女性の開業動機が2009年では「仕事の経験や資格を生かしたかった」が最多だったのが、2014年には「自由に仕事をしたかった」が1位に浮上。

仕事のペースダウンとしての退職でなく、硬直した働き方に見切りをつけて、起業やフリーランスを選択する動きも出始めている。

M字カーブ

育児期に女性の労働力率が下がるM字カーブは緩やかになりつつある。

出典:男女共同参画白書2017年版

M字の改善は非正規雇用

育児期に女性の労働力率が下がる「M字カーブ」現象は、20年前、40年前と比べれば、かなり改善されつつある。ただし、その背景として、男女共同参画白書は、育児期女性の非正規雇用者数の増加を指摘。正規雇用に比べ賃金の低い、非正規雇用全体の7割を女性が占めるのが現実で「女性活躍」のもろさを露呈している。

一方、厚労省調査(2014年度)では、2005年4月に総合職入社の女性の10年後を追うと、58.6%が離職していた。

「現状のままでは、会社に残るのは、軍隊的に働き続けられる層か、会社を収入を得る場と割り切って働く、そこそこ型ではないでしょうか」

MYコンパス代表の岩橋さんは言う。高学歴女子が「長く働き続けたい」と、あえて一般職や、転勤はないが給与や昇進に制限のあるエリア職などを選ぶ理由もそこにある。

流行りのように「女性活躍推進」を掲げる企業は山のようにあるが、内実はどうか。本気で変えるつもりはないというような、企業のホンネを悟った総合職女性は、組織を離れている。IT環境の進化により、フリーランスや起業や複業といった、働き方の選択肢も広まりつつあるからだ。

それが「総合職6割離職」の実態なのだ。

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