北朝鮮・水爆実験のタイミングは中国への牽制か

北朝鮮の国営メディア朝鮮中央テレビは日本時間9月3日午後3時半からの「重大放送」で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載用の水爆実験に「完全に成功した」と発表した。

北朝鮮による核実験のニュースが映し出された街頭モニターの前を通り過ぎる人

北朝鮮による核実験のニュースは、休日の日本に衝撃を与えた(2017年9月3日、東京)。

REUTERS/Toru Hanai

北朝鮮に軍事的な圧力をかけてきたアメリカのトランプ政権の面目や権威をつぶした格好だ。また、北朝鮮に核実験の制止を求めてきた中国の習近平政権の顔にも泥を塗った。

金正恩朝鮮労働党委員長が開発を推し進めるICBMは、小型化された核弾頭を搭載する。最大射程距離は1万2000キロで、ニューヨークやワシントンといったアメリカ東部地域まで打撃を加えられる火星13と火星14だ。北朝鮮は7月4、28日に二段式の火星14の発射実験を行ったが、三段式の火星13の発射実験はまだ行っていない。

こうしたICBMに搭載できる核弾頭の小型化や軽量化に最適な方法の一つは、核融合反応をする水爆の開発だ。水爆はその大きさや重量に比べて爆発力が極めて大きい。

核融合必要な水爆実験の衝撃

小野寺防衛相は3日夜、マグニチュード5.8を基準に推定すれば、今回の核実験の推定出力は約70キロトンになると考えられると述べた。前回の5度目の核実験は10キロトン。ちなみに米軍が1945年に広島に投下した原爆は16キロトン、長崎は21キロトンだった。

韓国の国防省の発表によると、北朝鮮の過去の核実験の爆発規模は以下のようになっている。

  • 1回目 2006年10月9日 0.8キロトン
  • 2回目 2009年5月25日 3~4キロトン
  • 3回目 2013年2月12日 6~7キロトン
  • 4回目 2016年1月16日 6キロトン
  • 5回目 2016年9月9日 10キロトン

北朝鮮は昨年1月に「初の水爆実験を成功裏に実施した」と発表したが、今回が北朝鮮にとって初の水爆実験の成功と考えられる。昨年1月の実験について、アメリカや日本、韓国は地震の規模や出力の低さから、「熱核融合装置の実験成功と一致しない」などとして、北の水爆実験の可能性を否定していた。確かに上記のリストの通り、4回目の核実験の爆発規模は、他の前後の過去4回の核実験と大差がない。

核開発計画を視察する金正恩朝鮮労働党委員長

核開発計画を視察する金正恩朝鮮労働党委員長(撮影日不明、北朝鮮・平壌の朝鮮中央通信が2017年9月3日に公開)。

KCNA via REUTERS

北朝鮮はこれまで何度も核融合反応を利用した水素爆弾の開発を示してきた。核融合は、世界的に新しいエネルギーとして注目され、膨大な費用と高い技術力が必要だ。日米韓の間には、後進国の北朝鮮にそんな核融合実験施設がありえないとの見方が根強くあった。

今回の核融合反応を利用した水爆実験は、日米韓中を中心に国際社会に大きな揺さぶりや動揺を与えることは間違いない。

なぜこのタイミングだったのか

北朝鮮はなぜ9月3日というタイミングで、水爆実験を強行したのか。

米韓両軍は8月21日から31日まで朝鮮半島有事に備えた米韓合同演習を韓国各地で行った。北朝鮮はこれに強く反発し、26日に3発の300ミリ多連装ロケット砲の改良型の発射。29日にも日本上空を通過する弾道ミサイル火星12を発射した。

北朝鮮はこの時期、8月25日の先軍節、9月9日の建国記念日、10月10日の朝鮮労働党創建記念日を迎える。金委員長は核ミサイル実験を強行し、国威発揚を通じて体制維持を図っている。34歳という若き北の独裁者は、祖父の金日成氏や父の金正日氏に比べて、実績がない。アメリカの首都に打撃を与えるICBMを完成させれば、自らの権威づけや箔付けに役立つ。

国連安保理の新たな制裁決議に直面し、国際的に孤立を深めている中、アメリカという敵対国とやり合うほど、内政問題からも国民の目をそらすことができる。外敵を作って、自らの政治的な基盤を強める手法は、古今東西どの国の指導者にも見られ、目新しいことではない。

とはいえ、9月3日という日付での核実験の強行には意外感が残るかもしれない。昨年は建国記念日の9月9日に5度目の核実験を行ったため、今年も9月9日での核実験の可能性が事前に指摘されていた。実際、韓国の国家情報院は、「北朝鮮での核実験場の準備完了し、9月9日に核実験の可能性がある」と国会に報告していた。

北朝鮮の国営メディアは9月3日朝、金委員長がICBMの弾頭部に装着する水爆を視察したと報じたばかりだった。その数時間後に、間髪を入れずに核実験を行った格好だ。

さらに、米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」は8月30日、北朝鮮北東部、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を撮影した衛星写真の分析結果に基づき、「北朝鮮が直ちに地下核実験を行うことを示す具体的な兆候はみられない」との見解を発表していた。

習近平政権にとって大事な日

筆者は、中国やロシア、それにインドなど新興5カ国でつくるBRICSの首脳会議が3日、中国南部の福建省アモイで始まったことが大きな理由だとみている。北朝鮮は、このBRICSの首脳会議の開幕日に合わせてきた可能性が高い。北朝鮮は、国連の制裁決議に同調する中国の習政権に一矢を報いるため、過去にも、中国が主催する重要な国際行事に合わせ、ミサイル発射を強行してきた経緯がある。

南アフリカ共和国のジェイコブ・ズマ大統領、中国の習近平国家主席、ブラジルのミシェル・テメル大統領。

北朝鮮が核実験をした9月3日は、中国でBRICS首脳会議が開幕した日だった(2017年9月3日、中国福建省アモイ市)。

REUTERS/Fred Dufour/Pool

昨年9月に杭州で開かれたG20首脳会議では最終日、さらには今年5月に北京で催された中国の「一帯一路」の国際会議では開幕日にも、北朝鮮はそれぞれ弾道ミサイルを発射した。

ロシアも8月下旬から港湾使用料の未払いを理由に、北朝鮮の貨客船「万景峰」のウラジオストクへの入港拒否をしている。BRICS首脳会議に参加するロシアへの反発の意味合いもあり得る。

中国はこれまで中朝友好協力相互援助条約や経済を武器に、北朝鮮にさまざまな圧力をかけ、核実験の自制を求めてきた。結果として、北朝鮮は4月にも核実験の可能性が取り沙汰されるなか、実験をやめていた。しかし、北朝鮮は6度目の核実験をついに強行し、アメリカのみならず、中国のレッドラインを越えたとみられる。

北朝鮮に対する手詰まり感が漂う国際社会。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、1950年の朝鮮戦争勃発からちょうど67年を迎えた6月25日、その社説で「われわれの自衛的な核抑止力はいかなる交渉の対象にもならない。アメリカと南朝鮮(韓国)は『北朝鮮の核放棄』という野望を捨てなければならない」と述べた。

この言葉通り、北朝鮮はもはや非核化に向けてアメリカと交渉する意思はない、と筆者はみている。国際社会は北朝鮮を核保有国として早く認めろ、という姿勢だ。

火星13の新型ミサイルの発射実験など、北朝鮮が今後も核ミサイル開発を強行していくとみられるなか、米中日露韓をはじめ、国際社会の具体的な対応がますます問われることになりそうだ。

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