Business Insider Japanは、9月16日午前9時(日本時間)から、いずれもシリコンバレー在住の同時通訳者・関谷英里子さんと、米企業のSearchMan(サーチマン)共同創業者であり、noteの連載「決算が読めるようになるノート」でおなじみのシバタナオキさんによる対談ライブ「英語か決算か? ビジネスパーソン最強の教養とは」を配信する。
対談ライブを前に、「グローバル社会を生き残るビジネス戦術」をそれぞれに聞いた。第一弾は、人気同時通訳者の関谷さん。
少なくない数の日本人が英語コンプレックスを抱えている。
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正しさよりもオープンな態度
ノーベル平和賞のダライ・ラマ14世、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏、アル・ゴア米元副大統領など——。関谷さんは、数々のビッグネームの同時通訳者を務めてきた。
多くの日本人は永遠の英語コンプレックスから抜け出せない。「勉強しているのに使えない」といわれて何十年が経っただろう。凄腕のプロからみて、克服法はあるのか。
関谷さんはきっぱりこう言う。
「相手は、私たちの英語が文法的に正しいかどうかといったことは実は気にしていません。例えば、自動運転のような世界最先端の話題を扱う会議で、初歩的な英語のミスをしたら恥ずかしいと思うかもしれません。 でも、相手はそこはあんまり覚えていない」
それより関谷さんは、「正しいかどうか」にこだわる日本人の盲点を突く。
「文法的な正しさよりむしろ、こなれているか。オープンでフレンドリーか。英語を話す態度こそが、印象に残るんです。例えば、話す文章すべてに主語と述語をきっちり使おうとして言い直すなど、生真面目で固いと、まず難しいですね。お互いを理解し合うためでなく『英語を正しく話すこと』に気を取られているように感じられます」
「世界で一流と言われる人たちに共通しているのが、すごくフランクでオープン。関わる人全てに関心をもって接する姿勢です」
これまでの数々の大物たちとの仕事から、関谷さんはそう指摘する。
同時通訳者の関谷絵里子さんは、数々の大物ビジネスパーソンの通訳を務めてきた。
自社の社員にはもちろん、通訳者や観客からケータリングサービスの人まで一人ひとりに、気さくに声をかける。
「通訳者はいわば一業者なわけですが、そこへも常に関心をもっています。話は前向きで、まずもって悲観的なことを言いません」
こうした「態度」が周囲を引き付けていく様子が印象的だという。
これに対し、日本人のビジネスパーソンはどうか。
「日本の経営者でもフランクな方はもちろんいますが、多くはやっぱり固いです。ただ、オープンな方が意図が伝わりやすいし、相手の話も引き出しやすい。日本人はビジネスがちゃんとしているのは間違いないのですが、その周辺部分、例えば話のつかみや、ちょっとした会話が固いせいで、印象に残らなかったり損したりしがちです」
effortlessで「英語にこなれ感」を
大学卒業後は総合商社、外資系企業を経て日本通訳サービスを立ち上げた。3年前に、シリコンバレーを象徴するスタンフォード大学のビジネススクールに通うため、カリフォルニア州に拠点を移した。
英語通訳のプロとして仕事をしてきたそれまでと、ビジネス最前線のシリコンバレーで実際に生活する今とでは、「日本人に必要な英語」に対する考え方は少し変わりつつあるという。
通訳者として本を書き始めた2009年時点では「刺さる英語、ビジネスとして洗練されている、そういう点に重きを置いていた」が、このほど出版した『みんな使える!こなれた英語201フレーズ』は、「洗練よりも、相手の懐に飛び込んで仲良くなること」に役立つ英語を意識した。
日本人の名前は理解できないことが多い。例えば「あつし」さんは
You know sushi, right?(スシ、わかるでしょ)と切り出して「スシの前にatと言えばいいんだよ。」(『みんな使える!こなれた英語201フレーズ』より、以下同)
と、説明すればアメリカ人は大喜び。メールの返信遅れの言い訳には、
I'm way behind on emails.(メールがたまってしまっていて)。
在宅ワークやリモートワークが広まる昨今、「シリコンバレーだから多く使われるかもしれませんが」との前提は置きつつも、
OOO(Out Of Office)=オフィスに不在、外勤、オフィス外労働
WFH(work from home)=在宅勤務 。
まさにシリコンバレーの今を生きる英語が紹介される。
仕事そのものに関する英語が大切なのは間違いないが、多くの日本人はその点はきっちり準備をするので、心配ない。日本企業や日本のビジネスパーソンの強みでもある。
「何より、仕事をちゃんとする。メールの返信、状況をアッップデートするなど、日本人にとっては当たり前ですが、海外ではちゃんとした人たちだという安心感があります」。
むしろ、関谷さんが著書に込めたのは「effortless(エフォートレス)=なにげなく見える、肩肘張らない」という感覚の大切さだ。
これを使えば場慣れして見えるフレーズ、これを使えば相手に安心感を与えられるフレーズというのが実際にあるのが英会話です。それらを、ココという場面で言えるからこそ、「こなれて」見えるのです。(『みんな使える!こなれた英語201フレーズ』)
どんなに周到にプレゼンの準備をしていても、とっさの時にこなれた表現が出てこないことで「この人は英語に不慣れ」という先入観を与えてしまうと「本当に損」だという。
「今の時代、英語を学んでいるのは日本人だけではありません。日本人はネイティブみたいにしゃべらなくちゃ、という気持ちが強いですが、今はいろんな人が英語学んでいます。もっと気楽に話してもいいんじゃないですか」
文法的な正しさにこだわりがちな日本人の英語コンプレックスへの特効薬に、effortlessは効きそうだ。
異質なものとぶつかり合う経験を
日本のミレニアルは、オープンにグローバルで仕事をしたい層と、国内にとどまりたい受け身の層とで二極化していると言われる。関谷さんは「異質なものとぶつかり合う経験」の大切さを伝えたいという。
「違う視点、文化背景からみると当然、違う指摘が出てくる。経験が深くなるのです。異質なもの、バックグラウンドの違う人とぶつかり合う経験を、若い時からしてください」
英語を話せれば、当然、その機会は増える。今や人生100年時代だ。
「どんどん年をとるにつれて、経験にしばられがち。若いうちからいろんな意見を取り入れながら、その時の、自分なりの解を求め続ける経験をしていくと、その先も学び続けられると思うのです」
それは、通訳者としての仕事が引きもきらない中、関谷さんがスタンフォード大への進学を選んだ理由にもつながる。
世界中に仲間をつくる力
テクノロジーの進化による変化の目まぐるしい時代。未来を担うミレニアル世代が、何を身につけるべきかを最後に聞いた。
「仲間作りの能力だと思います。それはコミュ力であったり、自分をオープンにする自己開示だったり。何かに挑戦するとみじめな気持ちを味わうこともあるでしょう。でも人はまた立ち上がり、挑戦する。そこで仲間の存在は大きいです。若いうちから、その時の自分には少し無理そうなことにチャレンジしながら、転んでも大丈夫と思える精神力や乗り越える経験を重ねてほしいです」。
そのためにも「英語はツールなので、会話ができればいろんな場所に仲間ができる」。
その時、英語はツールを越えて、世界を広げる扉の鍵になるはずだ。
当日は、ビジネスインサイダーのトップページから、公開インタビューライブをお楽しみください(https://www.businessinsider.jp/)。
関谷英里子: 日本通訳サービス代表。世界の著名ビジネスパーソンの通訳を手がける同時通訳者。慶應義塾大学経済学部卒。スタンフォード大学経営大学院卒。伊藤忠商事、ロレアルを経て、同時通訳のサービス事業を立ち上げた。米カリフォルニア州シリコンバレー在住。