ウィッチシーの共同創業者、ケイト・ドワイヤー氏(左)とペネロぺ・ゲイジン氏(右)。
Courtesy of Witchsy
- アート専門のマーケットプレイス「ウィッチシー(Witchsy)」の共同創業者、ペネロぺ・ゲイジン(Penelope Gazin)氏とケイト・ドワイヤー(Kate Dwyer)氏の女性2人は、ビジネスメールのやり取りをするために、架空の男性共同経営者キース・マン(Keith Mann)氏を作り出した。
- ゲイジン氏とドワイヤー氏は、取引先や連絡先などに男性のマン氏として連絡した場合と女性から連絡した場合の対応に大きな違いがあることに気が付いた。
- ゲイジン氏とドワイヤー氏は、同社の架空の共同創業者キース・マン氏の逸話によって、テック業界や職場に蔓延する性差別に注目が集まっていることは喜ばしいことだとしている。
ペネロぺ・ゲイジン氏、ケイト・ドワイヤー氏、キース・マン氏は、アート専門のマーケットプレイス「ウィッチシー」の共同創業者だ。
しかし、マン氏は実在しない。
ゲイジン氏とドワイヤー氏は、米経済誌ファスト・カンパニー(Fast Company)のジョン・ポール・ティトロウ(John Paul Titlow)氏とのインタビューで、男性である3人目の共同創業者、マン氏を生み出したきっかけについて、女性蔑視的な文調で見下すような対応を幾度となくされてきたことだと語った。2人は「いいかい、お嬢ちゃんたち……」と始まるメールを業者から受け取ったこともある。
「(マン氏としてメールする場合とそうでない場合の対応には)天と地の差があったわ。私がメールを送ると、返信が来るのに何日もかかったけれど、マン氏として送ると、返信や最新状況を教えてもらえるだけでなく、他に必要なものや助けが欲しいことはないかと向こうから聞いてもらえたの」とドワイヤー氏はティトロウ氏に語った。
ビジネスニュースサイト、クオーツ(Quartz)のライラ・マクレラン(Lila MacLellan)氏とのインタビューでは、「(マン氏が生み出される前は)誰一人として私たちを真剣に受け止めてくれず、ただのバカだと思われているのが明らかだったわ」とドワイヤー氏は語っている。ところが同じ相手にマン氏としてメールを送ると、「『いいね。そうだね、一緒にブレインストーミングしようよ! 』といった類の反応が返って来るのよ」とゲイジン氏は述べた。
また、ドワイヤー氏は、マン氏にはしっかりとキャラクター設定があることも明らかにしている。
ゲイジン氏とドワイヤー氏の設定では、マン氏は大学時代アメフトをしていたような男受けするタイプの男で、結婚5年目の妻のことを心から愛しており、早く子どもをもうけて父親になりたいと待ち望んでいる。ゲイジン氏によると、『彼は本当に良い人。ケイト(ドワイヤー氏)や私のことはあまり理解していないけれど、私たちのプロジェクトを喜んで手伝ってくれる。私たちが結婚相手を見つけるまでは、続けてくれるみたい』
ドワイヤー氏とゲイジン氏が体験した、企業の創業者として真剣に受け止めてもらえないといった問題は、残念ながら珍しい話ではない。ビジネスの世界においてジェンダーに関する偏見と性差別は、至る所で見受けられる。
例えば、テック業界で今年最も注目された問題としては、グーグルのエンジニア、ジェームズ・ダモア(James Damore)氏の社内メモ騒動が挙げられるだろう。当時グーグルのエンジニアだったダモア氏は、テック業界に女性が少ないのは生物学的な違いによるものだとする社内文書を発表し、解雇された。この件に対してグーグルのサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)CEOは、「侮辱的で容認できない」としつつも、他者に配慮のある形でならば「異なる意見を表現する自由があると従業員が感じられなくてはならない」とコメントしている。
また、ウーバーの元CEOトラビス・カラニック氏を最終的にCEO退任にまで追いやった一連の流れも、同様の問題から始まっている。同社の元従業員スーザン・ファウラー(Susan Fowler)氏がジェンダーに関する偏見やセクハラの被害を会社で受けているとブログに投稿したのだ。
ジェンダーに関する偏見や性差別の問題は、ハリウッドから経済界まで全ての業界に蔓延している。
ファスト・カンパニーがマン氏について報じた次の日、ドワイヤー氏はBusiness Insiderにそのニュースを見た人たちの反応について、メールでコメントした。
「マン氏の苗字を何もひねらずに『マン』としたことが、大きな反響を呼んでいます。とても男性的でしょう」
そして、メールは続いた:
「キース(マン氏)が架空の人物だと知った人たちは、実在する私たちよりも架空の存在の方が真剣に受け止められたという事実にかなり動揺しているみたい。キースは今や、テック業界や職場全般に性差別がどれだけ横行しているかを明らかにするのにも役立っているの。それにしても、こんなにも多くの人がポジティブな反応をしてくれて嬉しい。またしてもキースは素晴らしい仕事をしてくれたわ」
(翻訳:Yuta Machida)