塾が神童を再生産する。SAPIX婚、鉄緑婚の子どもたち

頭が抜群に良いってどんなことなのだろうか。それが世の中に役立ったのか。

そんなささやかな疑問から、神童と言われた人たちを調べてみた。今を生きる神童たちに会ってみた。

最近出版した『神童は大人になってどうなったか』では、神童と言われた子どもたちの生き方やどれだけ社会に貢献したかを探った。例えば、現・日銀総裁の黒田東彦氏。東大時代の同級生の「彼は一種の天才(中略)。教科書など書籍を読めば、書かれている内容が一度で全て理解できてしまう」という発言を紹介しつつ、黒田氏がその頭脳をどう使ってきたのかを追った。他にも数学オリンピックの出場者や東大を首席で卒業した人など。彼ら彼女らはその後、何を職業とし、社会にどんな“貢献”をしているのか。

その中で、面白い現象に気づいた。

教科書に載るような歴史上の人物は「村一番の神童」という、突然そこに現れたというケースがよく伝えられている。今は、神童になるべくしてなったというケースが多いのではないか。彼らの生まれや家庭環境を探ると、神童誕生には偶然より必然を感じてしまう。

神童は当然、幼い頃から学業成績がずば抜けて良い。そういう天才や秀才たちが集まる進学校や難関大学に合格者を多く送り出す塾がある。SAPIX(サピックス)と鉄緑会。そこに通う成績優秀者を取材すると、ある“現象”が見えてきた。

東京大学、安田講堂

今も昔も神童たちの進学先、東京大学。

撮影:今村拓馬

教え子の親も教え子だった

SAPIXは中学受験塾。開成、麻布、筑波大学附属駒場、桜蔭、女子学院といったトップクラスの中高一貫校に最も多くの生徒を送り出している。

鉄緑会は大学受験塾だ。東大に大量の合格者を出している。通う生徒はこれまた開成、麻布、筑波大学附属駒場、桜蔭、女子学院などの中学1年生から。鉄緑会は関西にも教室があり、ここに通うのは灘、東大寺学園、洛南、神戸女学院など関西圏を代表する進学校が並ぶ。

SAPIXの関係者がこんな話をしてくれた。

「男子生徒を見て、どこかで会ったことがあるなあと思ったら、その生徒の親でした。成績がトップだったのでよく覚えていたのです。親と顔がそっくりなその息子は、成績までそっくりです。トップという点で」

鉄緑会の関係者もこれと似たような話をする。

「中学1年生でかわいい女の子がいる。デジャブ感を抱いて思い出してみると20年近く前のことです。そっくりさんがいた。その子の母親です。親、娘ともに勉強がよくできます」

塾が出会いの場に

サピックス教科書

難関の中高一貫校受験を目指す子どもたちが通うSAPIX。

出来過ぎ感はあるが、これから紹介する神童夫婦のストーリーを聞くと、なるほどど思ってしまう。以下、実名で紹介したいところだが、本人の強い希望で匿名をご容赦いただきたい。

1990年代、神童といわれた大輔さん(仮名)は小学校5年のときSAPIXに通い始めた。そこで由香さん(仮名)と出会う。大輔さんは開成中、由香さんは桜蔭中に進んだ。2人が高校生になって再会する。鉄緑会の教室だった。やがて、2人は東大にそろって現役合格した。大輔さんは医師、由香さんは研究者になった。2人は東大を卒業するとまもなく結婚する。由香さんが話す。

「塾に通っていなかったら、私たちは出会わなかったでしょう。そういう意味ではSAPIX婚、鉄緑婚です。男子校、女子校が多いので出会いの場になってしまうんです」

もちろん、SAPIX、鉄緑会に通う誰もが出会ってしまうわけではない。だが、塾で成績が優秀者となれば、尊敬の対象になりやすいという。勉強を教えてもらうこともあろう。教えるほうも教わるほうも悪い気がしなければ、それはとても楽しく幸せな世界だ。大輔さん、由香さんは塾で苦手な分野を教え合ったという。なるほど、SAPIX婚、鉄緑婚とは言い得て妙だ。

塾が神童の出会いの場であるのは間違いない。こんなケースがある。こちらはばっちり実名で紹介できる。

1996年、駒場東邦高校から現役で東大理Ⅲに合格した菅心さん。鉄緑会出身で、現在は精神科医。合格体験記では彼女と楽しそうな受験生活を送っている(結婚までに至ったかは定かではない)。

「僕には高3の春くらいから鉄緑会仲間の彼女と付き合うようになったことが大変プラスになったと思います。ガリ勉タイプで人を寄せ付けない雰囲気の僕に対し、彼女は明るく、友人との付き合いも多い社交家タイプ。受験生の恋愛はご法度という意見もあるでしょうが、本人たちがしっかり支え合って学力なども落ちないようであれば、周囲はじっと見守ればいいと思います。『どちらか一方が浪人してもうまくいかなくなる』と本人たちなりに必死に努力しあっているのですから。幸いにも彼女も東大文Ⅰに合格できてほっとしています」(『天才たちのメッセージ 東大理Ⅲ1996』、データハウス)。

互いに教え合う学生

親の収入や教育レベルが似ているため、神童同士の距離は最初から既に近いのかもしれない。

Wayne0216/Shutterstock

神童を再生産する仕組み

さて、大輔さん、由香さんのラブストーリーには続きがある。由香さんが話す。

「息子は開成中学に通っています。中学受験ではSAPIXにお世話になりました。今、息子には仲の良い女友達がいます。SAPIXで知り合った桜蔭の生徒です。今度、家に連れてくるそうです。私たちと同じ運命をたどるとしたら、ちょっと気持ち悪い」

息子と女友達はやがて鉄緑会に入り、東大に進んで、そして結婚という両親が歩んだ道をそのまま進むかもしれない。まあ、確かに気持ち悪い。

神童が再生産されるシステムに進学塾が大きく関わっている、という現実は見逃せない。

東大合格者は子ども時代、神童と呼ばれた経験がある者は少なくないだろう。彼らの合格体験記を読むと、親が東大というケースがたくさん出てくる。統計的な裏付けはないが、その神童ぶりが子どもに受け継がれたという言い方はできる。地頭が良いと呼ばれる、生まれ持っての才能の継承といえようが、もう1つ大きな要素がある。教育環境だ。

親の会話の知的レベルがやたら高い、親が子に森羅万象の難解なテーマを解きほぐしてくれる、家には教養本や専門書が溢れている、などだ。実際、そんな教育環境で育った神童は多い。親が神童だったから、ということもあろう。

しかし、そうでないケースもある。神童でなかった親がこうした神童環境を頑張って作ってしまうことだ。神童環境がその子どもの個性にぴったり合えば、神童が育つことはある。「親は高卒で普通の会社員」という開成、桜蔭の生徒がたまに見られる。「トンビが鷹になるように」育てたということか。

であるならば、家庭環境と塾が整えば、誰でも神童になれるチャンスはある、とも言える。もっとも、親がわが子に神童となることを強く望むあまり、行き過ぎると教育モンスターペアレンツになり、子どもをつぶしてしまう危険性もはらむ。子どもの個性、能力の見極めは必要だ。自分たちがSAPIX婚、鉄緑婚でなくても、わが子が神童となるチャンスはある。願わくば、そんな神童は大人になって世のため、人のために役立ってほしい。今のダメな日本を救ってほしい。そんな思いを込めて、神童たちを追いかけてみた。

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