「 総合職で内定をもらったが、親に頼まれて『エリア限定職』に」「親しかロールモデルはいない」—— 。
若年層と子育て家庭が交流する「家族留学」事業を手がけるmanma(東京都豊島区)が、就活生や社会人1年目の20代前半の女性を対象にヒアリング調査を行った「女子大生のキャリア思考分類プロジェクト」によると、仕事と家庭の両立志向は強いものの、専業主婦の多い母親世代の影響も色濃く、価値観の狭間で揺れ動く様子が浮かび上がってきた。バリキャリか主婦かの二択だった母親世代の呪縛を脱した「理想の中間モデル」が求められているといえそうだ。
20代女性はなぜ、不安なのか。
撮影:今村拓馬
出産後も辞めない、強い両立志向
プロジェクトでは、manma 独自の分類手法を使って、調査対象者約100人のヒアリング結果を元に、本人が描く将来像における仕事と家庭のバランス から
① キャリア優先型…仕事7割以上
② バランス上昇志向型…仕事6〜7割 家庭3〜4割
③ バランスそこそこ型…仕事5割 家庭5割
④ 家族優先型…仕事3〜4割 家庭6〜7割
⑤ 一時専業主婦希望型…家庭7割以上
の5タイプに分類した。ヒアリングを担当するmanmaメンバーも学生や院生だ。
manmaによるキャリア志向性の分類。
その結果、仕事の優先度がもっとも高いキャリア優先型と、半々のバランスを求めるバランスそこそこ型が拮抗。次にやや仕事寄りのバランス上昇志向型が続き、比重はそれぞれながらも、出産離職をせずに仕事を続ける両立思考が大多数を占めた。
女子大生や社会人1年目の20代女性のキャリア志向を分類した。
manma調査をもとに作成
注目すべきは、両立志向の層に強い不安感だ。manmaが行った別の調査でも、不安に感じることとして8割が「仕事と子育ての両立」を挙げた。そこを踏まえた今回調査でも、仕事と家庭を両立するイメージを持てない不安が吐露される。
まず、仕事を続けながら「家族との時間の作り方」が描けないという声が目立つ。
「キャリアで成長していくのと、子どもを育てる時期がかぶっちゃう」(キャリア優先型)
「仕事と両立させながら家族との時間がつくれるか不安。激務だと難しいし…」(バランス上昇志向型、21歳学生)。
育児休業の取得が前提という女性が多いものの、その後の働き方はモヤモヤしているようだ。
「営業の人が育休をきっかけに内勤になったなどと聞く。復職後、同じような仕事をさせてもらえるか不安」(キャリア優先型、22歳学生)
「キャリアアップしようと思うと転勤が心配…」(バランス上昇志向型)
「仕事のために家族を犠牲にしたくない。でも、仕事でできることを増やしたい。活躍したい」(バランス上昇志向型、22歳学生)
「仕事は続けていきたいけれど、旦那が転勤になったらどうしよう。自分も転勤のある仕事だったらどうしよう。家族は一緒にいたほうがいいと思う」(家族優先型、23歳大学院生)
管理職に「ぜひなりたい」層は3割弱にとどまるが、「環境があり求められればなる」という層も含めると、半数は「潜在的には管理職志向」ともいえる。ここでもやはり、プライベートとのバランスが問題となっている。
「子どもに支障がなければ、管理職になっても問題ない。管理職になるために、出張や転勤があると思うと嫌」(バランス上昇志向型、22歳学生)
「上の世代は、役職が上がっているのはだいたい子どもがいないか、両立していてもパワフルな人」(キャリア優先型、25歳学生)
母親世代は主婦かパート
manmaでは、ヒアリング対象者たちに、母親のキャリアについても聞いている。
その結果、対象者の母親たちは、出産後は専業主婦や、パートで復職といった層が大半で、正社員継続就業者が3割にとどまっていることが明らかになった。
ヒアリング対象者の母親世代は出産で離職した層が多数派だ。
manma調査をもとに作成
社会人と接する機会が限られている学生は、母親やその周辺の女性によって女性像がつくられがちだ。ただ、その年代に両立モデルが少ないことも不安感には影響していそうだ。
ロールモデルの不在については、タイプを問わず声が多い。
「自分の親しかロールモデルを知らない」
「実際のことを語ってくれる人に会いたい」
「企業訪問ではほとんど男性が出てくる」
「OB/OG訪問では子育て中の(女性)社員に会えなかった」
仕事と家庭の両立志向が強い20代前半の女性が、「ロールモデル不在」の不安に陥るのは、無理もないかもしれない。
この層の母親世代を、おおよそ40代後半から60歳前後くらいと推定すると、1980年代から1990年代にかけて社会人や出産を経験したと考えられる。1986年には男女雇用機会均等法が施行されたが、その年代で出産後も仕事を継続した層は少ない。仕事で昇進している女性は、独身か結婚しても子どもをもたないか、子どもがいても親やシッターをフル活用した人が多い。つまり、主婦かバリキャリかの2択を迫られた世代だ。
母親世代から娘世代へ、日本女性を取り巻く環境は大きく変わっている。育児期に女性の労働力率の下がるM字カーブの底は、20年前で54.8%だったのが、2016年では71.8%と、育児期にも何らかのかたちで働き続ける女性が多数派となっている(2017年版男女共同参画白書より)。
1990年代半ばには共働き世帯の数が専業主婦世帯を追い抜き、2016年では6割超が共働き世帯だ。 育児・介護休業法で短時間勤務制度の導入が義務化されたのは2009年で、ヒアリング対象の女子学生たちの母親世代は、使ったこともない。
共働き世帯と専業主婦世帯の数の推移
出典:労働政策研究・研修機構
不安女子への処方箋は
母親世代と現在の女子学生を取り巻く環境があまりに激変していることから、「今の時代にフィットしたロールモデル」が、不在のように写っている可能性はある。
人口減少社会で人手不足が今後ますます深刻化する中、働き続けたい女性へのサポートは必須といえる。打つ手はあるのか。
manmaの新居日南恵CEOは調査を振り返り、「 これまでの女性活躍というと、30代以降の管理職候補に対して研修を行うイメージが強い。 しかし、入社の時点ですでに、両立への不安感から挑戦心が阻害されていたり、女性であることを理由に早い段階から管理職を諦めていたりすることがわかる」とみる。
家事育児を分担しながら共働き家庭を回す年代の社員との接触を増やすなど、「女性活躍というのなら、 早急に若い世代の女性の支援に取り組まなければ、10年後も20年後も、今と変わらない未来が待っている」と指摘。身近なロールモデルの不在にモヤモヤを抱える、20代前半の不安解消に企業も取り組む必要性を、提唱している。