TEDカンファレンスに登壇した新井紀子氏。
TED Conference/Flickr
AI(人工知能)は、まだ真意や感情を理解できない。だが、17世紀の海運業について、よくできたエッセイを書くことはできる。
AI研究者の新井紀子氏は、今年4月に開催されたTEDカンファレンスで「東ロボくん」を紹介した。東ロボくんは、東大合格を目指して開発されたロボットだ。
東ロボくんは、センター試験模試で、東大の合格圏には届かなかったものの、受験者の80%を上回る成績を残した。
しかし、この結果は喜ばしいことではなく、新井氏は「むしろ、不安をおぼえた」と語った。
AIやロボットは、まず製造業やスキルを必要としない仕事を人に代わって行い、やがてはホワイトカラーの専門職も代替するといわれている。新井氏は、世界中の職場で、膨大な数の仕事がAIやロボットに代替されるとするデータや調査結果は、教育に問題があることの現れだと考えている。
学生たちが学習から意味を見い出さず、ただ答えを解いていく姿は、まるで東ロボくんのようだと新井氏は述べた。彼らは事実を丸呑みし、理解することなしに、答案の上に吐き出す。
問題は、東ロボくんや他のAIが、記憶力や認識力において人間を超える日がいつか必ずやってくるということだ。人間の脳は、データの記録やチェックでは、コンピューターに決して勝つことはできない。
人間は、パターン認識、クリエイティブなこと、そして問題解決に優れている。人間は文字を読み、理解できる。コンピューターにはできない、と新井氏はTEDの中で繰り返し述べた。少なくとも、今は。
時々、東ロボくんはミスをした。150億の例文を記憶しているが、東ロボくんは、子どもにも解ける選択問題の意味を理解できなかった。しかし新井氏がその後に行った実験では、中学生の3分1が、簡単な読解問題を解くことができなかった。
「だから我々は、新しいタイプの教育について考えなければならない」と新井氏は語った。ただ事実を教え込むのではなく、子どもたちがそれらを分析し、批判的思考で捉えられるようにしなければならない。
「人間がいかにAIと共存していくかについて、我々は注意深く考えなければならない、しかも確かな事実をベースに。だが同時に、急がなければならない。時間はない」
TEDトークの動画は、US版で。
[原文:A robot did better than 80% of students on the University of Tokyo entrance exam]
(翻訳:忍足 亜輝)