生産性向上と働き方改革がメンタル疾患増の一因に——昭和型でないコミュ対策とは?

業界を超えて、過重労働による自殺が社会問題化している。報道の中心にあるのは五輪開催を控えて人材不足が深刻な建設業界、ECの影響で取引量が急増している物流業界、長らく長時間労働が指摘されてきた広告などメディア業界、医師・教師といった専門職であるが、これらに限らず、「他人事ではない」と危機感を抱いている人は多いはずだ。

ビル群

長時間労働など働き方改革の影で見失われているものは何か。

撮影:今村拓馬

特に管理職であれば、担当するメンバーの不調に気付かないまま、メンタル疾患による休職・退職に追い込むようなリスクは何としても避けたいもの。しかし、実は今の働き方そのものが、社員のメンタル疾患リスクを高めやすい環境にあるのだと専門家は指摘する。

リモートワークは不調に気付きにくい

大室正志医師

産業医の大室さんは、今の仕事の進め方にもメンタルヘルス増加の一因があるという。

撮影:滝川麻衣子

30社以上の産業医として、企業の実態に詳しい医師の大室正志さんは言う。

「現在はプロジェクトベースで仕事が組み立てられることが多く、社内の人間関係も広く浅いものになっている。契約型雇用が増え、数年単位で一緒に働く顔触れは総入れ替わりすることもざら。上司と部下の1対1の関係性を蓄積しづらくなっている現状は、『不調に気付きにくい労務環境』につながっている」

働き方改革の手法として推奨される「リモートワーク」も、対面コミュニケーションの機会を減らす一因になっている。

ネットを介したさまざまな情報共有ツールも業務連絡目的では効果がある一方で、「人間関係のコンタクトを補うものにはなっていない」と指摘するのは、会社員向けの相談実績もある一般社団法人日本精神科看護協会会長の末安民生さんだ。

末安氏

末安さんは、コミュニケーションの目的を見失ってはいけないという。

撮影:宮田昌彦

「人は“見守られ感”で安心するが、現状のネットツールではどうしても“監視されている感”のほうが強い。

コミュニケーションが目的化しているが、そもそも何のためにコミュニケーションするかという意識が希薄になっている。『この職場に自分の居場所はある』と感じられる安心感が、仕事で結果を出す上での基盤であるはず」

失われるトラブル耐性を育てる土壌

さらに、上司が部下を指導できる“範囲”の変化も、メンタル疾患のリスク増に関係しているのではと大室さんは指摘する。

うつなどメンタル疾患の原因としては業務の「量」に目が向きがちだが、実は仕事を介した人間関係の築き方など、コミュニケーションの癖そのものが原因になっていることも多いという。

「昔であれば、『お前はいつも後ろ向きに考えすぎるんだよ』などと上司が部下の性格まで指導することができたが、今は“パワハラ”になるので性格まで踏み込めない。日中の叱責をフォローする飲みニュケーションの機会も減った。結果、トラブル耐性を育てる土壌が失われ、業務量の多少にかかわらず、メンタル不調を訴える若手社員が増えている」(大室さん)

「昭和に戻らない」コミュニケーション対策とは

生産性アップの名の下に促進される業務効率化やコンプライアンス意識の向上の陰で、実は増大しているかもしれない職場のメンタル疾患リスク。

かといって、労働力確保のための働き方改革は待ったなしであり、「昭和のコミュニケーションを復活しよう」というのも非現実的である。

「ITツールありきの暮らしはすでに社会全体が共有している文化となっている。この新しい生活文化の中でも可能となる予防策は何か。私たちができる現実的な手段を見つけるしかない」(末安さん)

14日公開予定の後編では、管理職なら知っておきたいメンタル疾患の兆候の見つけ方、声を掛ける際の注意点、一時療養して復職したスタッフへのサポート法など具体策を紹介する。

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