「AIが仕事の相棒」の世界はリアルな現実だ —— ヒアリ判別するAIから観客の満足度推定まで、マイクロソフトがデモ

Japan Partner Conferenceに登壇する日本マイクロソフト平野社長

Japan Partner Conferenceに登壇する日本マイクロソフト平野社長。

マイクロソフトのディープラーニング関連の取り組みが2017年、加速している。これまでも、アメリカのIT大手4社、Google、Amazon、Microsoft、Facebookは、それぞれディープラーニング(深層学習)に独自に取り組んできた。

そのなかでマイクロソフトの立ち位置は、独自の深層学習フレームワーク「CNTK」(コグニティブ・ツール・キット=Cognitive Tool Kit)を持ちながらも、フレームワークとしてはグーグルに大きく差をつけられ、深層学習の開発者コミュニティーでは、いまひとつ目立たない存在だったのは否めない。

そのマイクロソフトがここへきて、深層学習へのコミットを一気に高めている。

9月1日に開催されたマイクロソフトのパートナーを迎えた自社イベント「Japan Partner Conference 2017 Tokyo」では、2.5時間の基調講演の後半約3分の1を先進技術のデモだった。そこでの2大テーマの1つが、リアルタイムデモを実施したディープラーニングだった。

同カンファレンスでディープラーニングの応用例として見せた3つのデモは、興味深い。1つめは、事前学習ゼロで「ヒアリの外見の特徴」をAIに学習させ、判別させるというもの。


プロトタイピングした「ヒアリを判別するAI」

プロトタイピングした「ヒアリを判別するAI」をBot化してLINEで動かしたところ。写真を撮って送るとBotが「ヒアリかどうか」の可能性をパーセンテージで回答する仕組みだ。


エンジニアの技術遊びの延長線上のノリながら、「ヒアリとは何なのか?」の定義を人間は一切設定せず(ルール化せず)判別する。その場でヒアリの写真を検索して、学習済みAIに読み込ませるだけ。深層学習ならではの「AIが特徴を勝手に学習する」という特性を使ったわかりやすいデモだった(同デモでは、写真だけでは「大きさ」の認知ができない、という写真ベースの判別技術の限界も率直に語っていた。とはいえ技術デモであることを考えれば十分だ)。

2つめはエイベックスとのコラボで、マイクロソフトAzureの感情認識技術(Emotion API)を使って、アーティストグループ「lol」のライブの観客満足度を数値評価(!)しようというもの。具体的には、ライブや物販の様子をカメラで撮影して、観客一人一人の感情分析をする。

パートナーカンファレンスに登壇したエイベックスの加藤氏。

パートナーカンファレンスに登壇したエイベックスの加藤氏。lolのライブでの実証実験の意図について語った。

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取得したデータを分析したところ。性別の属性、時間帯による感情(≒満足度)など、すべてはカメラがとらえた映像をAI(マイクロソフトのEmotion APIなど)が解析して、数値化している。

ライブ中の感情の推移

ライブ中の感情データの推移。時系列のデータに演目を重ね合わせると、客観的なデータとして、その演目の際の観客の感情が把握できる。これらはほぼリアルタイムの解析も可能になっている。

セットリストと感情解析を重ね合わせた

楽曲のセットリストと感情解析を重ね合わせたデータ。

たとえば、ライブで演奏するセットリストに合わせて時系列で感情評価の結果を並べると、ライブのどこが盛り上がっているのかが詳細に分析できるという。これによって、従来はプロモーターの勘に頼っていた「興行の盛り上がり度」「ファンの楽しみの最大化」を、システム化しようという試みだ。

エイベックスとしては技術が確立できれば、将来的に「興行のAI技術」として外販していく意向があるという(3つめのデモは、乃木坂46や昨年末に大ヒットしたドラマ『逃げ恥』のPVを顔認識で判別させるという内容だった。映像公開は権利の関係でNGなのでここでは割愛する)。

エイベックスとの共同実証実験は、計算資源やカメラ機材のコストが現実的なのかが気になるところだ。マイクロソフトの担当者によると、カメラは市販の監視カメラレベルのもので十分で(実証実験の会場は1000人弱規模)、「カメラのレンタル代、計算資源のコストも含めて、実コストは数十万円規模で済んだ」という。

感情分析用のステージカメラ

ステージ上部に設置されたカメラ。一般的な監視カメラで、特殊なハードウェアではない。

物販売り場のカメラ

物販売り場のカメラ。同じく特殊なものではないとのこと。

システム構築にかかった時間が極めて短時間だったのも特徴的だ。話が進み始めてから実証実験の開始まではわずか1カ月。マイクロソフトによると、実際にシステム構築(プログラミングやテストなど)にかかった時間は2週間程度だという。もちろん、このスピードで開発できるのは、学習済みAIをマイクロソフトが「コグニティブサービス」としてAPI提供しているからだが、「AIを使ったサービスを誰でも、すぐに開発できる世界観とはこういうものだ」という良い例でもある。

AIの産業化を支援する開発者コミュニティーも発足

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第3回Deep Learning Lab

第3回Deep Learning Labの風景。参加登録260名、会場もほぼ席が埋まる盛況ぶりだった。

マイクロソフトはこうしたAI強化の動きにあわせて、深層学習の開発者コミュニティ活動にも本腰を入れ始めた。同社のほか、国産の深層学習フレームワーク「Chainer」を開発するプリファードネットワークス(PFN)、UEI、キカガクら7社で共同運営する深層学習開発者コミュニティー「Deep Learning Lab」(ディープラーニングラボ)だ。同コミュニティーは、回を重ねるごとに参加者が増え、先日の第3回では300人規模のイベントになった。

第3回では、PFNの丸山宏CSOによる「AIの知財権議論の最新動向」や、UEI清水氏による「統合国際人工知能学会"IJCAI 2017"(IJCAI=イチカイ、と読むとのこと)報告」、PFNの分散処理して大幅に高速化する深層学習フレームワーク「Chainer MN正式版リリース」解説など、深層学習の産業化に向けた盛り上がりを感じさせるイベントだった。

DeepLearning Labは今後、9月13日の福岡開催を皮切りに、大阪、名古屋、札幌と主要都市に全国展開した開発者交流イベントを開始する。

ベンチャー、大企業、AIをめぐるそれぞれの思惑

日本マイクロソフトの平野社長は、7月からはじまった新しい会計年度(2018年度)の経営方針説明会で、同社の3つの注力分野を支える技術として、AIや分散協調型コンピューティングによる「インテリジェントクラウド」を掲げている。

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ヒアリを判別させるAIのデモに象徴されるような「AI推進体制のアピール」や、機械学習のプログラミング教育を手がけるベンチャー(KIKAGAKUやUEI)らとともに行う深層学習の「人材育成プログラム」や、先ほどのDeep Learning Labの共催なども、この方針を推進するためのもの、ということになる。

日本マイクロソフトの田丸氏と廣野氏

左から、田丸健三郎氏(業務執行役員・ナショナルテクノロジーオフィサー)と廣野淳平氏(深層学習パートナー担当)。マイクロソフトとしての目標は偶然なのか経産省の試算の2020年に不足するAI人材数と同じ「5万人」(2020年達成目標)だ。

マイクロソフトの国内におけるAI展開、特にコミュニティー支援においては、田丸健三郎氏(業務執行役員・ナショナルテクノロジーオフィサー)と廣野淳平氏(深層学習パートナー担当)がキーパーソンだ。彼らは7月、Business Insiderの取材に対し、「いま深層学習といえば研究者や一部の開発者だけのものになっている。AIの価値をありとあらゆる人に届けられるようにする、"人工知能の民主化"(Democratizing AI)を推進したい」と語っていた。

経済産業省が2016年に公表した試算によると、2020年には国内のAI人材の「不足数」は2016年の約1.5万人から、約4.8万人にもなるという。その一方で、(個々人の実績は別として)日本の深層学習関連の研究者の存在感は、国際的な学会でも著しく希薄だ、という指摘もある。

台頭してきているのは、国を挙げて深層学習に力を注ぐ中国だ。第3回Deep Learning Labの清水氏のセッションで語られた、メルボルンで8月に開催され人工知能学会で最も権威のあるIJCAIの参加・出展状況がそれを端的に示している。

IJCAI2017の中国と日本のコミット状況。

IJCAI2017の中国と日本のコミット状況。権威ある学会で中国企業の出展が圧倒的で、日本はゼロ。参加者の数はほぼイコールその国における研究者の盛り上がりでもあり、研究者の数は後々の産業化など市場の盛り上がりに直結する可能性が高い。

第3回DeepLearning Labにて撮影(作成:清水亮氏)

技術力をもつベンチャー、巨大な設備投資を背景にしたクラウドインフラを持つ大企業、それぞれのステークホルダーが、自身の弱い領域を補完しながら、全体としては日本という市場に深層学習を普及させていく。この流れは、結果的に日本をベースとする多くの企業にとっても大きなメリットになるはずだ。

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Deep Learning Lab

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