決算が読めるようになると、仕事が劇的に変わるのは本当か。
Shutterstock
Business Insider Japanでは、9月16日午前9時(日本時間)から、いずれもシリコンバレー在住の米企業SearchMan(サーチマン)共同創業者であり、noteの連載「決算が読めるようになるノート」でおなじみのシバタナオキさんと、同時通訳者・関谷英里子さんによる対談ライブ「英語か決算か? ビジネスパーソン最強の教養とは」を配信する。
対談ライブを前に、「グローバル社会を生き残る仕事術」をそれぞれに聞いた。第二弾は、起業家のシバタナオキさん。
新聞より役立つ「ノート」とは
ウェブコンテンツのプラットフォームnoteで「新聞を読むより仕事に役立つ」と、開始直後の昨年1月から、瞬く間に評判になった連載がある。それが、シバタさんによる「決算が読めるようになるノート」だ。
企業が四半期ごとに発表する決算情報を材料に、シバタさんが注目する企業の経営の「今」が解き明かされる。
登場するのはアマゾンやグーグルといった、シリコンバレーの世界的大企業から、ソフトバンクやサイバーエージェント、中国のアリババなどの日本やアジアのIT企業まで、成長分野で躍進する企業の数々だ。
「数字は武器になる」と語るシバタナオキさん。
もともとは「趣味で決算を読む」というシバタさんが、考えたことをFacebookにちょこちょこ書いていたところ、評判に。一般向けに「書いたらどうか」と周囲に勧められたのが「決算が読めるようになるノート」だ。渡米8年で「日本語のリハビリの意味」もあった。
連載を始めてみて感じたのが、「決算書に並ぶ数字の羅列を、ビジネスに役立つ知識に変換するためのプロセスを知らない人が、意外に多い」ということだ。そしてこの点こそが「(決算が読めるようになるノートが)好評を頂いている理由だと思います」。
まずはやるべきたった2つのこと
とはいえ、決算書の解読は、いきなりスラスラとはいかない。シバタさんは「読み方」について、2つのポイントを示す。
基本的な数字は覚えた方がいい。
「あなたの会社の売り上げはいくら? と聞かれても、答えられない人がほとんどだと思います。Yahoo!や楽天といった著名企業の数字でも、答えられない。そういう数字は基本的に覚えた方がいいです」
数字の「なぜ?」を考える
「課題設定能力が大切と言われるように、一番、気をつけていることは『なぜこうなっているのか?』を考えることです。グーグルやアマゾンはいまだに(四半期ごとの決算で)前年同期比20%以上で売上高が伸びている。一方、Yahoo!は前年同四半期期比で1桁成長です。規模の大きなグーグルやアマゾンより成長スピードは遅い。これはなんだろうと考えながら日々生活すると、いろんなところにヒントがあったりします。
こうした決算のトレンドから、なんでこういう数字になっているんだ? なんで伸びているんだ? という課題設定をしていると、だんだんと決算が『読める』ようになると思います」
ビジネスの勘所が見えてくる
「決算が読めるようになるノート」は、7月に書籍化された。『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』の担当編集者である日経BP社の伊藤健吾さんは、こう話す。
「決算数字から、ビジネスの成長の勘所がわかるようになる点が魅力です。各ビジネスで収益を上げる指標は何で、その数字をどう解釈すれば自社の成長施策が打てるようになるかの肝が、見えてきます」
伊藤さんは、「数字には弱いし、決算も赤字か黒字か程度しか読めない人間だった」という。それでもシバタさんの「決算が読めるにようになるノート」を読み込むうちに「数字が苦手でも決算からこんなことが理解できるのか」と、目からウロコの落ちた読者のひとりだ。
書籍では、コアなシバタさんのファンからさらに読者層を広げるべく、基本からの解説にこだわったという。
業界ごとの章立ての扉ページには、
ECビジネスなら「ネット売上=取扱高×テイクレート」
広告ビジネスなら「売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)」
といった「押さえておきたい方程式」を明記。
「決算を上手に読むための10カ条」として、以下を、冒頭にまとめている。
1. 他人の家庭の「家計簿」を覗くつもりで読む
2. 必要なのは四則演算のみ
3. 決算短信ではなく、決算説明会資料から読む
4. 企業の「将来」を予測しようとする前に「過去」を正確に理解する
5. 各ビジネスの構造を数式で理解する
6. 各ビジネスの主要な数字を暗記する
7. 徹底的な因数分解で「ユニットエコノミクス」(顧客1人あたりの平均の経済性)を計算する
8. 成長率(対前年/YoY)を必ず確認する
9. 1社だけでなく、類似企業の決算も分析・比較する
10. 類似企業間の違いを説明できるようになる
(『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』より)
ハードルの高い仕事にも「Yes」と言う
シバタさんが「趣味で決算を読むくらいのマニア」となったきかっけは、最年少執行役員を務めていた楽天時代にさかのぼる。毎週月曜日、1万人の社員を集めた朝会で「先週の業界トピックス」コーナーを社長に任され、最新のネタとして決算分析を考え出した。始めた当時は25歳で、そこから約3年間。決算を読む習慣によって、筋トレのようにビジネスの基礎体力をつけていったという。
グローバル化とテクノロジーの進化が急速に進む現代を生き抜くために、ミレニアル世代が身につけるべきものは何か。
シバタさんは「一つはビジネスパーソンとしての基礎体力をつけること。決算が読めるとか、エンジニアリングが分かるとか。もう一つは専門性が“異常に”高いこと。ニッチでもいいので、例えば日本のアニメおたく市場については世界の誰よりも詳しいとか。このどちらかがあればいいし、どちらもあれば、なおいい」と話す。
その上で、シリコンバレーに来て実感するのが「NOを言わないことが大事」だ。
「こういうことができる? と言われたら、とりあえずYes。デフォルトでYes(できます)と言って、その後の(Yes,)butで条件を言えばいい」
そうやって、少しハードルの高い仕事も引き受けることを2、3年やれば「ぐっと力がつきます」。
ビジネスの基礎体力をつけるのにはうってつけの「決算を読む習慣」だが、やるべき理由はそれだけではない。
「数字はファクトなので、どんどん使うことで相手を説得することができる。若い世代や女性など、意見の通りにくい人たちが『そんなわけないだろう』と言われたら、唯一自分の意見を通す方法は、数字を積み上げて事実で説得することです。数字は嘘をつかない。日本であろうが、アメリカであろうがこれは間違いない。数字で戦えることは、武器になる」
当日は、ビジネスインサイダーのトップページから、対談ライブをお楽しみください(https://www.businessinsider.jp/)。
シバタナオキ:SearchMan共同創業者。2009年、東京大学工学系研究科博士課程修了。楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、2009年からスタンフォード大学客員研究員。2011年にシリコンバレーでSearchManを創業。noteで「決算が読めるようになるノート」を連載中。