今ネット上で「ポルカおじさん」「ポルカおばさん」なる人たちが出現している。
全く面識のない若者に、数百円単位で支援する人たちだ。なぜ、彼らはそんなことをするのだろうか。
polcaのキャッチコピーは「お金をもっとなめらかに。 お金でもっとなめらかに。お金がコミュニケーションと共にある世界を目指して。」
撮影:西山里緒
ツイッター上に突如現れた「ポルカおじさん」
polca公式ウェブサイトより。未成年者は保護者の同意が必要との利用者規定がある。
CAMPFIRE Inc.
8月10日、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を運営するCAMPFIRE社が、一風変わったサービスを発表した。フレンドファンディングサービス「polca(ポルカ)」だ。
polcaは「フレンドファンディング」の名の通り、自分が「したいこと」に対して友達から支援金を募るサービスだ。目標金額は300円から10万円まで。支援金額も300円から、と手頃。基本的に企画は公開されず、URLを友達に送ることで支援を募る仕組みになっているのも特徴だ。
運営するCAMPFIRE社の広報によると、現時点での総流通金額は約1400万円、総企画件数は約8000件、総企画支援者数は約2万3000人とのこと。
実はこのpolca、開始当初に奇妙なムーブメントが生まれ、話題となっていた。「ポルカおじさん」「ポルカおばさん」なる匿名の支援者がツイッター上に続々と登場し、見知らぬ人を支援していったのだ。今はだいぶ落ち着いたようだが、実際ツイッターを見てみると、 ポルカおじさん、ポルカおばさんというハッシュタグも存在し、その存在が確認できる(ただし、支援を乞う人々のほうが圧倒的に多いことも付記しておく)。
なぜ「ポルカおじさん・ポルカおばさん」を名乗り、見知らぬ人にお金を与えるのか?
サービス開始から1カ月経ったいま、実際のポルカおじさんを直撃してみた。
あの頃自分ができなかったことを代わりに
最初に話を聞いたのは、前田塁さん(34)だ。普段はスマートフォンの広告マーケティングなどを手がけるCyberZ社で、広告クリエイティブを担当している。
前田さんは、自称「最初にポルカおじさんを名乗り始めた男」であり、CAMPFIRE社CEOの家入一真さんから直接お礼を言われたこともあるという、元祖ポルカおじさんだ。
CyberZ社で広告クリエイティブを担当する前田塁さん。polcaだけでなく、VALUにもハマっているという。特技は料理。
撮影:西山里緒
polcaを知ったのはサービス開始直後。後述する「MacBookおじさん」がちょうどツイッターで流行っていたこともあり、面白そう、と思いすぐにアプリをダウンロード。
最初に見かけたのは中高生の企画。
「30年結婚式をしていない両親に結婚式をプレゼントしたい」「結婚する恩師のプレゼント資金を調達したい」……。
なんと素晴らしい心意気だろうと感激し、次々とポルカ。
「彼らの年代の300円と僕の300円って全然違うじゃないですか。僕が当時、やりたくてもできなかったようなことを、代わりにやってほしいなって」
前田さんには「インターネットできっかけをつかんで、夢をかなえた」原体験がある。三重県の高校生時代、携帯電話用ホームページ作成サイト・魔法のiらんどで格闘技サイトを作っていたところ、それが魔法のiらんどのムック本に載ることになったのだ。小さなことかもしれないけれど、「田舎者の自分にとっては、すごく大きな出来事だった」。
「ちょっとしたきっかけでお金が得られるって知ってほしい。もしプロジェクトが失敗したとしても、そういう経験が重要だから」
ランチ代を削ればトータル支出は増えない
前田さんの「ポルカ愛」はこれに止まらない。
なんとツイッターで「ポルカおじさんしますので、支援して欲しい人はツイッターで言ってきてください!」と公募まで始めたのだ。続々とラブレターを送った人は約20人。公序良俗に反する企画以外は全て実際に支援したというから驚きだ。その数50件ほど。1カ月で支援した総額は約2万円になった。
9月10日に前田さんが主催した、第2回polcaユーザー飲み会。参加費はpolcaで集められた。
提供:前田塁
「基本的には性善説でやってますけど、もし企画がウソだったとしてもそれは自分の責任で、自分の判断が間違ってたんだなと思うだけ」
polcaの手軽さも好きな理由だ。前田さんはクラウドファンディングもしているが、金額が大きい分支援する方も身構えてしまうという。polcaなら、仕事のトイレ休憩の間でも、さっとチェックしてすぐ支援できる。
「お金は余ってるってわけじゃないけど、毎日1000円のランチを300円にすればいいって話で、トータルの支出は変わらないんじゃないかな?」
300円という「大したことない金額」でも、似顔絵を書いてくれたり、活動報告をしてくれたり、といった反応が嬉しかったり、そこから生まれるコミュニケーションも楽しんでいる。「結局のところは自分に返ってくる」と笑う。
「いやあ、僕独身で子どももいないっすけど、『はじめてのおつかい』で泣けてきたりとかもするし。そういう歳なんっすかね?」
支援で給料使い果たす
うつ病で仕事をやめ、今は週2回のバイトとブログで稼いでいるというデラさん。写真はpolcaで支援されたお金で行った焼肉の様子。
提供:石井達也
支援される側から支援する側に転身したポルカおじさんも。
ブロガーのデラさんこと石井達也さん(25)は、「うつ病カップルに焼肉屋の肉を食わせてください!!」という企画でpolcaを通じて、8700円の資金を調達した。ブログのネタになればいいかな、くらいの軽い気持ちで始めた企画は、思いがけず優しい心で受け止められた。
そこで覚醒。ツイッターのハッシュタグを漁り、手当たり次第にポルカ。1カ月で8万円を使った。給料のほとんどを使い果たしたため、「いま税金の支払いが来てて、震えてます」という。
ポルカしたあと、すぐにコメント欄で感謝、ツイッターで感謝、支援終わった後も感謝がくる、通称「トリプルありがとうございますパターン」は神対応案件で、こういう反応がくると「最高に嬉しい」。
逆に何もお礼をしてこなかったり音信不通になってしまう人も。
「見返りを求めてるわけじゃないけど、楽しそうに過ごしているところが見たい」
自ら「クソpolca案件」も立ち上げている。
「仕事終わりにコンビニの焼き鳥と缶ビールという贅沢がしたい」「今日の昼ごはんマックのチキンクリスプ2個とコーヒーを恵んでください」「純粋に300円欲しい」……。
達成金額を500円や300円に設定すると、数秒で競い合うようにポルカされるという。
「支援しすぎちゃったのでクソpolcaで人に頼ったら、意外となんとかなるんじゃないかって」
ブロガーの間で流行する「MacBookおじさん」も
複業研究家/働き方改革コンサルタントの西村創一朗さん。ブロガー仲間に誘われてMacBookおじさんをしてみることに。
撮影:今村拓馬
実はこのポルカおじさんが流行る前、もうひとつ別のムーブメントがあった。「MacBookおじさん」だ。
7月下旬、有名ブロガーたちを中心に「若者にMacBookをプレゼントする」という企画が流行(前述のデラさんも1台、MacBookをプレゼントしている)。MacBookおじさん.com なるウェブサイトまで作られ、8月12日時点でおじさんからMacBookをもらった才能ある若者たちは22人になったという。
MacBookおじさんの一人である複業研究家の西村創一朗さんにも話を聞いてみた。
「MacBookおじさんとして希望を募ってみたら、50人くらいメッセージが来ました。10月くらいにビジコンみたいな感じで、この機会を活用して何をしようかっていうのを発表してもらう場を作って、最終的に誰にMacBookをあげるか決めようと思っています。これをイベント化すれば、もっと支援者も出てくるかもしれませんしね」
企画に乗った動機は、「シンプルに面白そう」と思ったのと、「若者に機会の提供をしたい」と感じたから。生活保護家庭に育った西村さん。生活は苦しかったが、親戚のおじさんが買って来てくれた東芝のdynabookが、インターネットに出合えたきっかけだった。自分がしてもらったことを次の世代に恩送りするペイ・フォワードを自分も実践したい、と語る。
でも、と西村さんは付け加えた。
「ここまで流行った理由は、時間とお金があるブロガーたちがバズらせるネタを見つけて面白がってやったから、っていうのが実態な気もします。でも、ソーシャル時代には、真面目一辺倒の社会貢献活動より、『面白い!』と思えるエッセンスも大切なんだと思います」