iPhone 8の裏で火花散らすグーグルvs.アマゾン AIスピーカー2大勢力 最前線

GoogleアシスタントvsAmazon Alexa

次の時代のイノベーションをつくるIT技術として期待を集めている、「AIスピーカー」とも呼ばれるスマートスピーカー。インターネットに接続し、音楽再生や検索などを話し言葉の音声で操作できるものだ。日本では8月にLINEが先行出荷を開始した「Wave」が最初の製品で、9月11日には、グーグルのスマートスピーカー「Google Home」(システムとしてはGoogleアシスタント)が来月にも日本上陸するという一部で報道された。この分野ではAmazon Echoシリーズも上陸は近いと言われている。

スマートスピーカーの各陣営はどこが優勢なのか? その縮図を9月初旬にドイツ・ベルリンで開催された家電見本市「IFA」での展示から追っていこう。

IFAで大幅に増えた各社のスマートスピーカー

ソニーのAIスピーカー「LF-S50G」

Googleアシスタント採用陣営として、ソニーは「LF-S50G」をIFA 2017で発表。イギリスで12月に発売予定で価格は200ポンド(円換算 約2万8400円)。

IFA2017では、スマートスピーカー本体、そしてその対応家電が次々に登場したことが大きな話題の一つだった。IFA 2017のプレスデーにあたる8月30日には、Amazon Alexaとマイクロソフトの音声認識・AI機能「Cortana(コルタナ)」との相互連携も発表された。

家電各社がデビューさせたスマートスピーカーは、その多くが独自技術(オリジナル)ではなく、グーグルやアマゾンなどすでにサービスを展開しているシステムに対応させたものだ。ちょうど、スマートフォンにおけるAndroid OSにあたるのが、GoogleアシスタントやAmazon Alexaと考えるとわかりやすい。たとえばソニーが今回のIFAで発表した「LF-S50G」は、Googleアシスタントを採用。またレノボも今年1月にAmazon Alexaに対応したスピーカー「Smart Assistant」を発表しており、IFAではさらに、同社のタブレットと組み合わせるとAmazon Alexa対応端末として利用できる「Home Assistant Pack」を発表している。

パナソニックのAIスピーカー

パナソニックもGoogleアシスタント対応スピーカー「GA10」を展示。2018年初めのリーリースを目指しており価格は未定。

レノボの「Home Assistant Pack」

レノボはタブレットと組み合わせることで、専用のインターフェースを表示する「Home Assistant Pack」を展示。Amazon Echoの最上位機「Echo Show」風に使えるスピーカーで、10月発売予定。価格は69.99ドル(約7500円)。

スマートスピーカーでAmazonとGoogleに「両賭け」する家電メーカー

IFAの出展社数は1800社を超えるため、そのすべてをチェックできたわけではないが、展示されていたスマートスピーカーの多くは、GoogleアシスタントもしくはAmazon Alexaという印象。そのほかのサービスはほとんどない。GoogleアシスタントとAmazon Alexaの比率は五分五分といったところだ。パナソニックやソニーといった総合家電メーカーはGoogleアシスタントを採用し、AV機器やPC、中堅メーカーはAmazon Alexaに軸足を置いた印象が強かった。

現状ではスマートスピーカー本体が採用するのはGoogleアシスタントのみ、またはAmazon Alexaのみという製品ばかりだが、モデルやブランドで分けて対応サービスの違うスマートスピーカーを発表しているメーカーもある

たとえばオンキヨーはAmazon Alexa対応の「Smart Speaker P3」とGoogleアシスタント対応の「Smart Speaker G3」を並べて展示。P3は丸みを帯びたデザインで、G3は逆に角張ったフォルムとぱっと見はまったく違って見えるが、本体上部に操作ボタンを配置するなど基本的なコンセプトは同じだ。

オンキヨーのGoogleアシスタント対応のAIスピーカー

オンキヨーのGoogleアシスタント対応端末「Smart Speaker G3」。10月下旬に欧米でリリースされ、価格は未定。

オンキヨーのAmazon Alexa対応のAIスピーカー

オンキヨーはAmazon Alexa対応のスマートスピーカー「Smart Speaker P3」も発表している。G3と同じく10月下旬に欧米で発売予定。価格は未定。

またharman/kardonは、harman/kardonブランドとしてはAmazon Alexa対応の「Allure」とWindows 10 Cortana対応の「Invoke」の2モデル。JBLブランドではGoogleアシスタント対応の「JBL Linkシリーズ」を発表している。

両対応について現地であるメーカーに質問してみたところ、GoogleアシスタントとAmazon Alexa対応のスマートスピーカーを作る場合、基本的な設計は同じとのこと。つまりソフトウエア的な対応でAmazon AlexaやGoogleアシスタントに対応させている。どちらかの製品が作れれば、もう片方のサービスに対応した製品を作るのは難しくなく、いずれ1台で両方のサービスに対応できる製品も開発できるのかもしれない。家電やAV、PCメーカーは、こういった規格争いを何度も経験してきており、どの陣営が勝ってもそれに乗っていけるよう対策はしているわけだ。

勢力強めるAmazon Alexa対応家電

スマートスピーカーはパーソナルアシスタント機能だけでなく、そのほかの家電と連携してコントロールするスマートホーム機能もポイントとなっている。このスマートホーム機能に関しては、今回のIFA会場を見る限りAmazon Alexa対応の機器ばかりで、Amazon Alexaが相当にリードしている印象だ。

スマートスピーカー対応製品の顔ぶれにも幅が出てきた。Amazon Alexaでコントロールできる家電製品はアメリカですでに発売されているが、電球やスマートロックなど、家電といっても小物が多かった。それが、今回のIFA2017では大手家電メーカーも本格的に乗りだしてきている。

ハイアールのスマートスピーカー対応冷蔵庫

ハイアールの「Linkcook series」をはじめ、冷蔵庫の高級モデルは液晶パネルを搭載したモデルが多かった。Amazon Alexa対応だ。

たとえば、中国の家電メーカーハイアールは、Amazon Alexa対応の冷蔵庫「Linkcook series」を展示。冷蔵庫の扉に大きなディスプレーを配置し、レシピやニュースなどもチェックできる機能を装備している。さらにAmazon Alexaにより庫内の温度調節などもできる。

また電動工具や自動車向け部品メーカーのボッシュもAmazon Alexa対応を進めているメーカーで、ブースではAmazon Alexa対応のロボット掃除機などを展示していた。

ボッシュもAmazon Alexa対応

ボッシュでは同社オリジナルのシステム「Bosch Smart Home」をAmazon Alexaに対応させることで、ロボット掃除機(写真左)などをコントロールできる。

アマゾン自身もIFA会場にAmazon Alexaブースを出展。対応スマートスピーカーや家電を展示すると共に、開発者向けのデベロッパーキットも展示。出展していたのが「IFA NEXT」というスタートアップ系の企業を集めたホールということもあり、多くの来場者がブースを訪れて、Amazon Alexa対応機器の開発について質問していた。

IFA2017のAmazon Alexaブース

IFAに出展していたAmazon Alexaブース。

IFA2017のAmazonブースの展示

Amazon Alexaブースでは対応製品を集めて、採用メーカーの多さをアピール。

Amazon Alexaの開発キット

Amazon Alexaの開発キットも展示し、メーカーや開発者に向けて説明していた。

すでに両対応をうたう「対応家電」も登場

一方、Googleアシスタント(Googleホーム)対応の家電製品というのはほとんど見かけなかった。そのため、このままスマートホームの分野ではAmazon Alexaがリードを広げるかのようにも見える。この判断をつけづらい状況に対応する家電メーカーの新たな動きも起こっている。Amazon Alexa&Googleホーム「両対応」という選択だ。

Amazon AlexaとGoogleホーム両対応の家電メーカーも

複数のサービスに対応した製品をアピールするメーカーも多く、スマートホームはマルチ対応の流れだ。

したたかにこの争いを見ている家電メーカーは、どちらのサービスにも対応できるような準備をしている。たとえば、以前取材をしたところでは、日本のマウスコンピューターが発表した「mouse スマートホーム」もその一例(今回のIFAには参加していない)。現時点では独自システムだが、実証テストではAmazon AlexaとGoogleホーム、そしてマイクロソフトの音声認識・AI機能「Cortana(コルタナ)」で動作。それぞれのサービスが日本でスタートすれば、すぐにでも対応できるという。

IFA会場でもマルチサービス対応をうたった展示を目にしている。いくつかのブースで質問してみたところ、家電機器側のマルチ対応自体はそんなに難しいハードルではないとのこと。Amazon Alexaであれば、「Smart Home Skills」というフレームワークが用意されており、スイッチのオン/オフや温度調節などの制御などが、開発者が自由に開発できるAPIとして公開されている。グーグルも同じく「Google Assistant SDK」が公開されているので、それぞれの仕様に合わせて実装するだけだ。

日本で勝つのはどちらの勢力か?

現状日本でサービスが始まった場合、優位なのはグーグルだと筆者は思っている。すでにAIアシスタントとしてGoogleアシスタントは、Androidスマートフォン上でサービスを開始しているからだ(家電などのコントロールはできないが)。コントロール可能な対応機器が日本に導入された場合、スマートスピーカーがなくてもスマートフォンからコントロールでき、手軽に始められる。また日本語の音声認識も早くから取り組んでおり、この点でも一日の長がある。

一方のAmazon Alexaは、日本でのスタート時にどれだけ対応家電を用意できるかがポイントになりそうだ。北米ではすでにAmazon Alexa対応のAmazon Echoシリーズが1000万台出荷されたという話もあり、照明器具やオーディオシステムなどコントロールできる対応製品も数多くリリースされている。北米での優勢な状況を日本に持ち込めれば、大きな流れにできそうだ。

なお、スマートスピーカーといえばアップルの「HomePod」も気になるが、こちらは完全に未知数だ。まだ発売前であり、開発キットの情報も公式アナウンスはない。先行発売国の1つイギリスがあるヨーロッパ圏とはいえ、IFAでは対応をうたう家電製品は見かけなかった。

アップル「HomePod」

アップルのスマートスピーカー「HomePod」。これまでの発表では、日本は初期出荷国に含まれていない。

いずれにしても、GoogleアシスタントとAmazon Alexaのふたつが先頭で競っているのは確かだ。冒頭でも書いたとおり、日本発のサービスとしてLINEも名乗りを上げているが、この差を縮めるのは簡単ではなさそうだ。IFA 2017を見る限り家電やAV機器をネットワークで管理するスマートホーム化はすでに大きな流れだが、各企業の思惑はさまざま。どこが標準になるのか、今後の推移を見守っていきたい。


中山 智:海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。

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