「アップルでは自慢できなくなった」中国で僕がiPhone8を選ぶ理由

次期iPhoneの発表を目前に控え、中国のアップルファンの見方は、欧米や日本とは少し違うかもしれない。6四半期連続販売減が続いている中国市場で輝きを取り戻せるのかも、焦点となっているからだ。世界2番目の市場で起きた、iPhoneブームの盛り上がりと失速。アップルファンの中国人大学4年生、孫坤楊さん(23)がリアルな中国人の感覚を語った。

アップルストア

2016年9月、発売されたiPhone7を買いにきた客でごったがえす北京のアップルストア。

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奨学金全額をはたいて買ったApple WatchとiPhone

僕とアップル製品の出合いは2004年。10歳のとき、北京のアップルストアでiPod miniを触った。あの商品は当時、2000元(約3万3000円)以上したと思う。子どもの僕だけでなく、大部分の大人にとっても給料をはたいて買えるかどうかという値段で、売れてもいなかった。けれど僕は、鮮やかな色と常識を超えたタッチパネルに一瞬で魅了された。ガジェットへの興味も、あの頃生まれた。

アップル製品を実際に手に入れたのは大学生になってからだ。大連の大学で日本語を専攻した僕は、日本人に中国語を教えるバイトでお金を稼ぎ、2014年に約1万元(約16万7000円)のMacBookを買った。

そして2015年、学年末の成績が学科で1位になり、8000元(約13万3000円)の奨学金を得た。迷わず、発売されたばかりのApple Watch(約2000元)と、iPhone6(約6000元)を購入した。2016年にはiPad miniも手に入れ、手元のデジタル製品は全てアップルになった。ただし、学校のレポートを書くことにはWindowsの方が向いているので、親戚からもらった2台目のMacBookを売って、Surfaceを買った。

中国でiPhoneはステータスの象徴「だった」

iPhoneが中国で販売されたのは第2世代の3Gからだ。当時のiPhoneは中国人にとって、使い勝手がよいものではなかった。特に、広く使われているメッセージツールQQがiPhone上でうまく動かなかったのは致命的だった。

iPhone4はこの問題を解決し、他社の製品とは比べ物にならない高品質のカメラを搭載して、中国人にとって魅力的な商品になったが、あまりにも高すぎた。中国には日本のように「キャリアと2年契約すれば、格安で最新機種が手に入る」仕組みもない。

大連の場合、レストランやファストフードのアルバイトの時給は10元(約160円)以下。大卒初任給は一般的に手取りで3000元前後(約5万円)。大学生の感覚でいうと、裕福な家庭の子どもが「入学祝い」で買ってもらうような特別な物だった。

ピンクのiPhone

iPhone5sではゴールド、6sではローズゴールドを持つのがステータスだった。

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iPhoneが流行するにつれ、中国スマホメーカーも急成長を始めた。消費者にとっても、メーカーにとっても「スマホ=iPhone」だったから、どのメーカーもiPhoneにそっくりのスマホを作り、買う側も性能より「iPhoneっぽさ」を求めた。iPhoneに似たスマホが市場に出回ることで、iPhoneのブランド力はさらに上昇し、本物を持つ人のステータスも高くなった

「一目で本物と分かる外観」熱狂ピークはiPhone5から6s

熱狂のピークはiPhone5から6sにかけて訪れた。指紋認証など最先端の機能を搭載していたのも人気の理由の一つだが、中国人を引き付けた最大の要素は、「一目でiPhoneと分かる外観」だったことだ。

5sでは「ゴールド」が追加され、中国人の間で「金持ちのゴールド」として、ステータスの象徴となった。6では一回り大きい「Plus」に人気が集中した。iPhone6は中国での発売が他の国より遅れた(2014年9月、日本やオーストラリアでの発売時に、転売目的の中国人がアップルストアに詰めかけたことを覚えている人もいるだろう)。

6sの人気をけん引したのは、新たに追加されたピンク(ローズゴールド)のiPhoneだった。僕の大学の同級生は、ピンクの6sPlusを買って、皆に見せるためにネックレスのように毎日首に下げていた。

この頃、多くの中国人は無理をしても最新のiPhoneを手に入れることが重要であり、「16GBか64GBか」といったようなスペック面にはさほど関心を持たなかった。

いま、中国人は使いやすさでアンドロイドを選び始めた

しかし、昨年発売されたiPhone7はそれまでの機種ほどは売れなかった。それどころか、調査会社Canalysによると、2016年のアップルの中国での出荷台数は前年比18.2%減少し、メーカー別では5位に順位を落とした。調査会社によって多少数字は異なるが、現地メーカーとの激しい競り合いで、販売が後退しているというトレンドは共通している。

インドネシアの売り場

vivoやoppo(緑のロゴ)の広告が目立つインドネシアの家電売り場。日本では無名のスマホメーカーだが、東南アジアでは存在感を増している。

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iPhoneの売れ行きが鈍っている理由の一つは、(皮肉なことに)iPhoneを持っている人が増えて、「目立つための道具」としての価値が薄れてしまったことだ。今はクラスメートの半分近くがiPhoneを使っている。

二つ目の理由としては、中国メーカーが力をつけ、中国人の使用法に合わせた機種を投入していることが挙げられる。

例えば、中国メーカーのアンドロイドスマホには、以下のような機能が搭載されている。

  • SNSアプリ微信(WeChat)の2つのアカウントを同時に起動できる機能(中国人は、仕事用、プライベート用にアカウントを分けている人が多い)
  • 画面では切れている部分まで、スクリーンショットに保存できる機能(友達に送るときに便利)
  • 自撮り写真を自動で美肌加工してくれる機能

中国メーカーだけでなく、韓国のサムスンも、中国人のかゆいところに手が届くデバイスに仕上げている。

学生を中心とした若者は、そもそも自分でiPhoneを買うだけの資金力がないから、学校の近くに店舗があって、価格が安く、デザインも良く、自分たちにとって必要な機能を搭載したoppoやvivoを選ぶ。この2メーカーはいわば学生御用達ブランドだ。

以前は、「iPhoneが買えるなら買う。買えないから仕方なく中国メーカーを買う」という考え方が圧倒的だった。しかし最近は、経済的にはiPhoneを買えるのにファーウェイやサムスンを選ぶ人が出てきた。ファーウェイは使いやすいうえに、高級ブランドとしてのイメージも浸透し、自分のセンスを示すことができる。

それでも、僕は新しいiPhoneを買うだろう

9月12日に発表される新しいiPhoneが中国で売れるかどうかは、アップルの業績を左右する大問題だ。少なくとも、僕は買う。そのために一生懸命アルバイトをしている。

アップル製品は決して安いとは言えないし、今は「最先端」でもない。しかし、より高スペックなアンドロイドデバイスより、スムーズに動く。さまざまなメーカーのデバイスに搭載される前提で開発されているアンドロイドに対し、アップルは、自社のデバイスに最適化されたソフトウエアをつくることに精力を注ぎ込める。だから、操作はスムーズで安定している。

孫さん

Apple Watchを身に着け、iPhone6を操作する孫さん。「新しいiPhoneが出たら必ず買う」

撮影:浦上早苗

もちろん、グーグルがブロックされている中国では、アンドロイドスマホの魅力は大幅に削られる。カレンダーやフォトなど、グーグルのエコシステムを利用できず、特にアプリをダウンロードするGoogle Playが使えないのは大きなマイナスと言える。

中国のアンドロイドスマホには、独自のアプリストアが搭載されているが、審査が緩いためか、低品質のアプリがあふれかえっている(もっとも、多くの中国人はグーグルを使ったことがなく、グーグルが使えない不便さを感じることもないだろう)。

新しいiPhoneを買うと明言しているのは、周囲では僕を含めて2人しかいない

しかしそれは、悲観するべきことだろうか。

今iPhoneを持っていて、アップルの写真や音楽サービスを使っている人は、買い替え時もiPhoneを選ぶだろう。iPhone6以降に初めてiPhoneを手にした中国人は多い。盲目的なブームが過ぎた今、発売と同時に買おうとする消費者は以前ほどいないかもしれないが、iPhone6ユーザーは今後買い替え期を迎える。最近中国でiPhoneが売れないのも、「次のiPhone」を待っている人が多いことの裏返しではないかと、僕は見ている。

(編集:浦上早苗)

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