4社に1社、2020年までに100万社が廃業リスク —— 未来ある“古き企業”をどう残していくのか

経営者の引退に伴い、2020年までに廃業のリスクに直面している企業は103万社に上るという試算がある。

自分の代で廃業を決める高年齢の経営者が多くいる一方、従業員や社外の人などへの事業承継や、企業の売却を考える経営者は少なくない。大廃業時代、高齢化社会の日本で、さらなる成長のシード(種)を持つ中小・零細企業の経営を次世代に引き継ぐことは、日本経済の背骨の磐石性を保つために不可欠である。

東京と富士山

仕事を引退して廃業しようとする年齢は平均で71.1歳。

REUTERS/Kimimasa Mayama

未来のある、古き企業の後継者を探し出すために、中小・零細企業を支援する人たちに話を聞いた。

国内約420万の企業のうち99.7%が中小企業であることは知られている。日本で働く従業員の総数約4000万人のうち、7割近い2784万人が中小企業で働く。

年齢ごとに国の人口を男女別に表した「人口ピラミッド」は、日本の少子高齢化を説明するのに多く用いられる見慣れたグラフだ。このピラミッドの頂点に君臨するのは、1947年〜1949年に生まれた「団塊の世代」で、1歳児人口の約2倍の216万人。そして、日本経済の背骨を作ってきた中小企業の経営者たちが多くいる。

人口ピラミッド

総務省統計局

廃業予定年齢「71.1歳」

走り続けてきた経営者が、仕事を引退して廃業しようとする年齢は平均で71.1歳だという。データの上では1949年生まれで、町工場や老舗旅館を営む平均的な創業者兼経営者であれば、事業を継ぐ後継者が見つからない場合、2年以内に廃業の選択肢を選ぶ可能性は高い。

日本政策金融公庫の調査によると、2015年末から2020年までに廃業のリスクに直面する企業は推計で103万4052社。この廃業予備軍と呼ばれる企業の数は、2021年以降は減少すると予測されるものの、人口動態の変化が中小企業大国・日本に与えるインパクトの大きさを示している。

【現経営者の引退に伴う廃業企業数・推計(日本政策金融公庫のデータから抜粋)】

2015年末〜2020年 2021年〜2025年 2026年〜2030年 2031年〜2035年
全国 1,034,052 845,471 395,540 286,851
東京 116,020 89,438 43,685 32,698
大阪 72,420 58,385 30,610 23,895
愛知 55,826 45,537 23,235 17,560
兵庫 41,097 33,960 16,813 12,481
福岡 37,461 32,698 15,892 11,404

男の子の人数が今でも大きな要因

後継者が決まっていて、後継者本人も事業承継を承諾している「決定企業」と、事業承継の意思はあるけれど、後継者が決まっていない「未定企業」を比べると、いくつかの相違点が浮かび上がってくると、日本政策金融公庫・総合研究所で主席研究員を務める村上義昭氏は言う。その代表的な違いの一つが、創業者の子どもの人数だという。

日本政策金融公庫がインターネット上で行った調査によると、男の子どもの数が「0人」である割合をみると、未定企業は36.3%で、決定企業の22.8%よりも高い。一方、女の子どもの人数については、未定企業では「0人」である割合が38.1%に対して決定企業の34.1%と、大きな差が見られない。日本では現在でも、男の子の数が事業承継の決定状況を大きく左右していることがうかがえる。

安倍首相と子どもたち

「子どもの数や性別で決まってしまうことは、社会的にあるべき姿ではない」と語る日本政策金融公庫・村上氏。

REUTERS/Toru Hanai

「子どもの数や性別で決まってしまうことは、社会的にあるべき姿ではないと思います。残るべき企業は、残すべきです。男の子が少ないことが理由で、将来性のある『未定企業』が廃業することになれば社会的損失につながるので、親族への事業承継以外の選択肢を実現できるような支援策が求められる」と、従業員が20人以下の小企業を中心に調査を行っている村上氏は語る。

中小企業M&Aの8つの課題

M&A(合併・買収)は、日本の大手企業が欧米の事業を数千億円で取得して、グローバル市場での拡大を図る方法として有効だが、中小・零細企業が事業承継を行う上でも必要不可欠の手法だ。小規模企業は中規模企業に買収されることで、事業を継続できる可能性が出てくる。その案件数や金額は増加傾向にある。しかし、その課題も多い。

佐々木真佑氏は、同じく日本政策金融公庫・創業研究所で中小企業の事業承継にまつわる問題を調査する一人。同氏は、M&Aに取り組む中小企業の実態を調査する中で、8つの課題をあげている。(『M&Aに取り組む中小企業の実態と課題』より)


  1. 相手先企業とのマッチング
  2. 企業評価
  3. 取引先との関係
  4. 売り手企業の経営不安
  5. M&Aの知識不足
  6. 売り手企業の心理不安
  7. 企業風土の違い
  8. 人事・給与・組織体系の違い

買い手としてM&Aを検討したが実現しなかった理由として、買収金額の交渉がうまくいかなかったことや、企業風土が合わなかったことに加えて、「相手企業が見つからなかった」という根本的な問題が依然としてあると、佐々木氏は話す。比較的規模の大きな会社であれば、ローカルの金融機関やM&Aの仲介会社が利用されるが、小さな会社の場合は仲介会社の採算に乗らないことが多いという。

東京の高層ビル群

中小企業にとって、買収先の企業・事業価値を評価するための費用が負担となることが多い。

REUTERS

大手企業が国内外の事業を買収する際には、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの投資銀行をフィナンシャル・アドバイザー(Financial Adviser=FA)に起用して、買収対象となる企業や事業の価値を評価するのが一般的だ。しかし、中小企業にとっては、費用面を考えると現実的ではない場合が多い。

また、M&Aを実施した中小企業の経営者を対象に日本政策金融公庫が行ったインタビュー調査によると、異なる人事や給与、組織体系を融合するための様々な取り組みがなされていて、買い手企業の経営者として、人事に関わる経営判断を大きな課題としてあげている。

佐々木氏は話す。

「中小企業の多くが成長期、安定期、成熟期を経験して、今では転換点にあります。M&Aを活用して、改めて次の成長を目指すためには、今まで行ってきた事業をどう拡大していくのか、新しい事業をどう取り込んでいくのか、これから進んでいくビジョンを考えていく必要があるのではないでしょうか」

人手不足が建設会社、運送会社、薬局、病院を動かす

中小企業のM&Aを支援するニーズはここ数年で拡大した。メガバンクや地方銀行、会計事務所などがそのサービスを拡充する一方で、日本M&Aセンターやストライクは仲介に力を入れている。

2016年に東京証券取引所に上場し、年間約70組のM&Aの仲介をするストライクの社長・荒井邦彦氏は、人口減少と高齢化がもたらす人手不足が、企業の売却と買収機会を増加させていると話す。

ストライク・荒井邦彦社長

「90歳を過ぎて、事業承継の相談をする経営者もいます」と語るストライク・荒井社長。

Business Insider Japan

例えば、工事現場の監督者やトラックドライバーが不足すれば、他社を買収することで人材を確保しようとする建設会社や運送会社が増える。また、ある地方都市で薬剤師が不足した結果、薬局を営む経営者が事業の売却を迫られたケースもある。同じく地方都市で、病院を営んできた経営者は、東京の大きな病院で医師として働く息子や娘が故郷の父の病院を継がなければ、後継者を探す決断をすると、荒井氏は話す。

「事業承継を考える時期は、人によって様々です。50代後半から60代前半にかけて考え始める経営者が多いですが、中には高齢になって、最後の最後に弊社のドアを叩く経営者も少なくないです。90歳を過ぎて、事業承継の相談をする経営者もいらっしゃいました」と荒井氏。

「中小企業のM&Aでは、金額はとても大事ですが、誰に譲るかがより重要になってくることも多いです。多くの創業者にとって、企業は人生そのものであり、育ててきた企業は時に“プライスレス”というか、価格を決めることは難しいですね」

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