ランサーズが脱クラウドソーシング宣言、実名制で単価上げる

秋好社長とデスク

ランサーズは脱クラウドソーシングサービスに舵を切ると話す秋好社長。

インターネット上でフリーランスと企業の仕事を仲介する仕組み、クラウドソーシングサービス大手のランサーズは今後、匿名のクラウドソーシングサービスから、実名で顔の見える個人(=タレント)と企業の仲介をする、“タレント”支援サービスへ主軸を移していく。秋好陽介社長が、Business Insider Japanの取材で明らかにした。

その一環として今秋、スキルの事前審査を通過した人だけが登録できる新サービスを開始。インターネットを駆使した自由な働き方は、匿名・不特定多数中心の世界から、新たなフェーズへと移行しつつある。

創業時、ネットは匿名文化だった

ランサーズがクラウドソーシングではない世界に行くというと、トヨタが自動車を作らない話のように思われるかもしれません

今でこそ「クラウドソーシングサービスの国内2大巨頭」として、もう1社のクラウドワークスと並べて語られるが、ランサーズの究極の目的はそこにはないと、秋好陽介社長はいう。

「もともと起業した当初、クラウドソーシングはうたっていませんでした。インターネットによって、いろんな人が自分らしく働ける社会を目指して会社を興した。個人と仕事をダイレクトにつなぐ仕組みをつくりたい、というのが原点です」

ただ、それには段階を踏む必要があった。創業の2008年当時と今とでは、インターネットの活用法やそこでのやりとりの信用度合いが、大きく異なる。ネットといえば、2ちゃんねるに代表されるような匿名文化の世界が主流だった。

「Amazonで本を買うのがギリギリという頃でした。クレジットカードを使ってオンライン登録するのに慣れるか慣れないか、という時期だったと思います」

単価を上げるために実名モデルへ

そんな頃に、直接会いもせず、いきなりオンラインで「通常の会社勤め以上の給料の仕事を受発注するというのは、ハードルが高かった。そこで、まずは匿名でも気軽にインターネットでマッチングするということにフォーカスしたのが、クラウドソーシングだった、という位置づけです」と秋好氏。

図を書いて説明する秋好社長

目指すのは1億総タレント社会の実現という。

創業から10年近く経過し、フェイスブックの登場も経て、今はインターネット上で実名のやりとりをする文化は醸成されつつある。ランサーズによると、広義のフリーランス人口は1122万人。ランサーズ利用企業数は23万社、累計仕事依頼件数145万件、2016年売上高は前年比60%増の21億円に達したという。

「機は熟した、と思っています。今の課題は(ランサーズが仲介する仕事の)単価を上げること。平均的な会社員以上の収入を得る仕事を提供するには、(クラウドソーシングのような)匿名で大量に人が集まるモデルだけでは難しい。そこから脱皮することを表明したい」(秋好氏)

高スキル人材とリアル展開

顔の見えない“クラウド(群衆)”からスキルの見える“タレント”へ。

4月にメディア向けに開催した戦略発表会で、ランサーズはそう掲げた。クラウドソーシングサービスからの脱皮に向けた決意表明だった。

それを具現化する2本の柱となるサービスが、

① 実名制で審査通過者のみが登録できる、フリーランスと企業の仕事仲介「ランサーズトップ」

② シェアリングエコノミー事業の「pook(プック)」

だという。

今秋開始のランサーズトップは、トップレベルのエンジニアやクリエーターを審査によって厳選。最低報酬額を設定した非公開求人案件とマッチングする。想定年収は800万円以上だ。

pookは、ライドシェアや民泊などと同様に、個人の遊休資産をシェアするマッチングの場。提供されるサービスも、パーソナルトレーンングや整体・マッサージ、カウンセリング、家事や子どもの送迎などオンラインの世界からリアルに広げている。

DeNA炎上問題という曲がり角

ランサーズのこうした事業計画の大きな立て直しの背景には、昨年末のディー・エヌ・エー(DeNA)による悪質なキュレーション(情報まとめ)メディアの大炎上問題があるとみられる。荒唐無稽な記事が量産された仕組みには、低コストでライターを集めるために、企業側がクラウドソーシングを使ったことも、明るみになった。

「継続的に速く大量に記事を書いてほしいというニーズが大きかった。(場所を取らずにインターネット上で)たくさんの人手を集められる我々のサービスが使われた面がある」と、秋好氏は認める。

クラウドソーシングの匿名性が気軽に仕事を受発注できる一方、労働力が安く買い叩かれ、プロの仕事と誰でもできる単純作業や質の悪い案件が混在するというプラットフォームとしての問題点が浮き彫りになった。クラウドソーシングサービスは、一つの曲がり角を迎えたといえる。


街中の通行人風景

1億人が自由な働き方を選べるインフラは実現するのか。

1億総タレント社会の実現

現在、ランサーズは京都大学と連携し、AIを使った個人のスキルや特性と仕事のマッチングの精度を上げる研究を進めている。高いパフォーマンスにつながる仕事のマッチングに加え、フリーランスワーカーのスキルアップや売り込みなど、プロデュースも手掛けていく方針だ。

究極的には1億総タレント社会の実現を目指したい」(秋好氏)

現状、オンラインで仕事を受ける人口が155万人程度(ランサーズの「フリーランス実態調査2017」)と試算。次の段階として、会社員が大半を占める労働力人口6600万人が利用できる「時間と場所を選ばずに個人で仕事を得られる社会インフラ」を目指す。

遥かな道のりにも見えるかもしれないが、創業時には、インターネットで仕事の受発注が完結するクラウドソーシングの普及を、誰も予想していなかった。

人口減少社会への強い危機感から、国は労働力の掘り起こしに、副業解禁や時間と場所を選ばない多様な働き方の支援に動くなど、追い風は吹いている。

「臨界点を迎えれば、働き方は大きく変わる」

そう見据えている。

(撮影:今村拓馬)

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