Jonathan Ernst/Reuters
「法律に守られる権利」を人々から取り上げたら、どういったことが起こるだろうか?
この質問は政策、法律、政治に関わるものだが、決して政治的な質問ではない。それどころか、もっと基本的な、公共の健全性に関するものだ。人々が社会で扱われる方法を根本的に変えてしまうような政策は、健康的、経済的、そのほか数値化可能なあらゆる測定基準において、その人々の健全性に大きな影響力を持っている。そして、それらについて考えを巡らせることは有意義なことだ。
現在ある証拠のすべてが、LGBT(LGBT:同性、両性を好きになる人や、性同一障害を持つなどの性的少数者)を擁護する政策が、LGBTの自殺率(特に子どもの自殺率)を下げたことを示している。また、公衆トイレ使用に関するルールなどのLGBTを標的にしたものは、それとは反対の結果を生み出していることも同様に実証されている。そういった擁護の政策をまた失くした場合に一体何が起こるのかについての実証の数は、実例が多く出ていないので、非常に少ない。
しかし今、公衆衛生の専門家たちは、この答えを見つける前代未聞の機会を与えられているかもしれない。
22日水曜日(現地時間)、ジェフ・セッションズ(Jeff Sessions)司法長官は、全米の学校に手紙を送り、オバマ政権時代の重要な成果であったLGBTの子供たちが校内でどのように扱われるべきかのガイドラインを廃止するよう通達した。ガイドラインの中では、自分が女の子だと自覚した男の子については、男子トイレや男子ロッカーの使用を強要してはいけないとなっていた。また、自分が男の子と自覚した女の子についても同様に、女子トイレや女子ロッカーの使用を強要されるべきではないとしていた。
セッションズ司法長官の手紙では、連邦政府はこれ以降、特定のスタンスは取らないと言っている。それぞれの判断は、州政府に任されることになった。
数年以内に、今回のこの動向が性的少数派の子供たちにどれくらいの影響を及ぼしたかのデータが山積みになって現れることだろう。
それまで、こういった子供たちの基本的人権の擁護について、我々が公衆衛生の研究からすでにわかっていることをここに示しておこう。
- 性同一障害の人は、すでに暴力と差別を経験している。また性同一障害の人が暴力や差別に合う確率は、男女それぞれとも性的少数派でない人と比較しても、レズビアンやゲイ、バイセクシャルの人と比較しても、非常に高い数値となっている(また、性同一障害の人は非常に高い自殺の危険性があるグループでもある)。
- 性同一障害の人で、家族や地域社会に拒絶された人は特にリスクを抱える傾向が強い。
- と同時に、社会的な援助を受けた性同一障害の人は、社会的援助を受けていない人に比べて、82%も自殺率が低い。
- 見た目ですぐに性同一障害と分かる場合は、特に日常生活における健全性のクオリティを奪われる可能性が高い。ある研究によると、性同一障害の女性が見た目をより女性的にすると、よりよい結果が得られたとしている。
- 広い意味でLGBTの人々を擁護する政策は、たとえ、自分がLGBTか判断し兼ねている若年層に直接の影響をおよぼしていない場合においても、その自殺率に対しては、直接的な影響力を持っていたとみえる。20日月曜日に公開された医療誌JAMA Pediatrics掲載の研究によれば、(連邦最高裁が同性婚は連邦で認められた法律だと決断する前の話だが)同性結婚を認める法律を制定した州は、若者の自殺率が平均で7%の減少を示していた。これはLGBTの若年層の自殺が減ったと推測できる数値だ。
また同データの別の角度からの分析で、反・LGBTのいくつかの団体による主張についても知っておくべきだろう。
「性同一障害の自殺率と差別は無関係である」2016年7月7日 ダニエル・ペイン
The Federalist
*上記の訳文:
「性同一障害の自殺率と差別は無関係である」2016年7月7日 ダニエル・ペイン
チェルシー・マニングは今週、自殺を試みた。マニングは、国家機密をウィキリークスに渡した罪で、ブラッドリー・マニングとして刑務所に送られ、その後刑務所内で男性から女性に性転換した人物である。明らかに首をつろうとしたとみられ、刑務所内の病院へと搬送された。
これは驚くにはあたらない。性同一障害の人物は非常に自殺率が高い。信用できる推測によればその数値は全体の4割以上だという。
この数値に対し、様々な説明がされているが、その中でもよく言われていることがある。つまり、これだけ多くの人々が自分たちを自殺へ追い込む理由は、「差別」「偏見」「憎しみ」に苦しめられているからだ。
「性同一障害の自殺率と差別は無関係である」というメモの中で彼ら(反・LGBTのいくつかの団体)は、性同一障害の人たちが自分たちを自殺に追い込むのは、彼らの心的欠陥によるものだ、としている。
現在の科学はこの結論を支持していない。もし、性同一障害の性質そのものが自殺の原因であるのが事実ならば、自殺率はどこでも一定でなければならない。彼らの住んでいる場所や、住んでいる地域の差別に対する政策、彼らが経験した暴力、被害体験などに一切影響されることなく、同じ比率を示すはずなのだ。
ところが、政治ブログ『Think Progress』のザック・フォード(Zack Ford)氏が指摘するとおり、性同一障害の人の自殺率がどんな環境においても同率であるという考え方は明らかに事実に反している。また、自分を女性だと自覚した男性の体を持つ人と、自分を男性だと自覚した女性の体を持つ人とでは、明らかに前者の方が自殺率が高い。その自殺率の差異は、2グループにおける暴力と差別の経験値における明らかな差異と合致する。
では、彼らを守るために作られた法律(あるいは政策)をある日、突然取り上げられた性的少数派の子供たちは一体どうなるのだろうか? わたしたちがその問いに答えたいと望むよりもずっと多くのデータが、わたしたちの前に差し出されることになるに違いない。
(ここで表現されている考えは筆者個人のものです)
source:JAMA Pediatrics、Taylor & Francis、BMC public health、NCBI、Think Progress、The Williams Institute、Plos one
[原題:Every shred of available evidence shows policies protecting LGBT people save children's lives]
(翻訳:日山加奈子)