上司は背中でなく腹を見せよ——部下がメンタル不調で潰れる前にすべきこと

Business Insider Japanでは、「働き方改革や生産性向上が推進される今の職場そのものがメンタル不調を引き起こす原因になりやすい」という専門家の分析を紹介した。

しかしながら、最悪の事態が起きてしまってからでは遅い。管理職として知っておくべき予防策とは何なのか。 まず、部下の異変のチェック法を知っておこう。30社以上の産業医を務める大室正志さんによると、チェックには3段階ある。

<部下のメンタル不調を見抜くための3ステップ>

ステップ1:業務のミスや遅延が増えていないか。

「心が疲れると脳のCPUの機能が下がる」(大室さん)

いつもは問題なくできていた業務で小さなミスが頻発する、スケジュールを守れなくなる、資料を何度読んでも内容を理解できていない様子がある……といった傾向が見られたら要注意。「最近、睡眠時間はどのくらいとっている?」など睡眠の状況から尋ねてみるといい。

ステップ2:フィジカル面で不調がないか。

「どうやら自分はうつっぽいです」とすんなりと言える人はなかなかいないが、身体面の不調であれば言いやすいし聞きやすい。食欲不振、胃腸機能低下、頭痛など、フィジカル面でのサインがメンタル不調の兆候であることは多い。

「特によくあるのは入眠障害。眠れない、寝つきが悪いといった睡眠トラブルが続くようなら、受診を勧めてほしい」(大室さん)

ステップ3:週末の過ごし方に異変はないか。

平日の仕事中に疲れた顔を見せていても、週末のオフタイムに普段どおりのリフレッシュができているようなら、それほど問題はない。注意したいのは、以前は好きだったはずの趣味でさえ楽しめなくなっているケース。「最近、サーフィンは行っているの?」などとさりげなく尋ねてみよう。

とはいえ、異変に気づいても、いきなり「ちょっと疲れていない?」とストレートに聞かず、具体的な行動レベルで質問するのがいいとアドバイスするのは、心の不調を抱えた人との接し方に詳しい一般社団法人日本精神科看護協会会長の末安民生さん。

「例えば、昼休みの時間に食べに出た様子がなければ、『今日はランチを食べていないみたいだけどどうしたの? ちなみに朝は食べてきたの?』と、一つの事実からその人の生活の全体像を聞いてください。さらに『なぜ聞くかというと、もしずっと食欲がないようなら僕が心配だから』と自身を主語にして“心配している”というメッセージを送るといいです。人は“誰かに関心を持たれる”という実感があることで救われることは多い」

このような異変は身近な先輩後輩関係にある同僚が気づくことも多い。だから、上司は普段からチーム全体に「何か異変があったら知りたいし、教えてほしい」という態度を示しておくことも重要だという。

ひたいを抑える人

部下の異変に気づくには、食事など具体的な行動について質問するのが有効。

撮影:今村拓馬

復職後は高めハードルを申告しがち

当事者への声かけの方法という面では、メンタル不調で一時休職した部下が職場に戻ってきた時のポイントも知っておきたい。 通常、業務量は人事部などとの間で調整するはずだが、当事者の気持ちとしては「使い物にならなくなったと思われたくない」という警戒心から、やや高めのハードルでの業務量を自己申告していることが少なくない。

「『休職前の6割くらいはできる』と聞いていたのに違うじゃないか」「当面は16時までと聞いていたが、もっと残れるの?」といった現実とのブレに気付いても、本人を追及しないようにしてほしい、と末安さんは言う。

「誰も自分のパフォーマンスを正確に測ることはできない。ブレや矛盾はあるものと覚悟して、“今日の時点でどのくらいできるか”から徐々に調整していく気持ちで時間をかけてほしい」

腫れ物を触るように接すると余計に本人を傷つける。

「メンタル不調で一時休職したからといって性格が変わるわけでない。ただし、他の病気やケガで休職したときと同じで、久しぶりの職場復帰はそれだけ疲れやすくなる。同僚は“慣れるまで数カ月間は疲れやすい”ということだけ理解して接すればいい。管理職なら『疲れが出てない?』『やりにくいことはない?』と1日1回は声掛けを」(大室さん)

大室さんによると、人が疲れているときにストレスを感じる2大要因は、マルチタスクと他者との連携。当面は、一人で進めて完結できる業務を一つだけ任せることから始めたい。

また、本人の不安を払拭するために有効なのは、「メンタル不調は誰にでも起こりうることで大した問題ではない」という認識を上司から伝えてあげること。

「一番効くのは上司自らの体験談も交えて自身の弱みを見せること。これからの上司は背中を見せずに腹を見せよ、と言いたい」(大室さん)

社内ランチ外交で自分を客観視して

普段から不調にならないよう、自分自身が気をつけられることもある。心と体の機能が低下すると、ネガティブ思考に陥りやすく、「自分は必要とされていない」「ここで踏ん張らないとお先真っ暗だ」と視野が狭くなる傾向も見られるという。

視野を広げ、自分を客観視する機会を持つために、大室さんは普段からの「社内ランチ外交」を勧める。

「会議などで知り合った他部署の人に声をかけてランチするだけ。会社が今どんな状況で、所属している部署以外の環境はどういうものか情報を取ることで、自分自身の立ち位置を客観視できたり、中長期的視点が持てたりするきっかけになる。体調が悪化する前に行うとよい」(大室さん)

最後に、職場のメンタル疾患リスクを減らすための大事なポイントとして末安さんが強調するのは、「管理職同士の連携」だ

「人間関係によって解決することが多いメンタル不調に関しては、1対1の上司部下の関係ではなく、組織全体でフォローし合う環境づくりが重要。『うちの部署のあいつ、最近元気ないんだ』と隣のマネジャーに相談すれば『だったら今度ちょっと声を掛けてみるよ』とサポートできる関係づくりを、トップが旗を振って促進しようとするかどうか。これが“心の健康経営”に向けての必須条件ではないでしょうか」

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